『ズートピア』はよかった

最近巷で『ズートピア』が話題になっているので見てきたわけだが、世評にたがわずなかなかよかったのでひとことだけ感想など。ネタばれはあんまりない・・はず。

ひとことでいえば、実にディズニーらしいアニメ。小さい子どもでも楽しめるストーリーや親しみのわくキャラクター、喜怒哀楽のはっきりした流れにときどきドキッとさせるポイントを入れて、最後は大団円。実に手堅い。キャラクターグッズにスピンオフ作品、テーマパークのアトラクションまで、今後の展開が目にみえるようだ。

かつ、最近のディズニー作品らしく、大人の鑑賞に耐える深みも持っている。さまざまな動物が入り乱れて暮らす都市であるズートピアは、さまざまな人種や宗教、年齢や社会的立場を持つ人々を抱える現代都市の姿そのものだ。そうしたダイバーシティの度合いが高い環境下で私たちがつい陥りがちな偏見や差別を、この映画は加害者、被害者双方の目線で体験させてくれる。

体の小ささゆえに警察官には不向きと決めつけられるウサギ、ずる賢いというステレオタイプゆえに差別されるキツネ、肉食動物に生まれついたという出自のために疎まれ恐れられる虎やチータたち。私たちの社会にも、「立場が似ている」と思い当たる人たちがいるはずだ。しかし受ける側にとって「ひどい仕打ち」も、する側にとっては「やむを得ない」事情があったりする場合がある。いい悪いで簡単に片づけられるような問題ではない。

偏見や差別を乗り越え、信頼できる間柄になるためにどうすればいいか。主人公たちは悩み、苦しみ、もがく。自分がどの立場に立ったとしても、深く考えさせられることになる。もちろん現実の社会における問題はもっと複雑で、映画のように2時間で解決するようなものではないが、この映画を見た多くの人が、今後折に触れ、差別や偏見に心折れ、それでも立ち向かっていった動物たちの姿を思い出すようになるのではないか。

「努力すれば夢はかなう」というメッセージは、実にディズニー的、アメリカ的な楽天性に満ちたもので、中には「けっ、そんなうまくいくわけないだろ」といった斜に構えた反応をする人もいるだろうが、それよりはるかに多くの人たちを勇気づけるだろう。思い通りになることなどめったになく、失敗が続くとしても、努力を続けること、努力を貴ぶことが大切というメッセージは、子どもならずとも繰り返し肝に銘じたいものだ。

主題歌になっているShakiraの「Try Everything」はそれをよく表している。「アナと雪の女王」の「Let It Go」も名曲だったが、これも実にいい曲だと思う。特にサビ部分で繰り返される「No I will not leave, I wanna try everything, I wanna try even though I could fail」は何度聞いてもぐっとくる。

昨今の社会状況をみると、この映画が今、しかもアメリカで作られたことには大きな意味があるのではないかと思う。できるだけ多くの子どもたち、大人たちが見て、いろいろ感じたり考えたりするといい。

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