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権堂で過ごした一年間―「スナック 夜風」一周年を終えて

こんばんは。改めましてスナック 夜風の店長 / ママのハルキです。

昨年の10月14日にオープンした「スナック 夜風」ですが、早いものでグランドオープンしてから一年が経ち、10月13日と10月14日に1周年イベントを行うことができました。お越しくださった皆さんありがとうございました。

コロナ禍雪解けの不安定な時期にオープンを迎えた当店が、無事1周年を迎えることができたのは、ひとえにお近くからいつも遊びに来てくださる皆さん、遠方から長野に来るたびに顔を出してくださる皆さんのおかげです。いつもありがとうございます。

長野市・権堂に店舗を構えてからの一年間で感じたこと、今後についてをこのタイミングでまとめておこうと思います。

グランドオープンに合わせてリリースした、風音ちゃんによるインタビューはこちら。

お尻の火が消せない日々

昨年のオープン当時のことを振り返ると、8月末に長野市に引っ越し、9月1日に入社式。9月17日からプレオープンが始まり、約一ヶ月弱お店を営業しながら準備を進めて10月14日にグランドオープンという、怒涛の綱渡りスケジュールでした。初めての一人暮らしと初めてのオープン準備で、常に何かを大急ぎでやらなくていけないという、お尻にメラメラ火がついている状態なのだけれど、うまく消せないまま走っていたことを覚えています。

そんななか、9月末に長野県松本市で開催された「りんご音楽祭」への出店のお手伝いをする機会があり、これを通して一緒に出店していた「POOL SIDE」のふたりと打ち解けました。豪雨というハードなシチュエーションも、距離を縮めるのにはちょうどよかったのかもしれません。「りんご音楽祭」が終わり、権堂に戻ってからも彼らと日常的に遊ぶことで、自然と街に馴染ませてもらいました。

その頃から少しづつお尻の火は小さくなり、権堂という地に足をつけて歩き始めることができた気がします。

“街のこと”は“自分ごと”

拠点を移して変わった考え方のひとつとして、「街」のことを自分ごと化して考えるようになった点が挙げられます。前職時代、水道橋のシーシャ(水たばこ)屋「いわしくらぶ」で働いていた頃は、お店やお客さんのことは考えても水道橋という街自体のことを考える機会はありませんでした。東京では、私個人が何をしても、また何もしなくても、特に何も変わらないという感覚があったのかもしれません。

しかし、権堂に移ってからその感覚に変化があり、権堂という街のことを自分にも深く関わりのある事柄として向き合うようになりました。そう考えるようになったのは、自身が店長を務める店を持ったという個人的な役割の変化と、権堂には「街」がより良い状態になるにはどうしたらいいか真剣に考えている方が多く、その思いに共感したことが理由です。

長野オリンピックという栄光がありながら、シャッターを閉めたままのお店が増えてしまった商店街や、建物ごと閉業してしまったスナックビルを前に、自分たちがもう一度この街をおもしろくするんだ!盛り上げるんだ!という先輩や仲間たちの背中を見て、私自身もお店をやっている以上、「街」をより良くする機能の一端を担うという思いでお店に立つようになりました。

ひとり勝ちには意味がない

権堂で飲食店を営む大先輩「よし野」のマスターから言われたことで、心に刻まれた言葉があります。「おれらみたいな夜の店っていうのは一軒だけで商売してるわけじゃないんだ。一軒目があって二軒目がある。二軒目があって三軒目がある。だからお店同士の繋がりは大切だし、お互いを尊重し合い、立て合うような意識が大事なんだ。お客さんに楽しんでもらうためには、街の人間同士の足並みがバラバラじゃあダメだ」と。

当店にいらっしゃるお客さんのうち、90%くらいの方は二軒目や三軒目としてのご利用です。同時期にオープンした50mほどの距離にある「Hanten」や、アーケード内にあるカフェ&バー「MIKENEKO STAND」、言わずと知れた権堂の名店「Bird.」から来ていただくことが多いです。また、西鶴賀(権堂から東へ500mほどのエリア)の古き良き居酒屋からというコースも少なくありません。

「〇〇でおすすめしてもらって来ました」とお客さんから言われたときに、他の飲食店との繋がりを感じます。自分のお店だけじゃなくていろんなお店に行ってもらうことで、街自体を楽しんでもらおうというお店側の姿勢が、間接的に伝わってきてうれしく思います。お客さんを楽しませるというバトンを街の人間同士で渡し合い、なるべく満足して帰ってもらう。お店を営むということは、個人競技ではなく団体競技なのだと感じる瞬間です。

