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MADE IN XX/第1話

【ピカッ】

(上空にて。謎の飛行物体が、鋭くも強烈な閃光を放つも、あまりの速さで世界中の人々が気付く事も無い。)

【ズゥ ドドドド… ドゴゴゴォォォオオオン!!】


ある日。想像を遥かに超えるスピードで、禍々しくも巨大な隕石がとある森に墜落した。

甚大なる衝撃でごっそりとエグられる「死吐の森」。 まるでリストラされ疲弊し尽くしたかのような枯れ木が無数にひしめくこの森には、無慈悲な追い打ちを掛けるような大惨事となった。

【バキッ!バキバキッ! メキメキメキ… ボキボキ!】


刹那の蹂躙劇により、無気力な枯れ木たちは全身骨折するかのような悲鳴を上げ、ゴギゴギと粉砕されて行く。それに加え、この森に僅かながらも生息する動物たちも巻き込まれ、見るに堪えない事態となった。 

地中深くに突き刺さった隕石の先端はと言うと、肉眼では確認する事も出来ない程の深さだ。衝撃と同時に大きく巻き上がる粉塵が枯れ果てた森全体を覆い尽くし、鉛色の雨が一帯に降り注いだ。


… やがて訪れる混沌をあざ笑うかのように、森全体がゆっくりと蠢きはじめた。


世界の意表をつくような事態にメディアは食いつき、全人類の注目度が“一瞬だけ”高騰した。衝撃の出来事にメディアはこぞって不穏なニュースを取り上げる事になるが、それに反して政府は隕石墜落に関する情報の一切をシャットアウトした。

まるで圧倒的な強者が弱者の口を武骨な素手で無理やり塞ぐような、THE 力業のメディア統制である。

また政府は、真相を隠すかのように、隕石の半径50㎞圏内を立ち入り禁止領域に設定し、極一部の関係者以外の一切の立ち入りが禁止される事になった。



【隕石墜落の翌日】

( 【LIVE】 極薄TVにて、隕石墜落のニュース番組を嬉々として観ている大学生たち。 )

ここは、とある大学の「UMA(未確認生物)同好会」。奇獣・珍獣研究の権威である陸奥教授が顧問を務める、I♡UMAな大学サークルである。所属メンバーは教授を筆頭に変わり者が多く、探求心だけあればどんぶり飯3杯は軽くいけちゃうぐらいの、好奇心の塊のような面々で、未だ解明されていない未知なる生物を追い求め、日々研究に没頭している。


謎の巨大隕石墜落の話題一択で盛り上がっている。


(UMA同好会/研究室)

「おいおいー! これって、まさかのまさかじゃねーか?」
「そうよねぇー 不謹慎にも楽しみで仕方ないわ♪」
「陸奥教授(ムッちゃん)早く来ねぇかなぁ。どうせ役人とかに呼ばれてんだろ?」
「役人とかって… 軽々しく言ったらダメじゃない? 軽率な発言は控えましょ。」
「あぁそうだな。テンション爆上がりなのはみんな一緒だけどさぁ、発言には気を付けようぜ!」
「わぁったけどさ~ そんな表情のおめぇらが言うなって話だよ 苦笑」


研究室にて、同好会メンバーたちの話が盛り上がっている。研究室と言ってもあくまでもサークルなので、研究機関の専門的な機材が並んでいる訳でも無く、熱帯魚や小動物の飼育ケースが立ち並ぶ、街のペットショップのような雑多な部室である。

ごく普通の大学生がはしゃいでいるような会話が繰り広げられているようだが、よくよく聞いてみると、好奇心と不安が入り混じったような世間の声とは別に、同好会メンバーは“何か”を知っているような口ぶりのように思える。いつも多忙で不在にしている陸奥教授は、この日も当然のように研究室には現れていない。

ここで本作の主要人物を紹介しておこう。同好会メンバーは教授を除き、男子メンバー4名・女子メンバー3名の全部で7名で構成されている。同好会メンバーの簡単なプロフィールは、以下である。


メンバー①: 径野 開明(ミチノ カイメイ)3人兄弟の長男坊。見た目がチャラ男の親父が営む八百屋の(未来の)二代目で、ファッション大好き。祖父の影響で幼少期よりUMAに興味があり、UMA同好会を立ち上げた張本人だが、面倒が嫌いで嫌々部長を務める。言わば、まとめが苦手なまとめ役。見た目は金髪/短髪で左耳にピアスをしているが情に厚い性格。

