『ウシ』#95

思い出せないだけかもしれない。これまで90本ちょっと書いてきて、動物を書いてなかったと思う。植物も書いていないか。馴染みのなさもあるかもしれないが、「単語」っていうテーマの縛りに対して「動植物」を挙げることを思いつかなかった、単語とみるにはしっくりこなかった、そういう気がしているがどうだったか。果物はあった、梨。ナシ。
ウシ。ンモォゥ。
モウ、と鳴くんだと思い込んでいた、そういう音だと思い込んでいたけれど、このあいだ五十嵐大介さんの漫画「魔女」を読んだとき、動物の鳴き声が一般に言われる音と少しずつ違っていて、でも描かれている音の方がしっくりきた。しっくりきた、というより、それを読んだ以降はそうとしか聞こえなくなった。ヤギは「メェ」と鳴かず「ンベェ」、ブタの鳴き声は「ブヒ」でなく「ゴイ」。ブタが「ゴイ」と鳴く。確かにそうだった、あぁそうだったかもしれん、そうだそうだ。と、妙に共感した。それから河出書房から出ている「五十嵐大介ムック本」を読んだ。そこでも、動物の鳴き声が一般的に覚えられている音と違っていることが書かれていた。五十嵐大介さんについては自然、身の回りのものものをそっくり受け取れる「絶対自然感」みたいなものがあるんじゃないかと思える。
それで、ウシ。ウシの鳴き声に、ほんとに「“モ”ウ」の“モ”の音があるのか、どんどん疑わしくなってきた。「ンノォォウ」かもしれない、あるいは子音もなく「ンオォゥ」という音かもしれない。ぐんぐんわからなくなってくる。動物の鳴き声に、子音があるのか。犬の鳴き声を「ワンワン」と書いてみたり「bow-wow」とexpressionしてみたり。犬が、吠えるたびに鼻から「ン」と空気を出していたり、上下の唇を合わせて「バ」の発音をしているとは思えないし、ジワジワくるのだ、動物の鳴き声。
ただ、私にとってウシは、生身で目の前をうろつく存在でもなければ鳴き声はどうなっていたかと毎度疑問が浮かぶほど馴染みのある生き物ではない。結構、記号的な存在、象徴的な存在。幼少期、記憶にもほとんど無いけれど深い深い愛情を注いだタオルがあったのだ、という過去についての。真っ白いパイル地のタオルの真ん中に小さく3センチほどの、ナイロンか何かテロテロした素材でぷくっと縫われたウシがいた。どうやら私はその「うしたおる」を大変に愛していたらしく、必ず枕用のタオルに使って、ウシの面がこっちに向くように、顔に触れる・見えるように畳んで敷いた。そうらしい。当然、使い込まれてウシのテロテロはちぎれたところがあるらしいが、全壊する前にそのうしたおるは、親が保管したらしい。
私の、数少ない愛着のあるもの、をいま思い出したもので、肉の話でもなく乳の話でもなく、タオルの話で恐縮だが私の幼少期の記憶にいるウシの話。

#ウシ #180323

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