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確かめたい。だから、会いに行く。

続きです。

彼の家へと車を走らせる。
その道筋を懐かしく感じる。

確かめたかった。
私はまだ彼のことが好きなのかどうか。

知りたかった。
彼はなぜ私を拒絶したのか。

いつものように、彼の家の前の車を停める。
深呼吸をしてドアベルを鳴らす。

ガチャリと音がして鍵が開かれドアが開く。

「さくらが来た!」
と彼が言う。
なんなの?
その第一声。

「良く来たね!」
お前が会いたいって言ったんだろうがよ!

目の前の彼を見る。

もう彼を好きじゃなければ、ただのおじさんに見えるはず。まだ彼を好きなら、格好良く見えるはず。
それで私は自分の気持ちを確かめようと思っていたのだ。

彼は。
仕事用の茶色のシャツを着ていて、それが良く似合っている。
白髪交じりの髭は私のちょうど好みの長さで素敵。

つまり。
とっても格好良く見えた。

くそー。
私。
あんな思いをしたのに…。

まだ好きだったわ!!!

「来たよ!」
そう言って彼のケツを叩く。
「もーう!!」
それしか言葉が出ない。

ボロボロと泣き出す私を彼が優しく抱きしめる。

「ごめん、さくら、僕が悪かった。」
おいおい。
何度目だよ。
もう飽きが来るほど聞いたセリフだよ。

私が泣いて、彼が謝る。
この玄関で。

いつものパターン。
もう飽きたよ。

「とにかく入って。話をしよう」
と彼が言う。

「さくらがいなくなって、僕はすごく寂しかった。」
私がいなくなったわけじゃない。
お前が拒絶したんだろうがよ!
勝手な男だな!!

「さくらがいなくなって、いろいろな人と話をしてみた。それでね。飲み会ぐらいでさくらを失うなんて、自分は馬鹿なことをしたなって思ったんだ」
ああ、そうですか。
マトモな人と話が出来たようで、なにより…。

「ひとりで考えているとね、だんだん考えが狭くなってしまう。僕はさくらのことを好きすぎるあまり、さくらしか見えなくなっていた。他の人の考えなんて聞こうとも思わなかったし、さくらと僕だけがいればいいって思ってしまったんだ。」
うん、そんな感じだったよね…。

「でもね。違うんだよ。世の中にはたくさん人がいて、関わり合いながら生きていく。そんな当たり前のことが僕にはわからなくなっていた。そのぐらい、さくらのことが好きだった。きっと、この一年間、さくらは僕の束縛のせいで、ずっと苦しい思いをしていたと思う。本当にごめん。」
そう、だね…。
私は苦しかった。
自分の思うように生きられないことが。

「これからは、なんでも好きなようにしていい。飲み会に行ってもいいし、誰と関わっても構わない。」
おいおい。
そのセリフを聞いたのも、何度目かだぞ??

「だから、僕と一緒にいて下さい。」

そうかー。
そう来たか-。
そう来るよなー。

・・・。
出来レースだと思ってるだろ??

黙って話を聞いていたが、思ったことを口に出してみた。
「でもね、好きなようにしていいって言っても、私が好きなようにしたら、また苦しくなると思うよ?私はもう、我慢して生きることはしない。好きなように生きる。それで、しんちゃんが苦しむんだったら、恋人じゃない方がいいと思うよ。それにね。しんちゃんが、そうやって私を拒絶するたびに、私は本当に辛い。しんちゃんも辛いんだろうけど、私も辛い。もう、同じことを繰り返すのはイヤ。また同じことが起きるのを怖がりながら一緒にいるぐらいだったら、もう、友だちでいいじゃん。ね?」

彼が言う。
「さくらは、僕とは友だちにはなりたくないって言ってたよ。」

私「友だちには、なれないって思ってた。友だちになって、しんちゃんが誰かと恋人になるのを見ているのが辛いって思ったから。でも、あんなふうに急にいなくなられるぐらいなら、友だちでいる方がいい。今回は本当に辛かった。ずっと泣いて暮らしてた。しんちゃんみたいに「いなくなって寂しい」なんて表現できるレベルじゃないんだよ。心が引き裂かれるかと思うほど苦しい時間を、泣きわめきながら、なんとか誤魔化しながら生きて、日々を暮らして、ようやく落ち着いたところだよ。もう、あんな絶望は味わいたくない。だから恋人には戻らない。」

彼「もう二度としない」
嘘つけ!

私「しんちゃんはまた、同じことを繰り返すと思う。私はもう、それはイヤ。」

彼「僕のこと、もう嫌いなの?」

くそー!!!
悔しい…。

私「好きだよ!玄関を開けて、しんちゃんが出てきて、カッコいいなって思ったよ!嫌いならカッコいいなんて思わないよ。だからこそ、もう、あんな思いをするのはイヤ!」
彼「そっか。髭伸ばしといて良かったな。」
おいおい、そこ??

彼「友だちなんて、つまんないよ。恋人でいようよ。僕はさくらを愛してるし、さくらは僕を好きだって言ってくれた。それでいいじゃん。ね?」

良くねーだろ!!
私の話、聞いてる??

私「うーん・・・。」

彼「乗り気じゃないなら断ってくれてもいいんだよ?」

ハグの姿勢のまま逡巡する私。
え?断れるの?
そっか!
断るなら…。
今しかないよな!!

私は。
彼と別れたあとに手に入れた自由を手放せない…。
世には楽しいことがたくさんある。

これで彼と元サヤになったら、また束縛の日々か…。

でも。
目の前にいる彼のことは、やっぱりどうしても嫌いにはなれない…。

ここにいる彼を手放せって方が…。
無理だ。

よし。
決めた。

私「わかった。でも、恋人に戻っても、私は今までみたいに我慢しない。したいことはする。自分が悪いと思わないことは、する。私の判断でする。それが耐えられなくなって、またこの前のようなことが起きるなら、もう今度こそ戻ってこない。次は無いよ。」

彼「わかった。さくらが一緒にいてくれれば、それでいい。なんでも好きなようにしていい。そのかわり内緒にはしないで?もう、あんなことしない。さくらに辛い思いはさせない。僕は生まれ変わった。」

嘘つけ!!!←2度目。

でも、いい。

拒絶されたままでは、この恋は終われなかった。
あのまま終わらなくて良かったと心から思う。

だから、復縁というこの選択は間違ってない。

でも、これで。
もう一度彼が同じことをしたら。
その時は本当に終わりにしよう。

私には家族もいる。
友人もいる。
noteもある。

新しい世界は、いくらでもひらける。
そのことを、もう、知っている。

彼に縛られたまま終わる人生になんて、もう戻れない。

私は、私の好きなことをする。
好きなことをして生きていく。

それに、ついてこられないようなオトコは不要だ。

ある人が言ってた。
「しんちゃんは、さくらんを失ってこそ、変われる」
って。
でも、それじゃあ私になんの恩恵も無いじゃない?

ここまでやってきたんだもん。
せっかくなら、彼が変わるところを、この目で見たい。

私は今回の別れで、自分の慰め方を知った。
だから、もう、彼との別れは怖くない。

さて、彼は。
どこまで頑張れるのか。

どこまで変われるのか。

皆さんも一緒に見守ってやって下さい!笑