メンバー②: 不知火 羽半(シラヌイ ヨワ) 開明の小・中学時代の幼馴染。 あらゆる楽器を弾きこなす音楽家系で育ち、絶対音感の持ち主。作詞は苦手だが、PCでの作曲も趣味の領域を超えている。 見た目は清楚系で黒髪/ロングのミステリアス系女子。しっかり者ではあるが芸術家肌のため、集中力が切れるとどうでも良くなる事もある。

メンバー③: 十四 殿星(トシ デンセイ) UMAと同時に都市伝説が大好き。離島に育つ。実家は、海沿いのカフェを営んでいる。趣味は横乗り系/サーフィン・スケボー・スノボー。 肌は年中日焼けしていて、ドレッドヘアにヘッドホンをいつも身に着けている。見た目と裏腹に非常に礼儀正しいが、過剰なまでのポンコツ尊敬語(ポン敬語)がたまに炸裂する。

メンバー④: 木慈 勇大(キジ ユウダイ) 生粋の生物ヲタク。 実家がミニ動物園のように動物で溢れていて、餌代だけで家計が崩壊しつつある。故に体型は極度なやせ型で、必然的にタイトな洋服を着こなしている。また、マニアックな地下アイドルのファンでもあるが、断じて飼っている動物の餌代が最優先であるため、この趣味を知っている人間は皆無である。

メンバー⑤: 美田 把(ミタ タバネ)生まれ付きの強運の持ち主で占い好き。積極的にコミュニケーションを取るのが苦手な陰キャだが、容姿は派手目の化粧でギャルっぽいギャップが売り。携帯を派手に盛るのもお手の物で、スワロフスキーで世界遺産のような建造物をデコっている。目立ちたくないのに、異性にモテるのが非常にストレス。

メンバー⑥: 神成 皇紀(シンジョウ コウキ)考えるよりもまず先に行動に移す、猪突猛進型の性格。実家が空手道場を経営している古風な家系で、自身も空手有段者。見た目は硬派だがYouTubeで見た海外のブレイクダンスバトルに感化され、実家に内緒で道場で所属するブレイクダンスチームと共に練習を繰り返す。爬虫類好きでイチオシの爬虫類はエリマキトカゲ。

メンバー⑦: 馬頭洗 空菜(メズライ スキナ)ゲテモノ含めたグルメ大好き女子で、大胆不敵なオリジナル★バズレシピがSNSで度々話題に。 どんなゲテモノでも動じない異次元な胃袋の持ち主で、大食いも大の得意だが自分自身はその事にあまり気付いていない。容姿は気分でコロコロ変わるが、最近はピンク髪/ボブにハマっている。

顧問 : 陸奥 呉十郎(ムツ ゴジュウロウ) 世界的な生物学者だが変人を超えた変態である。舐めるだけで何の生物かを100発102中で当てる事が出来る程の、無類の生物好き。野生動物とのハードコミュニケーションの影響か、全身に噛み傷があるのと、左腕が義手。小太り白髪パーマで、いわゆる“実験失敗系爆髪”の博士のような見た目。


【場面転換/政府秘密機関/隕石墜落15分後】

海外の要人を迎え入れるような豪華なVIPルームに、初老の男性がひとりポツンと座っている。陸奥教授だ。この場に相応しくないような絵面だが、教授はソワソワする事も無く堂々としていて、ちょっと俯いたまま微動だにしない。難題を考え込むように目をつぶり、眉間にしわを寄せている。しばらくすると、政府の人間と思われる男が数人入って来た。揃って黒スーツに白シャツ黒ネクタイと、敢えて個性を消したプロフェッショナルな黒子スタイルだ。 普段からシークレットな事案を扱っているのだろう。これから始まる密談に、大理石で囲まれたVIPルームの空気はより一層ピりっとしている。 重たい空気を引き裂き、役人が陸奥教授に声を掛ける。


役人:「…教授。 まさかおっしゃっていた通りの事が起きるとはね… ちょっとだけビックリですよ。 ちょっとだけね。」
陸奥:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
役人:「教授?」

難しい表情を一切崩さず腕組みをし、目を閉じたままの教授は、役人の声に一切反応しない。彼的には余程深刻な接見なのだろう。

役人:「思いの外、深刻な表情ですねぇ。 まさか緊張なんかして無いですよね? 柄でも無い、話を進めましょう。 」
陸奥:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
役人:「ん? 」
陸奥:「…プゴッ!」

