僕はセキセイインコになった5話

 巣から仲良く出てきたセキセイ夫婦、1羽はすぐに巣の中に戻っていった。どういうことだろう。
「今戻っていったのはママよ。ダンナを見送って戻っていったのよ」
「やっぱり子育てか。」
「そうよ」
 パパセキセイはそのまま仁王立ちみたいな姿勢でその場に堂々と立っている。これは敵が巣を襲ってこないか見張るためだな。巣の中ではママセキセイが子を温めているのだろう。まだ卵の状態で孵化していない可能性もあるが。
 巣の中を覗いてみたい気持ちになったがそんな事をしたらセキセイ夫婦に怒鳴られてしまう。現にパパセキセイが見張りをしているから止められてしまう。
「なー夫婦のところに行ってみないか?」
「えっそんなことをしたら怒られちゃうわよ」
「それでもいいさ行こう」
 ピッチの意見を押して切って向こう側の木へ飛び立った。向こう側の木に近づくとパパセキセイが威嚇をしてきた。羽をわしわししながらくちばしをパクパクさせている。今にも乱れ突きをしてきそうな雰囲気だ。
「おーい大丈夫だよ。巣の中は覗かないよ話を聞きたいだけだ」
 まずは話をしようという素振りで僕は近づいた。そして枝につかまりパパセキセイのところまで来た。
「子育てについて話を聞きたいだけさそんなに怒らなくてもいいじゃないか」
 すると表情が穏やかになり威嚇が止まった。
「子育てについてか?ああ悪かったね僕はミドリ、最近卵から子が孵化してね今中で温めているところなんだよ」
 話をすればわかることもあるとはこのことだな。攻撃をしてくる様子はなさそうだから話を聞くか。ピッチが、
「忙しそうだから手短にするのよ」
と言ってきた。まあそれはわかるけど。


「生まれてから何日経ったんだい?あと何匹生まれたの?」
「3匹いて10日は経ったよ。ちょうど毛もしっかり生えてきた頃さ」
「順調のようだねめでたい!」
 祝福の言葉を投げておいた。本当に今セキセイ夫婦にとっては忙しい時期だろう。確かに巣の中からピロロロロロとまだ弱々しい鳴き声が聞こえてくる。チョイ!とかピーと鳴けるようになるまでまだ先だな。今上空を飛んでいるセキセイ成鳥の鳴き方とは全く違う。
「ほら本当に大事で大変な時なんだから邪魔しちゃダメなのよ」
「ピッチわかってるって。でミドリ巣の中を覗いていいか?」
「あたしの話聞いてんのかしら」
 ミドリは驚いた顔をした。それはそうだろう全くの他人(他鳥)が急に来て図々しく家の中を覗こうとするのだから。だがこんな体験はそうそうできない。なんとしても覗きたいのだ。
「これは驚いたよ。仕方ない僕が付き添いの上で巣の中に入らないことを条件に見てもいいよ。ママ!お客さんだ少しだけいいか?」
 合図を出すかのようにミドリは鳴いた。
「ありがとう。ではさっそく」
 ゆっくり巣の入口へ近づく。どんどん鳴き声が響いてくる。保育園のひとコマを思い浮かんでしまうな。 
「こんにちはー!」
「うわっなんなのあなた!」
 ママセキセイが驚き、連鎖するように子ども達もびっくりしてしまったようだ。家の中がパニックになった。ギャアギャア鳴いてしまい頭に響く。
「何してんのよだから言ったじゃない」
「しまった……」
 ミドリが勢いよく巣の中に入った。子ども達に駆け寄り何やら口移しをしている。
 ピロロロロロピロロロロロと鳴き方が変わった。
「今パパが食事を与えてなだめたのよ。気の利くパパみたいでよかったわ」
「ああ悪かったよ僕もびっくりした。ごめんなさいね驚かせて」
 落ち着かせてミドリが戻ってきた。 
「いいんだ大丈夫。こういうこともあるもんだと教育になったよ」
 ずいぶんと大人なセキセイだなと感じた。巣の中の子ども達は確かにすくすく育っているようだな。1ヶ月もすれば飛べるようになるはずだし、2ヶ月もすればツヤのいい毛並みで立派なセキセイインコとなるだろう。いいものを見たから満足だ。
「もう行くわよ邪魔しているのも悪いから」
「わかったよ行くか。ミドリありがとな」
 挨拶をして僕らは後にした。


 元いた木に戻りリラックスする。もうすぐ暑い昼も終わり夕方になる。
「いやびっくりしたよあんなに鳴くと思わなかったからさ」
「驚いたのはあたしのほうよ全く。他所の家庭にあまり首突っ込んじゃダメなのよ」
「わかったよ……」
 先輩セキセイも自分の時間を楽しみ戻ってきた。
「そろそろ晩飯を食べに行かないとな」
「またどこかに飛ぶのか」
「ああそうだな夜は僕らは鳥目だからほとんど見えなくなる明るい内が勝負なんだ」
 そうか今はセキセイインコの姿だから当然目の見え方も変わってくるわけだ。これからやってくる夜はどんな感じ方になるんだろう。ある意味楽しみだ。









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