『ピクニック』#73

ぐーんと暖かくなった日だったのだ、3月1日。花粉症のつらい症状を持つ人にはさぞかし苦しい日だったろうと思う。かくいう私は近年発症したらしく、とにかく鼻水が出るときと、とにかく目が痒くなるときとがある。ただ、毎日というものでもなく、風邪のように数日かかって止む、という具合だ。それは自分の部屋が汚くてアレルギー反応でてるんじゃないか。そう思わなくもない。
この日はとにかく目頭が痒くなる日だった。わさびがツーンと効いたときに鼻の頭を押さえることがあるが、それに似たポーズをとってしまう。目頭の、瞼が収束するところにみかんの粒くらいのサイズの部位があることを、ご存知の方はいるかしら。たいてい、毛細血管じわじわーって感じの赤みを帯びている、あのみかんの粒。その粒がかゆい。目薬をさすと楽になるので、花粉を流しているのかはたまた、アレルギー反応が抑えられているのか、ありがたい限り。
原宿駅に集合して、代々木公園方面へ向かう。習慣的には代々木八幡駅のほうでスーパーに寄って買い出しする。その、前。原宿駅そば、山手線の線路をまたぐあの橋の上、ハンドパンを演奏している人がいた。ハンドパン、ご存知だろうか。サイズは、身代金の札束をぎっしり詰めたボストンバッグ、って感じ。そのサイズに、金属を不整形に膨らましたような楽器だ。不思議な音と音階がある。そこで演奏していたひとに見覚えはなかったけれど、鳴っているリズムには聞き覚えがあった。ラジオで聞いてイイナって思って買い求めたCDに入っていた、そしてラジオでも流れていた代表曲、だったと思う、RISING。ハンドパンの生音、雑踏の物音と混ざって、やまびこのようだった。遠くから聞こえる、位相の違う音。
それから、南西へ、代々木公園を沿うように八幡駅方面へ向かう。まずリズムアンドブックスに寄って、古いku:nelがないかみてみて(前に、ここで数冊購入した。川内倫子さんの写真が使われているもの)、Saul Steinberg氏の画集がないかみてみて、どちらも見つからず退散。マルマンストアでビールと水を買う。彼女はお昼ご飯にと、近くのバーガー屋さんでホットドッグを購入。ここのはザワークラウトが一緒に挟まれていて美味しい。代々木公園のときはたいがい原宿集合にするけど、近い入り口を使うことがない。私の電車の都合。入るのは、代々木八幡駅近く、その近くに高いネットと運動スペース付きの公演がある、あれは南西側の入り口というのだろうか、そこ。坂をねじれ上がるように左上へ。園内の舗装周回路を横断したら、中央広場だ。15時、おやつどき、平日。上裸でワイワイ楽しげな外国人グループ、大学生の学童先生かに引率してされてきた小学生グループ、余裕を感じさせる文化系カップル、それとふらりと親子で訪れてのんびりしていたり、活発に遊んでいたり、そんなグループ。花見シーズンや夏場と比べると、暖かいとはいえ普段の寒い日々のなかに細く差し込まれた初春の陽気、すぐにと出るにはまだ早い。案の定、日が落ち始めてからはしっかり冷えた。ごろりと寝っ転がって、ビールを飲んで、漫画を読んで(あひるの空だ)、おやつを食べる。彼女が買ってきてくれたおかきと、抹茶ババロア(これがとびきりうまかった。旨味と密度のある生クリームに、薄味に炊かれた小豆、甘みなく香り濃厚な抹茶ババロア、格別だった)。それぞれにビールをこぼして、漫画の展開に一喜一憂して、おやつに舌鼓を打つ。よい、暖かい日のお出かけであった。ベストシーズンの到来は近い。

#ピクニック #180301

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