狭間第2章仮想世界

「こんにちは。あなた自殺は初めてですね」
  女性が背後に立っていた。マンションだが古い昭和の旅館のような雰囲気で何か出そうだたので、
「びっくりした。あなた誰ですか」
とつい言ってしまった。
 結んでいるが長髪の品のありそうな女性だ。状況を考えている最中に突然声をかけられたから驚いた。というより気配を全く感じなかった。生きてる方のはずはないだろうし当然か。
 数秒空気を遮断するかのように見つめてしまっていた。こんなところでめぐり逢いか。と余計な事も考えてしまう。
「ここは一体どこで、なんの建物なんですか。わけがわかりません。僕はつい先程飛び降りて死んだはずです。それなのに“この生きている感覚“はなんなのですか。それに自殺は初めてですねって」
 そう詰めるかのように聞き出すと女性はなぜか微笑んだ。
「“生きている感覚“ですか。その感覚を大事にしてください。宮野さんはまだ死んでいません」


 女性との会話に間が入ってしまった。言っている意味が分からなかった。それなら今いる環境も出来事も夢ということになる。ましてやこれが現実なら目の前にいる女性は亡霊だろう。もしそうならややこしくなる前に逃げ出したくなるのが人間だ。摩訶不思議とはこのことだ。
「どういうことですか」
 そのまま聞き返すしかなかった。どうにもこうにもなぜこの場にいるのか、ただそれだけ知りたいのだ。
「ここは仮想世界。生と死の狭間です。人間は誰もが本心から死にたいとは思っていないはずです。ここは自殺者を救うための仮想世界です」
 僕はますます意味がわからなくなってきた。自殺者を救うとはどういうことなのか。世の中の全てに絶望したから、あるいはしているから実行に移したまでなんだが。飛び降りるまでは何度も何度も考えた。
「この仮想世界で宮野さんは、天国を味わいたいですか。もしくは耐え難い地獄を味わいたいですか。いずれにしてもどちらも味わうことになるでしょう」
 また地獄を味わうとか全くもってごめんだし、胡散臭い感じもするが、ここが現実でないならこの話を飲み込んでもいいかなと。
「わかりました。僕はどうすればいいですか?」
と僕は指示を聞いた。
「一旦部屋に戻っていただいて、ベッドの上で瞳を閉じてください。それだけでいいです。」


 言われるがままに先程いた部屋に戻ることにした。この時点ではまだ半信半疑だ。夢にしては意識がはっきりしすぎているのも気味が悪い。
「この部屋もつくられた世界というわけか……」
 ついリモコンをポチポチやったり、扇風機のスイッチをカチャカチャいじくってしまった。感触はそのままだ。
 女性はついてきながらもずっと無言でいるが、まさか殺されるんだろうか。いやこれは夢だからいいんだきっと大丈夫だ。それにあれこれやっていたらモタモタするなと怒られそうだ。さっさとベッドに入ってしまおう。そのまま疲れから眠るように視界が真っ暗になった。
「ああこの感じはまた……」
 この感じとは飛び降りる直前にテレビの画面が切り替わるかのように視界が真っ暗になり包まれるようなあの時と全く同じ感覚。
 また暗闇のトンネルを通っているかのような。泳いでいると言ってもいい。ふとよぎった。
「この包まれている気配は、通路で見た女性なのだろうか。姿は全く見えないからわからんな」
 夢の中のさらに奥にある夢なんだろうか。人間の脳は宇宙のように深いな。考えていても仕方ないので朦朧とする意識の中で眠った。


 “目が覚めた“ 仰向けの状態だ。
「ん?今度は天井ではなく空だ。真っ青な空が見える」
 やや疲れを感じる重い身体を起こす。公園なんだろうか。起こした瞬間芝生の感触が突き刺さる。まず状況確認だ。
 周辺の風景を見るとやたら風車の数が目立つ。まるでオランダにいるかのような風景だな。女性の会話を思い出した。ああここは仮想世界だったなと。いくらでもリアルな状況を“何者か“が作っているんだろうな。人がいる様子はないが動物の鳴き声や、風が草木を踊らせている音なら聴こえる。他に人間の気配を感じない。死んだはずなのに旅行か面白いな。ひとまず散策しよう。





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はいよし

自分の世界観を小説にしています。よろしくお願いします。 書き物/インコ
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