授業中寝ていて、ビクッっと起き上がるかのように、教授が覚醒した。


役人:
「って、寝てたんか!!  プゴッってどんな夢見てやがったんだよ? この不謹慎ジジイが」
陸奥:「はて、やっと来たか。待たせ過ぎじゃ。 …って、誰ぇが不謹慎ジジイじゃー!!」(頬がプルプルしている)

役人:「めちゃくちゃ元気じゃねぇか。。(寝起き直後の老人のテンションじゃないだろ)」
陸奥:「んんっ それで。長年に渡り、ある事無い事調べ尽くして… 聞く耳すら持たなかったが… これでやっと信じる気になったか?」

役人:「どこぞの訳の分からん占い師が発した予言が、偶然当たったって事も多分にある。まずは現地調査に行って貰おうか」
陸奥:「何だ?その言い草は。何もわかって無い小僧が偉そうに。じゃが、お主に言われずともワシは勝手に調査に行かせてもらうがな。」

役人:「チッ クソ生意気な干し柿界のレジエンド面なボケジジイだな。それで、こちら側で何かしておく事はあるか?」
陸奥:「おいっ 悪口が渋滞しとるぞ…  黒子みたいな恰好に反して個性出まくっとるじゃないか。 …まぁ良いわ。そうじゃなぁ、やってもらう事は一つ。 隕石墜落事件から世間の興味を完全に削いでくれ。」

役人:「フンっ 造作も無い事だ。おい、直ちに各メディアに一斉通達を出せ。もし違反が発覚した時点で、キツ目のペナルティを課すと。」
部下:「承知しました。すぐにSランクにて一斉通達実行します。」
陸奥:「メディア統制って、こんなに簡単なのか??  じゃが今回は逆にありがたい。一般人を巻き込みたくは無いからな。世の中、知らん方が良い事もある。」

役人:「で、具体的にはいつから調査可能なんだ?」
陸奥:「そうじゃなぁ 準備期間に1ヶ月は欲しいところじゃが。 明日から行こか。」

役人:「あ、明日!?  流石、変人を超えた変態と言われたクレイジージジイだが、未知に対する恐怖心ってのが無いものなのかね。」
陸奥:「おい、政府の人間が何を炒めて食ったらそんなに悪口を連発出来るんじゃ? 逆にちょっと興味が湧くわ。」

役人:「よし、善は急げだ。ささっと行け。」
陸奥:「あらっ そこは流すのね… あぁ そうじゃそうじゃ。 お主らにやってもらう事をもう一個忘れてたわ。(ごにょごにょ…。)」

役人:「はぁ!? 忘れてたついでに… みたいなノリでお願いするレベルの話じゃないだろ! こりゃハードルが高っ…」
陸奥:「んじゃ、頼んだぞ。」

役人:「おっ おい! 特大な爆弾落としてさっさと行くな!!  チッ 面倒持ち込みやがって。」


【UMA同好会/研究室】

政府との接見を終えた翌日、教授が研究室に帰って来た。 のっそりと研究室へと入って行く、初老で小太りな教授の背中が、責任感と言うダウンジャケットを羽織りながらも、ワクワク成分を織り込んだインナーを着こみ、複雑に笑っているように見えた。 もちろん、政府から依頼を受けた“現地調査”の件は、学生には伏せるつもりだ。

(ガラガラガラ~)


研究室に入るや否や、女子メンバーが食い気味で教授に声を掛ける。


馬頭洗:
「で、何時から現場に行くことになったのー? ムッちゃん!」
陸奥:「…プゴッ!」
怪野:「やっべーな。 あそこに行けると思ったらさぁ、興奮して昨日寝れなかったよ。」
神成:「めっちゃわかる! 遠足の前日って感じだよな。…でさ、2分後に出ようか!」
陸奥:「待て待てぇーい! 君ら、何でワシよりやる気満々なんじゃ。。てか調査の話なんて1mmもしとらんぞ。」
不知火:「やっぱ現地調査依頼が入ったのね! ムッちゃん、ボロ出るの早すぎw」
陸奥:「うんあっ んんっ …今日の研究テーマじゃが 」
十四:「さすがに無理あるよー ムッちゃん。 オレら、先生の教え子だぜ? 察してよ。」
陸奥:「くッ そう言われると言い返す言葉が見つからんな。。 (ワシが学生なら墜落したと同時に現地に行っとるだろうからな。) 分かった、分かった。 隠さず言うと、確かに政府から調査依頼が入った。じゃが、現地に行けるとは話は別じゃからな。それはそれ、これはこれ。」
怪野:「…うっほーい! やっぱ調査依頼入ったんだ! シャっ!!」


