彼女の軌跡、勇者と呼ばれた人の物語

 老境を迎えてみるとあの人のことを思い出す。
あの人は大事なものを失いながら常に強く生きていた。
幼く愚かな私に惜しみなく色々な生きる道を与えてくれた。
今、あの人のことを記そうというのは私のエゴでしかない。
だがあの人の事を後世に伝えぬことこそ罪にも思える。
故に伝えよう…あの人の事を。

 私の村は山と海に挟まれたそれなりに栄えているが派手なこところもなく地味に静かなところであった。
齢八歳の私にとってこの村は退屈の象徴であり、いつか出ていくだけの場所でしかなかった。
退屈を持て余した子供にとっては村から離れた小高い丘にある小さな屋敷は冒険などするには相応しい場所だった。
親たちからあそこには行くなと言われれば子供には行けといっているようなものだ。
友人から止められつつもそこで留まるという賢さは私にはなかった。

 石垣に囲まれた石造りの小さな館。
扉をさけ裏の石垣をよじ登る。
よじ登った先は私の想像を超えた図が広がっていた。

 よく手入れされた庭には背筋がまっすぐ伸びた老婆とそして紫の皮膚に体のあちこちに棘を生やしコウモリの羽を背から生えた…その頃は全く何者か理解できなかったが後にしった魔族が対峙していた。

「やれやれ…しつこいねぇ。あたしがマユを討ったのは何十年前だい」
「何十年前でもあの御方を討った貴様を許すわけにはいかん…老いさらばえても貴様は大敵。首をいただく」
魔族の棘から稲妻が走る。

 私といえば逃げ出すこともできず魔族の根源的恐怖に縛られ固まっていた。
この老婆が吹き飛ぶとき私も死ぬのだ。

 だが、稲妻が放たれる前に魔族に光が走る。
何があったかは分からない。
老婆の手には魔法のように剣が握られておりゆっくりと魔族は2つに別れ塵となっていった。
「やれやれ…こんな小僧っ子にみられるとはね… あんたもらしてないかい! 降りておいで!」
それこそ勇者アミとよばれた…私の師匠の出会いだった
【つづく】

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