20171022.23.24雨に負ける
翌朝、夜明けとともに起きる。
浜辺からの朝日はとても綺麗だったが、気温が低くなったようでとても寒い。
朝飯に昨日のビザ屋で食べきれなかった分を食べたが冷えても美味しい。しかし、店員とのやり取りを思い出すと悲しい二十ドルの味になる。
結局、シカゴ滞在時に今後の野営に向けて、アルコール燃料や食料の確保など、まともな準備すらせずに出発してしまった。
昨夜は運良く浜辺があって野営が出来るような所だったから良かったものの、五大湖の縁を離れれば今後は内陸をデトロイトへ向けて横断していくルートだ。
日本で野営しながら自転車旅行をした時とは環境が違う。
その土地の治安もわからなければ、グーグルマップだけでは野営できる場所の検討もつきにくい。これまでのいきあたりばったりでは何とかならない事だけで済めば良いが、最悪の自体に陥るやもしれない。
そういう事をこの時の私はまだ気がついていなかった。
シカゴに滞在していた時はむしろ暑かったくらいだったので気が付かなかったが、緯度は北海道と同じなだけあって、過ぎ去る景色はすっかり秋の色になっていた。
国道に入るまではトレイルコースと呼ばれるルートをよく走った。
舗装されているところもあれば無いところもあったりするのだが、そういった細道を走るのは景色がよく変化してくれるので楽しい。
貨物列車が走る線路の隣を紅葉を眺めながら走ったり、まるで海のような大きな湖の対面にして立派な家が立ち並ぶ道を走ったりするのだ。
国道はそれで緩急も無く、道も舗装されていて走りやすいしスピードも出るのだが走っていても退屈だったりする。
因みに、アメリカのインターネット事情だがほぼ百パーセントのお店でWi-Fiスポットがある。マクドナルドはもちろん道の傍らにあるガソリンスタンドにもある。それもかなり強めの電波が飛んでいる。
しかし、それは完全無料かと言われればそうではないタイプのやつで、デモ版として数時間使わせた後で一時間から三十日間などのプランを購入して使用できるタイプのものだ。
寧ろ、途中で入ったマクドナルドでさえもそのタイプしか無かった。それよりもただの公園ですらWi-Fiスポットがある場所もあったことに驚いた。
恐らく、完全無料のWi-Fiを使って旅をしていくには街をよく経由しながらスターバックスを見つけながらルートの確認をしていかなくてはならないだろう。ヒッチハイクで街から街に行く場合は困らないと思うが、数時間も田舎道を走らなくてはならない自転車旅行では中々大変だ。
私の場合は、もともと日本で購入していた楽天国際SIMカードをいざという時の予備回線として使用し、普段は上記の何処でもあるWi-Fiスポットの三十日間使い放題のプランを購入して使用していた。
後述するが、泊まっていたモーテルでも問題なく使用できたし、教会の裏で野宿した時も快適に使用できた。その位にポピュラーなものらしい。
さて、それも踏まえて話に戻ると
一応、本日の目的地であるブリッジマンに無事に日没前につくことは出来た。
しかし、宿の事までは考えていなかった。
それでは一度、マクドナルドで作戦会議と腹ごしらえをしようと言う事で入りビッグマックとドリンクの紙コップを注文し、さて作戦会議だと思ってスマホでWi-Fiスポットを探すも先のとうにデモ版を使い果たしたWi-Fiスポットしかない。マクドナルドなのに無料のWi-Fiスポットが無かったのだ。
ここで私はプランの購入を考えるが、楽天のSIMカード回線は生きていたので、取り敢えずそれを使用しながらこの辺りで野宿をできる所や安宿を探すものの、回線が非常に弱い。
日没時間も迫り、辛うじて出した結論が教会の裏手でテントを張らせてもらうという事だった。
教会に向かい誰かいないかノックをしてみるが、どうやら土曜しか開いてないらしい。本日は月曜日で今にも雨が降りそうだ。
そんな時、一台の車がラジオを大音量で流しながら教会の駐車場に入ってきた。
乗っていたのは白髪の優しそうなお爺さんで、私はモシカスルかもしれないと思いアタックしてみることにした。
「こんにちは、あなたは神父さんですか?」
(通じなかったのでグーグル翻訳をみせる)
「いんや、キリスト教徒ではあるけど神父さんではないよ。どうかしたの?」
「(どうかしたの?をなにかほしいの?と勘違いした)あー、今夜泊まるところがない」
「んー、それは助けになれなさそう」
「オッケー、ありがとうございます」
なんかこういったチグハグな会話をして玉砕した。
