雨はすべての輪郭を曖昧にする

「過去は尊いものね」とInstagram を寝ぼけ眼でスクロールしながらふと思いいたる。「今日はなんだか眠れない」からと、『コインロッカー・ベイビーズ』を読みながら眠りについてたものの、就寝してから1時間で目が覚めてEli Keszlerを聴きながら気持ちを沈める。Eli Keszlerは本当にマッサージを受けているみたいに音を重ねてくる。それでいてメロディーという芯がまっとうにあるからすぐに耳にとけこんでいく。

ふとした一瞬が、やけに目にやきついて離れないということがある。その断片と断片は関係がないようであるようにも見えるもの。香りをかぐとそのときの記憶がよみがえるように、一瞬のイメージは重なりあうことで、一つひとつの場面というものは、あざやかさをもってして目の前にあらわれる。

目にする事象にはタグがつけられる。「これはバッグだ」「あの交差点はバスから見るとずいぶん遠い」「脱ぎ捨てたコート」ーーそこには意図はなく、無機質さみたいなものでもあり、思って口にした言葉も実はそう思っていないなんてこともある。そんな一瞬の認識と判断と誤解ーー直感と理解の間に浮かぶものを、ぼんやりと眺めてみることは不思議なおもしろみがあるなあ、なんてことを『コインロッカー・ベイビーズ』の大好きな一節を読みながらおもいましたとさ。

雨はすべての輪郭を曖昧にする。くっきりとした影の代わりに水溜りの揺れる反射で路上を歩く者に応える。

「雨が降ると何か思い出しそうになるよね」


(最後まで読んでいただけただけで十分です…!ありがとうございます!)