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山歩きのすゝめ

株式会社百森の齋藤です。

先日、バイトさんと一緒に山に登って測量を行った際、「もっと速く山を歩く方法はありますか?」と聞かれました。
どうやら私の歩くスピードが速かったようで、何かコツみたいなものがあるのかと疑問に思ったようです。
普段は山の調査や設計業務を行っており、山に登ってから下りるまでの間にできるだけ多くのデータを収集したいと考えています。そのため、山を移動する際には次の二つの点に注意しています。

①事前に移動ルートを設定しておく

私が山に入る際に一番重要視しているのは、最短で最速かつ最低限の労力で目的を達成するためのルートを選ぶことです。

山の頂上付近まで登る際、作業道がない場合も多く、徒歩で移動することに時間と体力を費やさなければなりません。もし時間が足りなくて目的を達成できなかった場合、後日また同じ場所まで息切れしながら登る必要が生じます。これは時間的にも体力的にも大きな損失です。これが積み重なると計画の遅れにつながることもあります。しかし、欲張って限界まで進んでしまうと、下山するまでに日が暮れてしまったり、帰り道が分からなくなったり、残業になってしまうことがあります。これらを考慮すると、ルートの選定や移動スピード、作業の時間配分も非常に重要になってきます。

写真のように出発点から目的地×点まで山を登る際の一例として、青ルートは最短距離でジグザグと急峻な地山を上がって行くため、滑落する危険性があります。また、言うまでもなく体力も消耗しますし、測量器具などを持っている場合は機材を落として破損させる可能性もあります。

一方、緑ルートは遠回りになりますが、既存の作業道を伝いながら緩い勾配で低い尾根まで一旦登り、そのまま尾根伝いを一直線に上がってきています。尾根上は障害物が少なく、地盤も硬いため歩きやすく、また縦断勾配も緩やかな区間が多いので、体力を温存しながら安全に移動することができます。トータルで見れば、青ルートと緑ルートの移動時間はほとんど変わりません。

自衛隊の野外訓練では、まず目的地まで数十キロを行軍で移動します。この際、体力を温存し、ケガをせずに計画通りに遂行することが重要です。
目的地に到着する頃にはヘロヘロで足が痛くて戦えないと、任務を達成することはできません。同様に、山での作業も山に上がってからが本番です。体力を温存し、安全を確保し、時間を守ることを意識して山に入るようにしています。

②地形にあった歩行法を取り入れる

山の歩き方には、ルート取りともう一つ重要な要素があります。それが「歩行法」です。私はよく「ナンバ歩き」を使います。
ナンバ歩きとは、右手と右足、左手と左足を同時に出す歩き方です。古くから歌舞伎の動作や浮世絵などでも見られます。江戸時代以前の日本では、一般の人々の間で広く行われていたと言われています。

鈴木春信の浮世絵。手足の関係に注目

ナンバ歩きの語源にはいくつかの説がありますが、個人的に面白いと思ったのは、急な場所を上る際に足が重くなり、両手を両膝に置いて歩く体勢になることがありませんか?

この歩き方がナンバ歩きと同じで、難しい場所という意味の難場を歩くという意味からきているという説です。確かに言われてみれば、なるほどと妙に納得してしまいました。

ナンバ歩きの利点としては、凹凸のある場所でも体の軸がブレず、常に安定した歩き方ができることや、長距離を歩いても疲れにくいという特徴があります。

最初は歩きにくくて、気のせいだろうと思っていましたが、使い始めると本当に疲れにくく感じます。気のせいかもしれませんが、楽になっている気がするだけでもありがたいです。

ナンバ歩きのコツとしては、竹馬に乗っているイメージやマリオネットのように糸で吊られているイメージをすると歩きやすいです。
また、やむを得ず急峻な山を最短距離でまっすぐ登りたい場合は、左ひざを曲げて右足で後方を蹴り、左腕で上体を支えながら前進する歩行法を使用します。

これはいわゆる匍匐前進に近い方法です。匍匐の体勢になると重心が低くなり、転倒や滑落の防止に役立ち、身体の負荷を分散させることができます。
さらに、片方ずつの手足しか使わないため、疲れた場合は半身の向きを変えて片方の手足を交互に使うことで、比較的休まずに移動を続けることができます。

ポイントは地面と身体を平行に保ち、前に着く腕の手首を内側に入れながら肘を前に突き出すとスムーズに前進できます。分かりづらければアイーンポーズをイメージしてください。作業道具などを持っている場合は、空いている手で持ち、腰付近でしっかりと保持します。

いかがだったでしょうか?
皆さんも、山を歩く時があれば、少し歩き方を変えてみると意外な発見があるかもしれません。その際は是非ナンバ歩きも試してみてください。



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