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20171102 thanks Ken and chelcy!!

寒さで手の感覚が薄れ、体力の限界まで身体を酷使していたために自転車を押す力も入らない。
私は私を追い越していく車を横目に憎しみを覚えるほどに憔悴し疲弊していた。

誰かが助けに来ないだろうか。荷台が空いている車もよく通るが助けようとは思わないのだろうか。このまま左に転んで怪我をしてこの旅も終わりになってしまえばいいのに。そもそもこの旅も夢物語で現実では眠っているのではないかという感覚すら覚えた。
ネガティブな感情で胸が一杯になっていた私はさぞかし恨めしそうな表情をしていただろう。

もうモーテルはキャンセルしてこの辺りでテントを張ってしまおうかとも考えていた時、
一台のトラックが前方に止まった。
もう、まさか私のために神様が、いや、運転手が止まってくれるはずもないと思っていた。
通り過ぎようとしたときに運転席のドアが開いて『どうかしたのか?』と聞かれたことすらまだ夢の続きを見ているのではないかと思っていた。
ここで遠慮していたら一生損をすると思い、一生懸命にジェスチャーで状況を伝えてタイヤがパンクしていることを伝えた。
因みにだが、初めてタイヤのパンクは”パンク”と言わずにフラットタイヤということを知った。

彼は私が自転車に乗らず、押して歩いているという状況で大体は把握していたらしく、直ぐに理解してくれてトラックの荷台に荷物と自転車を積み込み、私を助手席に座らしてくれた。

車を運転していた彼の名前はケン。体格の良い白髭を蓄えた優しそうな男性だ。そして後部座席にはタレ耳の雌の大型犬のチェルシーが乗っていた。

車でも近くのキッチナーという街まで一時間ほどかかる。私はヒッチハイカーは間を持たせなければならないという先入観のような使命感のようなもののせいで、一生懸命片言の英語で会話を試みるが、『何を言ってんだかわからないよ。私は耳があんまり良くない方だから』と優しく言われてしまい、心が折れかけた。

そんな感じの伝わりそうで伝わらない会話のシャドードッチボールをしたり、チェルシーを愛でたりしているうちにホームセンターに着いた。
正直なところどこに連れて行かれているのか理解せずにイエスの返事をしていたので、街に着いたら放り出される覚悟だったが、本当に親切だった。
そこで修理のfixという単語の意味を知り、とにかくチューブのパッチかチューブそのものを交換するか、どっちかを買いなさいと言うことらしい。
どっちかを使って片方を予備に持っていると良いなと考えた私はどちらも買おうとしたのだが、どっちかにしろと言われた。
タイヤがパンクした状態をまだ目視で診察していなかったが今までに聞いたことがない大きな音だったので、恐らくはすり減っていたタイヤに障害物が当たってチューブをタイヤごと穴を開けたのだろうという想像をしていた。

兎にも角にも、チューブさえ買っておけばどんな状態でも対応できるのでチューブを購入する事にした。

それから、『モーテルまで送るよ』という内容は理解できたのだが『修理を自分できるかい?』みたいな修理の事を訪ねられたのでとりあえず出来ると答えたところ、なにやらモーテルの方ではなくて住宅街に車は進み、一軒の家に辿り着いた時に初めて彼のガレージで修理させてもらえるということを理解できた。

二人で自転車を運び入れて、ガレージでチューブを交換し、タイヤの空気を入れてから再び車に戻る。
それからモーテルまで送ってもらった。
本当に至れり尽くせりというか、感無量というか、言葉も半分くらいしか理解していないし話せない外国人の私にここまでしてくれる事に対して感動してしまった。

何かお礼をと思って、渡せるものを探したがここまでのお礼に渡せる金額は持ち合わせていないし、渡したら多分引くだろうと思いシガリロの箱があったので煙草は吸うか尋ねるが吸わないというので、音楽は好きかと聞いてみて、カーステは持ってるから、それで聴いたりするよという事だったので自分のアルバムとレーベルのピンバッジを渡した。

別れ際に、『私の家はあそこだから何かあったらノックしてね』と言ってくれて、本当に今思い出すだけで胸が一杯になる。
久々に暖かい布団とシャワーを浴びるべくモーテルにチェックインしたのだが、『自転車も部屋に入れるなら一番大きい部屋にするわね』と言われてしまい、最初は『あぁ、ありがとう』程度に聞き流したが予約した値段よりも二千円多く取られた上にWifiが非常に弱くて使い物にならない所だった……。
それで文句を言ってもしょうがないし、他に行けと言われてももう動く気力もないので文句も言わず、むしろ部屋を泥だらけに汚してごめんねという気持ちを込めてチップを置くまでして翌朝を迎えたのだった。

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