『君の名は。』感想

『君の名は。』を見てきたので手短に感想。ネタばれなしに書くのは大変難しいが、以下とりあえずネタばれはないと思う。

このタイトルでまず思い出すのは戦後すぐに一世を風靡した『君の名は』だ。ラジオドラマから映画化され、テレビドラマにもなったと思う。「番組が始まる時間になると、銭湯の女湯から人が消えた」という伝説(本当ではないらしいが)もある大ヒット作。再会を約しながらなかなか出会えない2人のあれやこれや、という話で、オマージュもたくさんあるはず。

2016年作品である『君の名は。』も、ほぼ同一のタイトルだけあって、似た部分はある。ネタばれを避けるために公式サイトの文章からとると、

「まだ会ったことのない君を、これから俺は探しに行く。」

というわけだ。戦後すぐの混乱期ならいざ知らず、このメディアの発達した現代社会において「君の名は」と問わねばならないような状況が生じうるのかと思わなくもないが、これも公式サイトからとると、

「私/俺たち、入れ替わってる?」

というわけで、そもそもこの主人公の2人、体が入れ替わることでお互いを知り合うことになった。その意味では映画『転校生』、というかその原作でいえば山中恒の児童文学の名作『おれがあいつであいつがおれで』っぽくもある。そういうファンタジー設定であればいたしかたなかろう。

このあとのストーリー展開に触れるとネタばれになるのだが、「ゴジラと併せて語りたくなる映画だ」と言っている人がいて、なるほどと思った。まったくテイストの異なる作品だが、いろいろな意味で、今年を象徴する2作ではないかと思う。

そういえば『君の名は』のラジオドラマ放送は1952年、映画の第一部(第三部まである)は1953年公開だった。初代『ゴジラ』は1954年作品で、つまりほぼ同時代だ。『シン・ゴジラ』と『君の名は。』がいずれも今年公開されたのは、その意味でちょっと感慨深い。なんというか、「ひと回り」した感もある、といったところだろうか。数年後の2020年には東京オリンピックが控えている。さらにもう少したった2025年をめざして大阪に万博を誘致しようという動きもあるそうだ。あのころから約60年。何なのだこの昭和史リサイクルは。

もちろん、今はあのころとはちがう。ちがうからこそ、かつてと似たサイクルをもう一度たどってみるのも面白いのかもしれない。

ともあれ、映画自体はとてもいい作品だと思う。いい意味で、これまでの新海誠作品とはひと味ちがっている。より一般受けしやすそうというとあまりほめことばっぽくないが、新海作品の特徴である抒情性はちゃんと残ったうえでのことなので、これはいい変化ではないかと思う。聞くところでは東宝が「ポスト宮崎駿」として強力に押しているのだそうで、実際にそうなるかどうかは別として、少なくとも今までのところ興行成績は順調のようだ。

高校生、大学生あたりの層がカップルで、あるいは同性グループでたくさん見に来ていたのだが、大人が見ても悪くない作品かと思う。声優もアニメっぽい演技でないので、アニメが苦手な人もけっこういけるのではないか。光の描写が美しいのも特筆もの。全編そうだが特に夜空。夜空を見上げたくなる映画、と表現しておこう。

ということで、皆さんにお勧め。感想文終了。



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