僕はセキセイインコになった最終話

「少し身体を乾かしてから行こう」
 先輩セキセイはそう言いながら毛繕いをする。どんな状況でも毛繕いは大事だしな。乾いたら羽に油分をつけないといけない。太陽光が照りつける中15分程で身体が乾いてきた。今だと思い羽に油分をつけた。これで再度飛行準備は万端だ。
「そろそろ出発するか。みんな行くぞ!」
 先輩セキセイが声を張り上げる。一斉に飛び立つ。
「実は種子がたくさんある場所までもうすぐなんだよ。ああいう急な雷雨の時は無理な飛行は禁物なんだ。だから一時ストップをかけたんだよ」
「無理に飛んでもキツいだけだしな」
 鳥類にも防衛本能はある。鷹が攻めてきた時なんかも自分が勝てないと思う相手からは逃げるし、ひとたび悪天候になればこれも逃げる。自然界の生き方として逃げることも大切なことなのだ。立ち向かったところでそこに待ち構えるのは死なのだから。


 オーストラリアの広い乾燥地帯。空中から眺めていると地上は真紅の海のように見えてしまう。それはそれで美しい。所々にイネ科の植物が生えている。その種子を我々は食べながら生きるのだ。
「そろそろ降下しよう。この辺りならたくさん食べることができる」
「ああ楽しみだな行こう!」
 夕日が大地を照りつけより真紅の海と化している。セキセイの大群はダーツでもするかのように一斉に降下した。食事は本能での欲求だ。みんな食べたくて仕方ないのだ。ピヨピヨチョイチョチョチョイとインコ語の叫びが響く中、僕も降下していく。降りるとそこには自然の恵みが広がっていた。実や種子がたくさん落ちているのだ。
「おーうまいうまいこれは食がすすむな」
 皮がついている種子もあるからパキパキと音を立てながら中身を食べる。濃厚な味ではないがセキセイには合う。いくらでも食べていられる。ピッチも寄ってきて、
「わたしは食べることが楽しみなのよ。バイキングみたいで楽しいわ」
「確かにいろんな種子があるからバイキングだな」
「何も種子だけでなく、土や花、草や岩塩なんかも食べて栄養のバランスを取るようにするといいわ」
「そうか。食わず嫌いはしないで食べてみるか」
 僕はここぞとばかりにグルメを楽しんだ。人間の食より少し味気ない感じにも見えるがこれだけ食えれば充分だな。そろそろ日も沈みかけてきている。
「みんな!満足のいくまで食べきったか!そろそろ帰るぞ」
 先輩セキセイの号令で一斉に飛び立つ。さっきいた雑林地帯に戻って一夜を明かす予定だ。食後の運動にもなるし丁度いい。


セキセイの集団は雑林に戻り木の枝でリラックスをしている。食事は非常に満足だ。夫婦セキセイの子どもはどうしてるんだろうとか考えながらまもなく日没というところだ。食事も摂ったしウトウトしてきたところピッチが寄ってきた。
「ん?どうしたんだい」
「あなたなかなか馴染んでるわね」
「ああ半日共に行動していたからね。そりゃあ慣れるさ。頼もしい先輩もいるし」
「あなたよく見ると身体つきいいわね」
 すると突然僕のくちばしをつついてきた。
「何をするんだやめろよ」
 急なことで頭が回らなくなった。これはなんだ発情ってやつか?じゃれあいか?人間でいうとキスに近いものがある。こんな近くでスキンシップされるとは。いや既にその状態だからキスだなまいったよどうすればいいんだ。しかも僕は今人間ではなくセキセイインコの状態でありこんな感覚は初めてだ。だがしかし、メスに攻められ続けるのもシャクに障る。思いきって僕もつついた。
「あら急に気が変わったのかしら?」
「やるならやるそれだけだよ」
 お互いその気になってしまったからには後には引けないなと思っているとピッチが尾羽を上げた。これは明らかにその気だろう。
「いいわよ乗っかっても」
 ついあたふたしてしまう。セキセイの状態でこれは戸惑うしか表現がない。しかし経験だ何事も経験だ。やるしかねー!と思いピッチの背に乗っかった。乗っかったまでいいがその後がわからないどうすればいいんだ。
「何してるの?早くこすりなさいよ」
 こする?そうかセキセイにはブツがないんだ。ああわからんこうやればいいのか。尻を合体させるかのようにしてこすりつけた。その時全身に電撃が脳にまで走るような感覚になりなんだか気持ちよくなってしまったのだ。人間の時にも味わったかのような快楽だ。絶頂の気持ちになったその時。


 何時間経ったのだろうか僕は眠ってしまっていたようだ。意識はあるが周囲が真っ暗だ。うーんこれはなんなんだろうか夢の世界に入ったのだろうか。視界には渦のようが見えてただただグルグル回っている。その時、バサバサと何か音がするかと思ったらいきなり巨大な鷹が現れて大きなくちばしに吸い込まれた。
「うわー!!」
 僕は目が覚めた。呼吸がなんだか荒く全身が汗だくだ。ん?いつものマンションの部屋だな。ああさっきまでのことは夢だったんだなと、どれ会社に出勤しなきゃなと掛布団をよけたら……たくさんのインコの羽が落ちていた。

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