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"和月伸宏監修"『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』は名作に…?

2023年07月06日、フジテレビ系列ノイタミナ枠で和月伸宏原作漫画『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』の新作アニメ放送が始まりました。本作は1994年に連載が開始され、1996年から1998年に掛けてフジテレビ系列でアニメが放送された過去がある為、今回のアニメ化は原作第1話から再構築する所謂リメイク或いはリブートに分類される作品になります。

本記事では今回放送が開始されたものを2023年版、最初のアニメ化作品を1996年版とします。

和月伸宏完全監修という看板への期待

2023年版の放送が告知された昨年、私が驚いたのはアニメ公式サイトのイントロダクション及び配信された各社記事に並んだ「さらに原作者・和月伸宏が自ら、キャラクターデザインやシナリオなど全編に渡って完全監修する。」という謳い文句でした。90年代の漫画をもう一度第1話からアニメ化するということだけでも驚きでしたが、原作者が制作に強く関与するということで頭に過ぎったのは『今度は和月さんの納得する物を観ることが出来るのかもしれない』という期待でした。

というのもるろうに剣心の原作単行本を読んでいる方ならば分かることですが、単行本には漫画のコマ割りの中に時折挿入される和月さんによる手書きの短文エッセイの様な領域があります。そこで和月さんは1996年のアニメ放送開始当初から作品の出来について不安であるかのようなことを仄めかしており、第1クールが終了した時点では明確に不満を述べていたのです。

お久し振りです和月です。この巻が店頭に並んでいる頃には既にTVアニメは放送されているでしょうがここでもう一度言っておきます。和月はアニメに関してはほとんど関与出来ません。ですから声優さんへの意見やアニメへの要望などは、和月の所へ手紙を出しても無意味に近いので制作会社集英社のアニメ部署の方へお願いします。漫画への意見要望抗議は責任を持って和月が受けますがはっきり言ってアニメの出来不出来には責任持てません。本当にアニメ制作スタッフのプロとしての誇りと魂を信じて任せるしかないのです。よい出来を願っていますが、どうしようもない出来の場合はその時は和月が漫画家生命をかけて対処しますのでとりあえずどうか10話ぐらいまでは見続けて下さい。では。

単行本9巻135ページより引用

2023年版の公式サイトに掲載された和月さんのコメントも「今作は信頼できる新スタッフと忖度一切なしのガチ選考で選ばれた実力派新キャストでの制作となります。」という部分が悪い意味で話題になり(これは受け手側の曲解・邪推かもしれませんが)、「和月さん変わってないな」と懐かしく思ったるろうに剣心ファンも多かったのではないかと思います。

1996年版アニメへの不満

私にとってるろうに剣心は何度も何度も読み返すほど大好きな漫画で、1996年版のアニメも好きな面は多数あるのですが、大幅な話の流れの改変や必然性を感じない台詞の変更、漫画では印象的に描かれている場面をおざなりに扱っていること(これは私の主観です)など不満点も数多くありました。

そこにこうした原作者の思いを目にしていたこともあり、永年『もし原作者の意向が強く反映されたアニメが第1話から制作されたら…』と叶わぬ夢を抱いていたのです。そこに今回の2023年版の報せですから、どんなものが出来上がっているのか放送を待ち侘びていました。

2クールという放送期間と懸念

さて、シナリオも和月さんの監修が入るということで気になるのは1996年版で多かったお話部分の改変についてです。

お久し振りです和月です。TVアニメも始まって早三か月、皆様の感想はいかがなものでしょうか?和月としては当初危惧していたよりずっと良い出来になっているのでホッと胸を撫で降ろし安心している所です。特に作画に関しては俺が色々とキツい事を言ったこともあってか、かなり頑張って下さって見事にプロの誇りと魂を見せてくれて嬉しい限りです。もちろん、全体としては、演出の間の悪さや脚本の詰めすぎ(刃衛の話が二話ってのは今でも
どうしても納得いかない。)や見当違いで赤面モノのサブタイトルなど気になる事はまだありますが監督さんと色々と話をしましたので、これから徐々に改善されていくと思います。乞う御期待。

単行本10巻21ページより引用

ここで触れられている鵜堂刃衛とは幕末の京都を経験し明治という時代の新しい秩序の下でも殺人欲で刀を振るい続ける人斬り。彼との闘いの最中で剣心は封印した筈の人斬り抜刀斎の人格に立ち戻ってしまうという展開が描かれるのですが、そうした剣心の眠っている人格を見た刃衛は過去を断ち切り贖罪の為"不殺"を誓って生きる剣心に「人斬りは死ぬまで人斬りだ」と告げて息絶えるという非常に重要な役どころを担っていることが原作を読んでみると分かります。ところが、1996年版では原作漫画で6話に渡った話を映像化にあたって6・7話の2話で纏めているのです。

漫画をそのままアニメというフォーマットに落とし込むことが必ずしも良い結果を生むとは限らないという意見があるということは当然承知していますが、やはりこの話は観ていて物足りなさといいますか、私は原作で感じた重苦しさが欠けたものになってしまったという点で満足出来ませんでした。

原作をどの様にアニメへ変換していくのかは一義的には脚本家に権限があるかとは思いますが、和月さんとしてもそうした取捨選択は不満だったのかもしれません。

また、鵜堂刃衛の件はあくまでも一例に過ぎず、1996年版でこうした変更は数えきれない程でした。それらが良い結果を生んでいれば一応納得出来るものですが観ていて疑問を感じる場合が多かったこともあり可能であればそのままの形を観たいと思ったものです。

今回のアニメ化放送開始前に発表された放送スケジュールは2クール連続とのこと。1996年版はアニメオリジナルの話も含めて東京編が27話、京都編が35話といった具合でしたから、単行本28巻に及ぶ物語全てを描くことは当然不可能。2クールならば1996年版でアニメオリジナルに充てられた時間を原作の丁寧な映像化に振り分け京都編開始前程度で放送が終了するのではないかと推測出来ますが果たしてどんな構成になるのか今から気になるところです。

期待と不安

私の様な視聴者と和月さんにとって不完全燃焼に終わった1996年版という前例があったこともあり、2023年版の『原作者・和月伸宏氏が完全監修する』という謳い文句には期待が膨らみます。

勿論、『完全監修』という言葉から我々が受ける印象と制作現場の実態には幾らか乖離があることは理解していますし原作者がアニメ制作へ積極的に関与した結果、評価の低いものが出来上がる可能性もありますので過剰な期待は禁物という点も承知しています。

それでも1996年版に幾らかの不満を抱いていた人にとってはそれらを解消したものを観るチャンスを得たという思いもしない幸運が舞い降りた訳で、期待せずにいられないというのも本音なのです。


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