僕はセキセイインコになった6話

「そろそろ出発するぞみんな。種子を食いに行くぞ!」
「オー食いに行こう!」
 時間にして16時、日没は19時半くらいだから暗くなるまでまだ余裕はある。それにしても鳴き声が迫力あるな。セキセイは多い時で15万匹の大群で行動するのだから当然か。映画でも観ているかのような感覚になるが実際に今、セキセイになっているわけだしな。さっきの子育て夫婦は子を置いていくわけには行かないのでパパセキセイのミドリのみ行くことになるようだ。しっかりと狩りの目をしている。


「準備はいいか!行くぞ!」
 ドババババババババババと一斉に空へ舞う。大砲のようなものすごい音だ。
「どこまで行くんだい?」
「近くに種子がたくさんある場所があるからそこに向かう。食べたらさっきまでいた場所に戻って一夜を明かすよ」
「わかった」
 空中にいるとこのまま宇宙空間に旅立つことができるんじゃないか?という錯覚になる。体力が続く限りどこまでも行くことができるのではないかという感覚はとても素晴らしい。オーストラリアの空中ツーリングだ。人間ならサーカスやマジックショーでトリックを使ったり、飛行機やヘリコプターに乗ってしまえば空中を浮遊することができるが、本物ではない。自然体で空中にいるというこの経験はぜひ味わってもらいたい。といっても現実的に輪廻で次は鳥にでも生まれない限り不可能な話だ。
 ふと前方を見るとなにやら雲行きが怪しい。真っ黒な雲がだんだんと迫ってくるではないか。
「あの様子だとスコールだな。もう少しで着くんだが」
 先輩セキセイがぼそっとつぶやいた。急な激しい天候の変化を目の前にして飛んだ状態で受けるのは始めてだから緊張する。雷を倉ったら一発で焦げてしまいそうだから警戒しなければいけないし、突風がスコール中で最も怖い。鳥類は飛ぶために身体が軽いつくりになっている。果たして受けきれるのか?そう考えている内にゴロゴロゴロと空から怪物のような唸り声が聞こえてきた。もう来るのは時間の問題だ。
「やむを得ない。一旦陸に向かおう避難する。みんな!降下体勢をとれ!」
 セキセイの大群は一気に降下体勢を取る。くちばしが飛行機の先端のように見える。ケケケケと鳴きながら一斉に向かおうとしたところ大雨が降ってきた。
「なんだこの雨は前が見えない」
「ひとまず耐えろ。一気に降下するんだ」
「ああ」


 自然の猛威である。朝に鷹に襲われたように自然の掟で避けては通れないことなのだ。食うか食われないか野生のセキセイは常にその緊張感がある。自然の猛威は人間ですら勝てないこともある。大震災にしろ土砂崩れにしろこれらはもしかしたら鳥類なら飛んで逃げ切ることができるかも知れないが。
 とにかくダムをひっくり返したような大雨が体力をうばっていく。羽も濡れて油分がなくなり水分で重くなり飛行能力も落ちてるような感覚でしんどいから早く陸へ。おっあの木でいいか。
 枝に止まりスコールが止むのを待つしかない。葉が傘の役割になってはいるが全ての雨粒を防ぐことはできない、ひたすら耐えるしかないのだ。ゴロゴロと雷の音がより油断できない状態にさせる。
「そんなに長く降らないから大丈夫だよ。むしろこういう雨も必要だよ。オアシスに水を恵み、今から食べにいく種子も育つには水が必要なんだ」
「むしろ雨雲を追いかけながら移動しないと水や食に恵まれないってことにもなるね」
 話をしている内に自然の雄叫びスコールは通りすぎていった。身体はズブ濡れだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?