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MADE IN XX/第2話


【巨大隕石前/密猟者と謎の巨影】

怪しく漂う煙と差し込む後光で、人影の全容が確認出来ないが… ゆうに8mは超えるような巨体だ。密猟者2人をジーっと見下ろしている。そのノッペリとした無表情さが、不気味な静けさを助長する。

密猟者A:「な、なんなんだよ。。」 
密猟者B:「‥‥‥‥‥‥‥‥。」 

巨影は、密猟者を嘗め回すように観察すると、口元から呼吸音と共に炭酸ガスのようなため息を発した。(ブフゥワァァア) あきれるように首を横に傾げている。次に、くるっと後ろ向きになると、ノールックでゴミ箱にゴミを投げるように、一人の密猟者目掛けてある物体を投げて来た。ポイっと軽く放ったように見えたが、物体には尋常では無い鋭い回転が掛かっている。

ビュン!ギュリリリ!ドシャッ!!

隕石墜落を小劇場で完全再現したようなインパクトだ。密猟者にクリーンヒットすると、縦方向にグシャッと潰れる空き缶のように地中にねじれ、めり込んだ。 開いた穴に、滲み出た血液が溜まっている。まるで一人用の血の池地獄だ。投げられた物体は、跳ね飛び、もう一人の密猟者に勢い良くぶつかる。確認すると、入口付近で消息を絶った“二つに折り畳まれた”密猟者であった。

密猟者B:「お、お前 ひ、ひぃぃ」

気づくと巨影はその場から消えていて、代わりに無数の真紅の瞳に周辺を取り囲まれていた。威嚇と歓喜と怒号が入り混じったUMAたちの獣声。滴るよだれが一滴、地に落ちたのを合図に一斉に飛び掛かると、密猟者の人生の最終ページがむしり取られた。

密猟者B:「ひんぎゃぁぁああああ」




【陸奥教授と同好会メンバーサイド】

怪野:「あぁーあ 逃げちまったじゃねぇーか! 追っかけるだろ?」 (武者震いしている)
陸奥:「うむ、一旦帰ろうか。」
怪野:「はぁ?? 何トチ狂った事言ってんだよ!! 10億当選した宝くじを交換せずに帰れってのか?」
不知火:「そうよそうよー 今まで生きててこんなに興奮したことはないわ!早くUMAと触れ合いたい!」
陸奥:「ダメじゃ。今回の目的はUMAの捕獲では無く、現地調査じゃ。…その目的はもう完遂したと言って良いだろう。」
怪野:「!? 調査って、何もしてねぇじゃん。」
陸奥:「いやっ、もう十分じゃ。」

地面に付着する粉塵をぬぐった指を見つめ、何か悟った表情をしている陸奥教授。方や、夢にまで見た理想郷=UMAの大群を目の当たりにし、高ぶる探求心を抑えきれない同好会メンバーは、納得が行くはずがない。互いに譲らず、しばし口論が続いた。

不知火:「ちょっと開明~ いくらなんでも手を出しちゃダメでしょ。。」
怪野:「ふぅーふぅー やりやがったな、この変態ジジイがぁー」(デコピンでおでこが腫れ上がっている)
美田:「もうやめなよぉ~ 見苦しいからさ。」
陸奥:「痛ぇてて。恩師に鼻フックは反則じゃろうがい。。…仕方ないのう。」

陸奥教授は、これ以上年下に鼻フックされ続けるのもイヤなので、本調査の核心に迫る内容を語り出した。


陸奥:「天変地異がきっかけで突然変異種=UMAが現れる、と言う事は口癖のように言っているかと思うが。その“きっかけ”が具体的に解明されつつあるんじゃ。正確には“きっかけのうちの一つ”と言ったところじゃな。」

不知火:「天変地異自体が未確認要素が多くて、きっかけっていうアバウトな言葉で無理やり納得するようにしてたけど。原因が解明されるって、それがホントなら凄いことよ。」

陸奥:「…ずばり、その“きっかけ”は、レアメタルにある。」
怪野:「レアメタル??」

陸奥:「通称Gメタル。主に地球外に存在する希少金属じゃよ。水銀のように流動性があったり鋼鉄のように固かったり。形状や重さも自由自在じゃ。液体化したものを霧状に噴霧することまで可能じゃ。そして、このレアメタルに一定時間触れた生物はそれがトリガーとなり、姿を変貌させる。簡潔に言うと細胞が覚醒するってわけじゃ。」

木慈:「SFチックだけど、興味深い内容だな。 それが本当なら、UMA製造機が存在し得るって事ですよね?」
みんな:「そんな夢のようなことが!?マジかー!河童も創れちゃうの??ギャーギャーギャー」
陸奥:「そうじゃな、理論的には可能じゃろう。しかし、Gメタルというのは地球外にのみ存在し、調達するはほぼ不可能。」
怪野:「んだよー!! 結局それかよ。」
陸奥:「じゃが、人為的にUMAを創り出したとして、そこに夢やロマンがあるかの? 架空の生物と言うのは、あくまで未知の存在だからこそ魅力を感じるものだと思うがな。」

怪野:「んまぁ、そう言われるとそうだけどさ。」
不知火:「でも、ムッちゃんさ。何でそんなに詳しいの??」
陸奥:「え? …ワシは世界的な権威じゃからな。UMA関連の情報は、ほぼ全て把握しとるよ。」
馬頭洗:「てかさぁ。何かさっきより周りが暗くなってない??」
陸奥:「た、確かに。マズいのぉ。 続きは帰ってからきっちり話すから、すぐに退散しよう。」