同好会メンバーみんなで、ハイタッチを繰り返している。 猪突猛進な性格の新成は、この祝いムードに見切り発車でピザ屋に電話中だ。


陸奥:
「…いやいや。じゃから盛り上がっても無駄じゃよ。 ワシの話聞いてる? ってかワシ見えてる?」
木慈:「言い方が合ってるか分からないけど、野生のUMAが見られるかもしれないんですよね? ぐふっ ぐふふ」
美田:「ちょっとぉ 鼻血出して喜ぶことないじゃないよー。」


話の中心だったはずが完全に蚊帳の外状態になり、色々な意味でがっくりと肩を落とす陸奥教授。生徒たちの性格も熟知している教授は、現地調査への同行は回避させようとはするも、万が一の事も考えている様子だ。暗室用のカーテンを開け、研究室の奥へと進んだ。

馬頭洗:「あれっ ムッちゃん? どこ行くの?」
陸奥:「みんな、ちょっと来てくれんか。」


奥の部屋で大きいアタッシュケースをドゴっと床に置く教授。ゆっくりとカバンを開けると、複数のシルバーアクセサリーが入っていた。


教授の突拍子もない行動に若干戸惑うも、興味津々の同好会メンバー。


不知火:
「何々?急に。副業でも始めたの?? ムッちゃん?」
陸奥:「そんなつもりは無いのじゃが。みんなに気に入ったものを一つずつプレゼントしようと思ってな。」
十四:「へぇ イイじゃん!イイじゃん! オレ、シルバーアクセサリー好きなんだよね」
怪野:「よしっ 早いもの勝ちだー オレはこれにする!」


スカルをモチーフとしたゴツめのリングを右手の人差し指に着ける開明。


十四:
「あぁー開明、ズルー! 急げー!!」
みんな:「ギャーギャーギャー!!」

それぞれがアクセサリーを装着している。オシャレのオの字も無い初老のジジイから貰った物とは言え、中々気に入ったようで、皆まんざらでもない顔だ。それを見てニコニコとほっこりとした表情をしている陸奥教授。

陸奥:「それは独自のルートで入手した、特別なアクセサリーでな。若干取り扱いにクセがあるから、説明書を渡しておくぞ。」
みんな:「ギャーギャーギャー」
陸奥:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」


似合う似合わないの見せ合いで、教授の忠告をあまり聞いていないようだ。不知火はネックレスを、十四は鼻ピアス、木慈はバックル、美田はブレスレットを、神也はアンクレット、馬頭洗はピアスを装着している。それぞれのシルバーアクセサリーに共通しているのは、スカルをモチーフとしたデザインであるという点だ。

陸奥:「さて、これからワシは準備があるから、君らはこれで解散してくれ。」
怪野:「ちょいちょいちょいー ちょっと待ってよー 邪魔はしないからさぁ。オレらも行って良いでしょ?」
陸奥:「…ダメじゃ。こればかりは承認出来ん。」
馬頭洗:「イイじゃんー!迷惑かけないからぁー 遠くから見てるだけでいいからさぁ」
十四:「こんなチャンス中々無いと思うぜ。これほどオイシイ研究テーマ、行かないわけにいかなくね?」
陸奥:「…ダメじゃ! 言う事を聞いてくれ。」
不知火:「これでもダメ?」


カードのようなものを教授に見せる羽半。「珍獣カフェ」年間PASS。柿葉原の路地裏に存在する、知る人ぞ知るマニアックな珍獣と触れ合えるカフェの年間PASSだ。教授がちょくちょくこの店に通っている情報を同好会メンバーは把握していたようだ。

陸奥:「うっ ほ、欲スィイ。。 …うーむ、仕方ない。後ろで見学をするだけじゃぞ。それだけは約束じゃ。」
みんな:「ヒャッホォーーーー!! やっりぃーーー!!」



【立ち入り禁止区域近辺】

( ブロロロロォ )

政府機関から手配された軍用バスに乗車している陸奥教授とUMA同好会メンバー。メンバーは、屋外で野生生物捕獲時に着用する、お揃いのつなぎを着ている。また、先ほど教授に貰ったシルバーアクセサリーも身に着けているようだ。政府には、この同好会メンバーは、今回の現地調査のアシスタントとして同行を許可したと説明。機密ミッションにも関わらず、同好会メンバーはツチノコ探しのような遠足気分で、異常にテンションが高い。教授は心配を越してあきれている表情をしている。政府の人間も同様だ。