もちろん「この後、もう一軒くらい行きたいんですけど……」と聞かれたら、喜んでご紹介します。そんなときにマスターが私に言ってくれたことを繰り返し思い出すのです。

1周年イベントの二日目にゲストでお呼びした「NorthSouthEastWest」のコジさん

「ハレ」と「ケ」、イベントと通常営業

「ひさしぶり!」や「はじめまして!」を作れるハレの日。ゆっくりと腰を据えて「最近こんなことがあってさ〜」と話せるケの日。これは大事な二面性で、どちらが欠けていてもつまらないお店になってしまいます。ただ、コミュニケーションに重きをおくスナックという業態においては、どちらかといえばケの日の重要性が高いと感じています。

昨年の今頃はグランドオープンしたばかりということもありハレの雰囲気が強く、お客さんから感情の吐露や近況を聞くことは少なかったと記憶していますが、半年を過ぎたあたりから「最近は〜」という話が聞けるようになりました。常連さん(来店回数が2回以上のお客さん)とのコミュニケーションは、回数を経るごとにお互いの情報や会話がアーカイブされるので、より踏み込んだ話をできるようになります。手前味噌ですが、お客さんもそこに価値を見出してくれているのだと思います。

「世の中の時間の流れが早くなっている」と、私の周りの人たちは口を揃えて言います。繰り返しお会いして近況を話してもらうことは、お客さんにとってのセーブポイントになっていると考えています。起こった出来事をセーブして、また次へ。その作業により自分が一歩ずつ進んでいる実感が生まれ、ツルツル時間が滑って流れないよう錨(いかり)を定期的に下ろすことになるのではないでしょうか。個人的にはこの役割があることが、時代を超えてスナックが必要とされる理由のひとつだと思います。

ひらかれたスナックを目指して

スナックビルのテナントというものは、外から内側が見えない設計になっています。看板が煌々と光り、ズシリと重そうな扉を目の前にすると、初めての方は入るのを躊躇してしまうでしょう。物理的なところは変えられないので、扉を少しでも軽く感じてもらうためにインターネットを通して中が見えるように変えていきたいです。そのためにSNSやnoteなどを使いもっと発信しなければならないと考えています。

ケの日を大切にするため、二年目は通常営業をより充実したものに変えるために、ドリンクメニューの刷新と、フードメニューのレギュラー化を行う予定です。ドリンクメニューに関しては下記のような当店のオススメドリンクに加え、引き続き全国のユニークなお酒のメニューを充実させていきます。例えば、今春に上古町の百年長屋SANでイベントを開かせてもらった後に伺った「喜ぐち」で飲んだ「麒麟山サワー」や、先日Huuuuのメンバーで台湾を訪れた時に飲んだ、独自の製法で作られるウイスキー「KAVALAN」など。自身が旅先で出会った飲み物をラインナップにどしどし追加していきたいです。

「スナック 夜風」のオススメドリンク

・自家製ジンジャーエールサワー
善光寺門前に店舗を構える八幡屋礒五郎の「七味唐からし」を使用した、ピリリと辛い自家製ジンジャーエールシロップで作るカクテル。八角やカルダモンをたっぷりと使いボリュームのある味わいです。

・草譯(くさわけ)
「香りを飲む」をテーマに作られた、ノンアルコールでもお酒のように楽しむことができるドリンクです。ジンジャーを中心に、カルダモンやバニラ、コリアンダーシードがそれぞれの役割を持ち、上品で嫌味のない香りを生み出します。

・赤星
程よく苦味が効いた厚みのある味わいが特徴。昔から酒場好きから愛されてきたお酒です。


お近くの方にとっては自慢できるお店に、遠方の方からは権堂に来る理由のひとつになるようなお店に成長させていきたいです。そして、権堂での初めての冬に他所者である私を暖かく包んでくれたこの街の価値が、もっと認識されるようにお店を通して行動していきたいです。二度目の冬からは私から、この街の皆さんのことを少しでも暖められたらなと思っています。

スナック 夜風 河野晴紀

お写真は、最も遠方から周年イベントに駆けつけてくださった、北海道遠別町のハラちゃんに撮っていただいたものです。ありがとうございます。

PHOTO:原田啓介

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