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山の未来を見通す目をもて!現場主義フィールドワーカーの仕事論

この記事では株式会社百森(以下:百森社)スタッフへのインタビューを通して仕事の効率化・仕組み化を探ります。最後となるインタビュー第4弾は、森林組合や森林コンサルタントを経て百森社に合流した林業プロフェッショナル・室岡郁馬です。

話し手 室岡 郁馬​​
百森社の山守。1984年生まれ山梨県中央市出身。大学卒業後、北都留森林組合に入組。その後、(一社)日本森林技術協会のコンサルタントを経て、西粟倉村に移住、百森社に参画​​。2020年からたすきラボという屋号でフリーランスとしても活動する。測量士補や林業架線作業主任者、林業技士などの資格を有する。

聞き手 羽田 知弘
合同会社セリフ代表。1989年生まれ愛知県出身。三重大学にて森林計画学を専攻。住友林業フォレストサービス㈱を経て、2015年に西粟倉村へ移住。㈱西粟倉・森の学校(現:㈱エーゼログループ)を経て独立。くくり罠の猟師としても活動する。@hada_tomohiro

小笠原諸島に年間180日の出張。フィールドワークで鍛えた現場主義

ー森林組合の職員や森林コンサルタントとして働き、林業界に長く身を置く室岡さんですが、百森社に参画するまでのキャリアについて教えていただけますか?

室岡  大学を卒業後、山梨の北都留森林組合で5年、一般社団法人日本森林技術協会(日林協)で7年の勤務後、西粟倉村に移住しました。わたしは2008年に就職活動をしていたのでリーマン・ショックど真ん中の世代です。山に入ってフィールドワークばかりしていた学生時代だったので、スーツを着て仕事をしたくなくて森林組合に入組しました。現場を作る測量や所有者交渉、植林や下刈りなどの造林作業や伐採や重機を操縦する素材生産などの一般的な林業会社の仕事はもちろん、企業の森のマネジメントを担ったりとあらゆる仕事を経験しました。当時の上司からもお前はマルチプレイヤーになれと言われ続けましたね。その後、日林協に転職し、森林コンサルタントとして主に小笠原諸島の生態系保全の調査や林業技術の実証試験などを担当しました。小笠原諸島を担当していた頃は年間180日は出張する生活だったんですよ。西粟倉村の取り組みは10年以上前から知っていたのですが、縁あって社長から誘っていただき、西粟倉村に移住して今にいたります。

ー年間180日の小笠原諸島出張!もはや出張ではなく2拠点居住ですよね。室岡さんはコンサルタントというイメージとはかけ離れた現場主義のフィールドワーカーという印象を受けます。

室岡  小笠原諸島への交通手段は船しかないんですよ。1250kmも離れているので東京都港区の竹芝から週に1度だけ出港する船で片道24時間かかるんです。同じ東京都なのに島を歩けば当たり前のように天然記念物やレッドデータブック上の動植物が登場するんですよ。島を探索しているか船に揺られているかの3年間でしたけど面白い経験ができました。今の仕事観は森林組合や日林協の影響が大きいですね。自分の知らない場所を探索するフィールドワークが大好きなんですよ。だってワクワクするじゃないですか。現場に足を運んで、目で見て、身体で感じて、頭で考えて、そして判断したいですね。

林業事業体でもコンサルタントでもない自分だからこそできる仕事を追求したい

ー山林管理会社である百森社の仕事で室岡さんが心がけていることはありますか?

室岡  仕事の質とは何なのかをよく考えていますね。例えば、1時間掛かっていた作業が30分で出来るようになれば、時間短縮による業務効率化が達成できたと言えます。でもそれは非常に短い時間軸の話なんですよ。ひとつひとつの仕事を林業の時間軸に合わせると見え方が変わるんです。例えば道づくりでいえば、仕事の質が見えるのは10年後20年後です。時間が経てば木は成長しますが、道は劣化していくんです。いかにきれいな道をつくろうが、崩れてしまっては意味がありません。プロジェクトを早く正確に終えることも大事ですが、10年後20年後も差し支えなく作業できるような道づくりをしたいですね。未来に目を向けて山を捉えれば、地図を見るだけでは判断できない土壌の質や水の流れを意識するようになります。だからとことん現場に足を運んで判断する必要があるんです。

ー森林組合であらゆる作業を担った現場力と、日林協でのフィールドワークを重ねたからこその視野ですね。

室岡  それは自分の強みだと思いますね。マルチプレイヤーといえば聞こえはいいですが何でも屋をやり続けてきたからこその視野かもしれません。計画管理は行政、現場作業は木こり、生産販売は民間企業、と林業は分業化されているので個別最適化した職人気質のプレイヤーが多いように感じます。道をつくったり木を伐ったりと実践経験が豊富なプレイヤーがいても、理論が体系化されておらず技術が若手に引き継がれないことも多々あります。理論と実践、計画と実行が紐づかないと結果も伴いませんよね。わたしや百森社は重機を扱う林業事業体でもなく、かといって外部のコンサルタントでもありません。その間にいる存在だからこそ、役割を横断しながら提供できる価値を追求したいですね。

デジタルな業務効率化が進んでも山守が集中すべきは現場での意思決定

ー百森社はRedmineで団地ごとにプロジェクトマネジメントしたり、DocBaseでマニュアル化を進めたりとデジタルサービスを多数導入し業務効率化を追求していますが、現場目線での課題感はありますか?