役人:「おい、教授さんよ。 こいつら…大丈夫なのか?」
陸奥:「も、もちろんじゃ。彼らは、未来の研究者の卵たちじゃよ。」
怪野:「もし河童が居たときのために、マジックソン持ってきたぜ。頭の皿をピカピカに洗って仲良くなってやる。うっひひ」
木慈:「開明くん。自然の洗剤じゃないと、皿荒れしちゃうかもですよ。」
神也:「肌荒れみたいに言うなwww てか、開明!それ風呂洗うやつじゃね?」
みんな:「ギャッハハハハハ」
陸奥:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
役人:「墜落した謎の隕石の調査だと思うのだが、なぜ妖怪のような話ばかり出て来るのだ?」
陸奥:「それは簡単な事じゃよ。この有名な名言、聞いたこと無いかの? “天変地異が起きた時、UMAはその姿を現す”」
役人:「聞いたこと無いな。偉人の言葉なのか??」
陸奥:「ワシじゃ。」
役人:「おめぇかよ! …斜め上見ながらそれっぽい事言ってると思ったわ。 ちなみにチャック開いてるぞ。」
陸奥:「わざとじゃ。」
役人:「嘘つけ!というか恥を知れ!」

そうこうしていると、荒れ地に等間隔に鉄の棒が突き刺さっている光景が見えて来た。隕石から半径50km圏内をぐるっと囲むように鉄の棒は突き刺さっている。「これより先は立ち入り禁止区域」と言う分かりやすい目印だ。ただし、隕石墜落から僅かな時間しか経過していないため、鉄の棒の等間隔も広く、立ち入ろうと思えば誰でも簡単に入れてしまう程の応急処置しか施されていない。言わずもがな、1台の軽トラックが駐車されている。車内には誰もいないようだ。

役人:「ん?誰だ?関係者では無さそうだな。 野次馬的な輩か、あるいは闇商売的な連中か。差ほど気にするような事でははない。」
陸奥:「そうかのぁ?武装でもしていたら厄介だぞ」

( ダァーーーーーンッ! )


陸奥:「ほらっ 言わんこっちゃない…」
役人:「ここまでだ。あとは任せたぞ。我々はここから先の立ち入り禁止領域を“サンクチュワリ”と名付けた。さぁ行って来い。」

陸奥:「な、なんと畳みかけるように投げやりになりおって! しかし禁止領域に平然と立ち入る武装した輩か。危険じゃな。」
神也:「うぉーーー!! ここが禁止領域か あーー 隕石でけぇーー 行くぞぉぉおお」

( ズドドドドドドぉぉおお )

後先顧みずに、猪突猛進オトコの神也がダッシュで“サンクチュワリ”に侵入して行った。

陸奥:「コラコラ!待てぇい!!」

教授の声も一切耳に入らず、神也はそのままダッシュで隕石墜落の中心地に向けて消えて行った。そのタイミングで何者かが絶叫するような声が森一帯に鳴り響いた。

( うぎゃぁぁぁあああ )

陸奥:「ま、まずいのぉ… みんな急ぐぞ!」
美田:「え?え?何?人間の断末魔みたいなの聞こえたんですけど。。」
怪野:「あのバカは。。とりあえず、急ごう!! いざ、サンクチュワリ潜入だ!」

枯れ果てた森の50㎞先に、墜落した巨大隕石の一部が見え隠れしている。この距離からでも確認できる程、隕石は巨大なようだ。辺りは塑像以上に薄暗く、くすんだダイヤモンドダストのようなキラキラ感が森全体を包み込んでいるように見える。 ヴゥゥゥン… かすかに鳴る駆動音のような耳鳴りがする。 サンクチュワリに侵入して5㎞程歩いた地点でうつ伏せに倒れている男を発見した。


不知火:「キャッ! まさか皇紀… 」(驚きの表情で口を塞いでいる)
神也:「ん? 呼んだか?」
一同:「ビクッ! そこいんのかよ!!」
陸奥:「ふぅ 別人じゃったか。ひとまず安心しだぞ。 …単独行動は厳禁じゃ。守れない者は帰ってもらうぞ。」
一同:(緊張の面持ちで、OKサインを出している)

( ズッズズ… ザサッーーーー!!!! )