おじさんはこの辺に住んでるん?庭先貸してくれへん?くらい言えれば良かったのだが、前回のピザ屋の前で話しかけてくれたお爺さんの反省を生かせず。
雨も本降りになり、暫くすると入れ違いで別のお爺さんが車でやってきた。
その人は何と教会の建物内に入っていき、電気も付けたのが窓から確認できたので、今度こそ!と思い行ったのだがハローと言ってノックをしてもフルシカト、こちとら切羽詰まっていたのでドアノブも回してみたが鍵を内からかけられていた。窓から覗くと何やら御食事中のようでマクドナルドのドリンクとハンバーガーを手に持ち、部屋の奥へと消えていってしまった。
ここでハタと気が付いたが、私がしていた行動は明らかに不審である。
奥に消えていったのではなく、奥にあるショットガンでも取りに行ったのかもしれない。という妄想まで働き、慌ててその場を退散した。
雨も本降りになり、便意も打ち寄せ、いよいよ切羽詰まっていたので、覚悟を決めて教会の裏に雨に濡れながら急いでテントをはって、近くの林で気張った。
雨に振られるとチャリンコツーリストは弱い。
前方不注意になるわ、タイヤも滑るわ、で凄く神経質に走らなくてはならない。
そして何より身体が冷えるので精神的にも体力的にも辛くなる。
テント泊も正直なところ雨の日はしたくない。乾かすのが面倒だし、濡れたまま運ぶと重量が増す。
雨の日は屋根のある場所から動かないに限るのだ。
その日は自分の運の無さと準備不足を認識して寝床に入った。
そして翌朝も雨天。
昨日の反省も踏まえてルートはしっかりと確認。さらにその途中のお店や野宿出来そうな教会や公園を寝る前にピックアップして置いた。
しかし、雨だ。八時位までテントの中で弱まるのを待ってみたが、ますます強まるばかり。
公園や浜辺だったら一日テント内で待機しても構わないが、流石に町のど真ん中にある教会の裏でテントを建てているといくら雨でも通報されかねないし、何よりも迷惑になる。
覚悟を決めて雨に濡れながらテントを片した後に出発した。
一時的な雨ならまだ走ることも出来たかもしれない。
一向に止む気配のない雨は一体何時まで続くのかと不安になりアプリで調べてみると、どうやら明日まで続くらしい。
雨水と一緒に流れ落ちるヤル気。寒さでかじかむ両の手足。雨に濡れてスマートフォンもうまく操作できず、ルートの確認をしつつ三十キロ走るのに五時間もかかっている。
ようやく何もない道を抜け、ナイルズという町に辿り着いた時、二つの選択肢を作った。
一つは、温かいシャワーが浴びれる安宿で雨が止むのを待つこと。
二つ目は、この町を通り過ぎて少しでも進むこと。
ナイルズを通り過ぎればルート上、暫くは宿泊施設はないので、ルート上から近くと言っても数十キロはあるであろう道を走って別の町の宿を取るか、拙い英語でそのへんで歩いている人にシャワー浴びれないか交渉するか、そのまま野宿になる。
しかし、シカゴを出発して距離を稼げていない現状もあり、少しでも次の目的地であるデトロイトまで進んでおきたい。
色々なことをぐちゃぐちゃと考えていたら、水たまりの水がサンダルに跳ねて寒さで赤くなった素足にかかった。吐き気をもよおすような不快感。これまで色々と考えていた事が雨と共に流れて、私は温かいシャワーの事しか考えられなくなった。
最初に向かったモーテルはオフィスが閉まっていて、窓には電話しろという文言と電話番号が記載されていた。今後必要になるだろうと思いシカゴのホステルでSkypeIP電話番号を買っておいて良かった。早速電話して、部屋は空いてますかと尋ねる、というよりもそれしか言えない。何やらベルボーイじゃないんだけど。やら、金曜日がなんたら。やらよく分からないことを言うので、部屋ないの?と聞くと、ノールーム。と言う答えだけは理解できた。そんな事もあり土砂降りの中再び振り出しに戻ってしまった。
半ばヤケになり次に向かったモーテルでようやっと部屋を借りることが出来た。どうやらインド系の家族で経営しているようで、私がパスポートを渡すと何やらすんなりと行かなかった。一応、それをコピーをした紙にイニシャルとサインを書くようにいわれたので書いたのだが少し怪しく思ったので会計のときカードも使えたようだがキャッシュで払うことにした。チップ代抜きで四十五ドル。
少し不信感を抱いたが、部屋の温かいシャワーを浴びたとき、すべての運の悪かった出来事が浄化されたような感覚になった。
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