僕はセキセイインコになった2話

 飛ぶことに関しては慣れれば問題はない。人間が歩くのと同じ自然体でいける。雛鳥なら飛べるまでに時間がかかるがこの身体は成鳥であり、しかも厳しい野生の世界を生き抜いている上に極めて強靭な肉体だ。
 本物の空中浮遊を楽しんでいると、インコのオアシスである水飲み場が目前に迫ってきた。
「けっこう広い池だな」
「ああそうさ。僕らは常に食事と水を求めて移動しているんだ。もちろん生きるための行動さ。それならより広く質のよさそうな水場に行きたくなるもんだろ」
 よりおいしい食事、より雰囲気のいい場所での食事、この考え方は人間と差はないのであろう。この大群で生きるために行動しているんだな。今はインコの姿だその生き様を体感してやろうではないか。


 水飲み場であるオアシスの上空までついに来た。セキセイの大群は旋回しはじめた。
 2周3周とオアシス上空をぐるぐる回る。
「早く水を飲もうよ。無駄な動きだよ」
「いやまず陸に天敵がいないかどうかを見ているんだよ。安易に着地したら蛇や虎がいるかも知れないだろ」
「なるほど警戒か」
 小鳥ならではの防衛本能だろう。警戒心はとても強いのである。数回旋回が終わったところで一斉に岸へ向かった。その速さに驚くばかりだ。それにしてもこのセキセイの群れは何かひとつの巨大な生命体のようだ。美しいシンクロは芸術そのものだ。
 岸へ降りたセキセイ達がダムの放水のような声を出しながらオアシスの水をけたたましく飲み出す。
「生き返る気分だよ。自然の水はなんでこんなにおいしいんだ」
「長距離飛行の後だからおいしいに決まっている。自然の恵みだ感謝だな」
 ここぞとばかりに水を飲む。次にこのおいしい水が飲めるかどうかという保証はない。大勢のセキセイ達が真剣な表情で荒々しく水を飲む。その姿は野生の本能そのものである。またある者は水浴びを同時にしたり、岸にある種子に食いつく者もいる。
 水がおいしいことには変わりないが飲みすぎても腹が膨れてこの後の飛行に影響が出る。ほどほどにしておこう。すると、


「どうだい?水浴びはしないのかい?昼になると気温がさらに上がるから今浴びなよ」
 先輩セキセイが楽しそうに全身を水に漬かりながら話しかけてきた。
「ああそうだな浴びておくか」
 羽を広げながら胴体を静かに水面に漬ける。水温はちょうどいい感じだ。羽をバサバサやり水をはねあげると水を感じることができて気持ちいい。
「これも生き返るな。雨水でやるのはキツいし泥水なんかもっと無理だ。オアシスは癒しの場だね」
 他の大半のセキセイはけたたましく叫びながら水を飲んでいる。その声音を聞きながら数分浴び続けた。ここは正にオアシスそのものだ。水面から上がると全身の毛がとげとげの針山のようになってしまった。鎧を纏った気分になった超人いや超鳥だなこりゃ。先輩セキセイも同じ姿になっていた。
「インコあるあるだね。外気温あるからすぐに元に戻るよ。」
「そうか」
 

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」
 すると突然たくさんのセキセイ達が声をあげながら飛び立っていく。ふと目をやると鋭い目つきの鳥が。物凄く速い飛行だ。その圧倒的な迫力に見とれていると、
「じっとしていてはダメだ!早く逃げようあれは猛禽類の鷹だ!とにかく逃げることだけを考えよう」
 楽しいはずのオアシスが殺伐の場と化す瞬間。ひとまず先輩と共に行動することにする。今日が我が身とはこのことだな逃げよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?