ほっと一安心しているのも束の間、突如倒れている男の体が半分に折り畳まれ、森の中心へと引っ張られるように消えて行った。

怪野:「は?? なんなんだよこの森は… テンション上がってきたぁーー!!」

凄惨ではあるが日常では味わえない出来事に、不謹慎にも変態集団のテンションは上がっている。一同は、周囲を警戒しつつ森の奥へと歩を進めると、そこには驚愕な光景が広がっていた。


( 森の陰から息をひそめて中を確認する一同 )

まるで海中を泳ぐかのように、触覚の長い熱帯魚が優雅に空中を泳いでいる。 同空間に十二単のように艶やかな複数の羽を折り畳んだ小鳥が舞い踊り、二頭身のリスやウサギのような小動物も小刻みにリズムを取って小躍りしている。奥の方では、二足歩行のシカやヤギのような中型動物が地に胡坐をかいてしゃがみ込み、もぐもぐと何かを食べている。

どの生物も奇形で見たことがない姿をしていて、見る人によっては悍ましくも、神秘的にも成り得る。まさにUMAの森である。

怪野:「おいおいおい… ここは天国か何かか?」

同好会メンバーは、揃って恍惚とした表情で、よだれを垂らしている。まるで、馴染みの商店街を、世界を代表するような俳優やアイドルやアーティスト、そしてスポーツ界のスター選手が入り混じって食べ歩きに来たような光景。しかも身に纏ってるのは葉っぱ一枚だ。彼らの目にはそれぐらい強烈なインパクトの光景が写っている。

十四:「ま、まずはご挨拶奉り候でございますか?」(サイン色紙を脇に抱え、動揺して尊敬語がメタメタになっている)
木慈:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」(バタッ 目をぐるぐるさせ鼻血を出してぶっ倒れる)

木慈の転倒する音に一斉に反応するUMAたち。一瞬全身がビリビリっと鉛色に変化したかと思うと真紅に光った瞳になって散り散りに逃げて行った。

陸奥:「なるほど。」


同行メンバーに比べ、思いの外冷静な教授は、地面の粉塵を指に着けて確認すると、ポケットから数匹の蜂型極小ドローンをばら撒いた。森の中へと飛んでいく蜂型ドローン。“ある目的”を迅速に果たすため、政府にリアルタイムで報告を入れている様子。

( ダァーーーーーンッ! )

興奮冷めやらぬ森の中、再び銃声が鳴り響く。さらに森の奥深く、UMAたちにライフルを発砲している男が2人。珍獣を捕まえては高額な裏取引を繰り返す、いわゆる密猟者だ。

密猟者A:「なんなんだよここは。狩り放題じゃねぇか。笑いが止まんねぇぜ。」
密猟者B:「今日のところはこの辺にしておいて、途中でどこかに消えたあいつと合流して帰るとしよう。」
密猟者A:「そうだな、また来れば良いさ。こんなところ誰も立ち寄らんだろうからな。」

2人はライフルで撃ち取った瀕死のUMAを布袋に入れ持ち帰ろうとしている。バイクに乗りエンジンを掛けると、あたりが真っ暗になった。


( ブウゥゥゥン )


漆黒の闇と化した森の中、四方から迫り来る巨大に光る真紅の瞳を避けながら、必死に逃亡する密猟者たち。気づくと、サンクチュワリの中心地である、隕石間近まで到達していた。

密猟者A:「ぜぇぜぇぜぇ。何なんだよ、森の外へ向かっていたはずなのに、真逆に来ちまったぞ。」
密猟者B:「それにしてもデカすぎるな、この隕石は。」


見上げる先に、禍々しくそびえる巨大隕石が鎮座している。刹那、腹の奥底を震わせる重低音な異音が鳴り響いた。

(シュピッ ズゴゴゴゴゴゴォォオオ)

隕石の一部に亀裂が入り、ドアのようになった石板が開く。すると、入口を屈みながら中から巨大な人影がぬくぅっと出て来た。



【政府サイド】

教授が放った蜂型ドローンでその様子を監視していた政府は、危険を察知するや否や、特殊監獄に秘密裏に収監していた“ある生物”の解放を承認する。これが役人との接見で退出直前に教授がお願いした内容であった。 

薄暗い牢獄の奥の椅子に座っている黒い影。人間の領域を軽々と超えた隆々の筋肉質で体系で4mは超える身長である。足元は古代の始祖鳥のような鋭い爪を持つ鳥類の足のようで、顔は暗くて確認する事が出来ない。


獄長:「…で、出たまえ。 陸奥教授からの依頼だ。」
謎の生物:「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」



つづく

【 MADE IN XX ‐第2話‐ 】