室岡  良くも悪くも現場作業と事務作業の境界が曖昧になっていますね。事務作業が現場作業を侵食してしまい、集中力が必要な現場でネガティブに作用することが多いです。最近はパソコンの前に座る時間が惜しいくらい忙しいんですよ。パソコンを開く暇があれば現場に足を運んで意思決定したいことがたくさんあります。一方で、デジタルサービスのおかげで地球上どこにいても事務作業と繋がってしまいます。抱えているタスクはRedmineで一目瞭然ですし、骨伝導イヤホンがあれば耳を塞がずスマホを持たず電話できてしまう。スマホを確認すれば「今週中に終わらせるべきタスクが30個あります」とSlackでリマインドが届きます。現場でしかできない仕事があるから現場に来ているのに、通知によって机の上でもできる仕事に意識が飛んでしまうことがありますね。

ーいつでもどこでも仕事ができるようになった時代の弊害ですよね。アナログな林業界においてデジタル化が進んでいる百森社だからこその課題のように感じます。

室岡  山守としてはいかに適切な作業道をつくるか、1本1本の木をどう伐るかに集中したいですね。現場作業は季節や天気の影響を避けられないし、協力業者さんと現場を見ながら都度判断しなければいけないことも多いですから。現状は団地ごとに山守がプロジェクトマネジメントしていますが、今後は事務作業の多くをアルバイトスタッフに委譲していけると良いかも知れません。夕方に事務所に戻ってPCを開き自分宛のメンションにリプライをするだけであっという間に1時間経ってしまうこともあります。少しでも事務作業を減らしたいですね。わたしではないと判断できないことは1割に満たないと思うので、作業や確認を減らして重要な意思決定に集中していきたいです。既にRedmineで誰がどの作業を抱えているかわかりますし、Googleカレンダーを確認すれば今どこでどんな作業をしているのか把握できるので、更にDocBaseでのマニュアル化を含めて情報共有が徹底できれば意思決定や仕事の品質も属人的にならず底上げされていくはずです。

多くの人が諦めている林業だからこそビジネスチャンスがある

ー今の室岡さんの思想にいたる原体験はあるんですか?

室岡  あなたの山には価値がありませんと伝えるしかできず、悔しい思いをしたことがありました。森林組合時代に活動していた北都留エリアは、針葉樹と広葉樹がモザイク状に生育している地域なんですよ。でも補助金の多くは原木生産を目的とした人工林を対象にするため、広葉樹林は補助対象にならないことが多いんです。山主さんから「ウチの広葉樹林はお金になりますかね?」と相談されても現在ほどバイオマス利用の機運も高くなかったので「いえ、お金になりませんね」としか答えられなかったんですね。美しく豊富な資源があるにも関わらず、それを活かして地域でお金を回すことができない現実がありました。それが将来は独立しようと決めたモチベーションにもなりました。

ー個人事業として活動しているたすきラボで実現したい未来について教えていただけますか?

たすきラボでは(1)所有山林や木材の利活用提案(2)山仕事ビギナーへの技術支援に取り組んでいます。国策として人工林による木材生産一辺倒が根強いですが、山主や地域によって山に期待する役割は異なります。1人1人の山に対する思いに応えたくてスタートしたのがたすきラボです。親から相続した山に経済合理性はなくても、子どものための唯一無二の家具をつくる素材に活かせるかもしれません。道すらつけられない広葉樹林が子どもにとっての最高の遊び場になるかもしれません。個人事業として活動するたすきラボは山に関わる思いを次の世代へつなぐ伴走者でありたいと考えています。自分の山を無駄にしたくない山主と、木を活かして楽しみたいユーザーは確実にいるんですよ。あとはアジャストさえできれば双方が喜んでくれてビジネスが生まれます。日本全国どこでも仕事ができる汎用性もありますね。また、「山仕事をやってみたいけどどうしたら良いか分かんない」という山主やユーザー、異業種の人に向けたアドバイザーもやれたら良いと考えてます。

ー室岡さんの話からは林業という産業で生業をつくりたいという強い意思を感じます。

室岡  林業でちゃんと稼ぎたいという気持ちは非常に強いですね。森林組合の新人時代の日当が8000円だったんですよ。月給制ではなく日給制なので雨や雪で現場がなければ手取りも少なくなってしまいます。若い男が田舎で1人暮らしする分にはなんとか食べていけるかもしれないですけど、家族を支えていくには心許ない年収ですよね。ましてや林業は労働災害が多い産業です。いくら林業に対する志があっても食えなきゃ若い人も入ってこないですから。多くの人が林業は儲からないと諦めているのなら、わたしは林業に賭けてみたい。誰も見たことがない景色を見れるかもしれないなんてワクワクするじゃないですか。

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