日中でも、枯れ果てた木々にびっしりと囲まれたサンクチュワリは、不気味な薄暗さがデフォルトだ。しかし今は、その暗さを加速させるように、隕石から伸びる闇夜のカーテンが周辺を覆い始めている。


( ヴゥゥゥン… 隕石周辺で謎の駆動音が鳴っている )

( ヌー ) 枯れ果てた木々たちが、低飛行する物体をエスコートするかのように自らが森を切り分ける。そのド真ん中を音も無く移動している巨大な人影。突如巨大隕石から現れた謎の人影だ。密猟者とのやり取りの後、消息不明であったが、どこか別の場所に向かっている様子だ。 謎の巨影の移動に合わせ、周辺が順番に暗闇に染まって行く。

巨大な人影:「…ターゲット、か??」 ( ヌー )

周囲が暗闇に染まりつつある中、 墜落した隕石の方角で森が蠢いているのが分かる。若干の不安を強大な好奇心が上回り、ワクワクさえしている同好会メンバーを横目に、教授の表情が近年稀に見るシリアス顔に変わって行った。給料日の翌日に全額を落としてしまった時以来のシリアス顔だ。その時は劇画調のシリアス顔だったが、今回はもっと深刻なタッチだ。“その後をどうやって乗り切るか…”と切羽詰まった状況。今回は違った意味で危機が迫っている様子。

陸奥:「さっさとここを出るぞ!」
怪野:「もうちょっとイイじゃん! 夜のUMAって、 真紅に光る瞳がイルミネーションみたいでキレイだし。」
不知火:「確かに幻想的よねぇ~ でも…」

会話の途中で何の前触れも無く、教授の背後からヌーっと姿を現した謎の巨影。 デ、デカい。。 首を真下にグニュんと曲げて、背後から教授のシリアス顔を見下ろしている。

みんな:「 !? 」(あまりの光景に変態集団でも声すら出ない。)

この世の酸素がごっそり抜き取られ、数秒の間、全世界が息詰まったような感覚だ。 ある程度想定はしていた様子の教授ではあったが、至近距離に突如現れた謎の巨顔にプチパニックに陥った。

陸奥:「ののののぉう …プゴッ! 」(尻もちをついて鼻を鳴らす。)


その場に再び酸素が供給されると同時に一気にやかましくなる周辺。遅れて来たプチパニックが小さく丸めた混乱を豆まきの如くばら撒き、追っかけで周囲を掻き回した。

みんな:「おほっ 何じゃこりゃー!! 危ねぇぞームッちゃん!! ギャーギャーギャー」
巨大な人影:「‥‥‥‥‥‥‥‥。」 


巨大な人影は、教授の顔を覗き込んだまま黙り込んでいる。この妙に落ち着いた静寂が不気味さを加速させる。


陸奥:
「な、なんの用じゃ??」
巨大な人影:「…人違いか?」 (写真と見比べている)
陸奥:「ワ、ワシじゃー!! あっ」

古い手配書と思われる顔写真と現在の教授の顔を見比べ、あまりの変貌に人違いだと判断した謎の巨影。 そのリアクションに憤慨し、ついつい名乗り出てしまった教授。

巨大な人影:「………マジで?」 (写真を指差して再確認している)
陸奥:「だから、ワシじゃーい!!」

巨大な人影:「…良く分からんが、ターゲットのようだな?ビンゴだ。」 
怪野:「何話してんだ?? おいっムッちゃん!知り合いなのか?」
陸奥:「あぁ、そんな所じゃ。キミらは下がっていてくれ。 …それで今さら何の用じゃ?」

巨大な人影:「トボケるな。 例のレア物、どこかに隠しているんだろ? 返してもらおうか」
陸奥:「レア物? はて、何の事やらさっぱり分からんな。」

巨大な人影:「…やっぱ人違いか?」 (写真と見比べている)
陸奥:「だからぁあ、ワシじゃーい!!」

巨大な人影:「ふむ。あの事故が起きてから約30年。容姿が極端に劣化してもヲカしくはないか。」
陸奥:「聞こえとるぞ。。 あのレアメタルは、事故と同時に消滅してしまったと説明したはずだが。 」

巨大な人影:「そう報告を受けてはいる。 …が、ある生物に転移したという新情報が入って来たのだ。 そしてお前が匿っているという事も分かっているぞ。どこに隠した? 」
陸奥:「知らん。 」

巨大な人影:「 …そうか、人違いか」
陸奥:「へ? 」


大きく振り上げたハンマーのような握りこぶしを、教授目掛けて容赦無く振り下ろした。( ブウォン )

みんな:「逃げろー!即死級だぞー!! ムッちゃん!!」


( 枯れ果てた森の地面スレスレを猛スピードで疾走する視点で周囲が動いている。 )


前傾姿勢にて始祖鳥を彷彿とさせる鳥類の足が地面をえぐるように踏みしめる。ぐんぐんと加速する、赤黒いマグマのようなグラデーションを施した未知の生物。瞬時に教授の間に入り込み、その屈強な足の裏で巨大な鉄槌を受け止めた。(ガツン!)

同好会メンバーたちは、覆った目を恐る恐る開くと… そこには紳士のような姿勢で立つ、軍鶏(シャモ)のようなUMAが。



つづく

【 MADE IN XX ‐第3話‐ 】