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何か素晴らしいもの

外に出るまで


朝散歩には、必ずと言っていいほどスマホとイヤホンを持って行く。ラジオや音楽を聴くためだ。今日のお供はポーター・ロビンソンの「Look at the Sky」だった。

(ポーター・ロビンソンを知ったきっかけや、彼の音楽が好きすぎることについてもいづれ語りたい。)

重い体を起こして布団から出る。カーテンを開け、冬でも換気したいので、家じゅうの窓を控えめに開ける。うっすらと、冷えた空気を肌に感じる。
空が青い。いい天気だ。引きこもりで落ち込みがちな私でも、部屋の中から見る外の景色が明るく晴れていると気分も晴れる。

メンタルの調子は万全ではないものの、外に出られないほどでもない。トイレ、歯磨き、洗顔、保湿ができたら、目薬をさしてリップを塗る。ここまでが朝のルーティーンだ。眼鏡をかけてキャップを被り(頭がボサボサでノーメイクなので、これがなければ外に出れられない)、マスクをつけた。イヤホンを差したスマホも、ハンドバッグにちゃんと入れてある。

出られただけで合格


Yahoo天気!アプリで確認した気温は十二度だった。日差しが温かく、思っていたよりも寒くない。
いつも歩いている道を進んでいく。少し横に逸れたり逆回りに歩いてみたりと、日によって少々のバリエーションをつけるが、十五分もかからない。朝散歩の効果を得るには十五分~三十分歩いたほうがいいらしいが、散歩を始めるまでは週に数回の買い出し以外引きこもっていた私には荷が重い。真昼間の、たった十分間だとしても、しないよりはマシだ。ここまで「朝散歩」と言ってきたのは、実際には「昼散歩」なのだ。私が超えるべきハードルは地面スレスレの高さにある。

何か素晴らしいもの

私の耳には何の雑音も届くことなく、音楽だけが語りかけてくる。
「Look at the sky」
―言われた通りに空を見た。青い空に白い雲。紅葉の並木道は、もう八割方散ってしまっていて少し寂しげだ。裸になった枝たちが、頭上の電線を押しのけんばかりに伸びている。下を向いて歩きがちで、今までまったく気がつかなかった。強い風が吹いたらバチバチしそうでちょっとこわい。さすがにあれは切ったほうがいいんじゃないだろうか。
「I’ll be alive next year」
―よほどのことがない限り、来年も同じようにこの場所で生きているだろう。どうか元気でいますように(公式の日本語字幕では「来年には息を吹き返す」となっていたので、私の解釈は当てにしないで)。
「I can make something good」
―”何か素晴らしいものができるはず”…そうだといいなと思いながら、一歩一歩を踏みしめて歩いた。最も好きなフレーズと言ってもいい。

結局、最短距離で家に帰るつもりだったが、道端に座り込んでいた休憩中の作業員らしき人の目が気になって遠回りしてしまった。
歩き方に癖があるのか右足も痛かったが、結果的に長く歩くことができたのはいいことだろう。

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