『現在』#267

過去、未来、ときて現在を考えてみることは過去と未来を貫く数直線の原点Oを定めること、点の打ち方を考えてみること、点の姿を捉えること、そういう言い方ができましょうか。
日付から妥当な話題を引くと、7年前のこの日を原点Oとすれば、その原点Oではアメリカの世界貿易センタービルが崩れている。その点から左のほうの過去、数日や数年ほどではビルはただそこにある。周囲の環境は日一日で変化をしているしビルの内部では人が絶えず忙しなく動いているけれどビルの姿を見るともなく見れば、変わりなくそこにある。その、さらに左へ、ビルの過去を遡れば建設される前のさらの土地と建設後のピカピカの姿を見ることができる。そのころにはそれぞれが現在であった、原点Oであった。未来は輝かしいものだったろう。
さて、視点を初めにおいた原点O、7年前の日に戻す。そこから右を見る。ビルは瓦礫となり、そこには多大な死傷者がいて、世界を失望と怒りと恐怖が巻く。ほどなくして実行者と首謀者とみられる組織が明らかになっていき、対立の構図が出来上がる。そのあいだにビルのあった場所からは少しずつ瓦礫や死傷者が除かれていき、そこはまた、何もない、何かがあった、土地になる。あの原点Oから始まった世界の変化は激しい。変化を、何をもって数値化できるかは色々ありすぎてわからないけれど、数直線をx軸としてy軸を変化の量とすれば、過去から続く曲線のグラフは原点O、x=0では極めて大きな上昇または下降、あるいは変曲点を、示すだろう。y軸に何を取るかでその原点では様子が変わる。平和であることを0として、緊張度が高まることを数値の上昇とみれば、線の傾きはそこで急上昇するだろう。人の安心度をプラス方向として不安をマイナス方向とすれば、y=0をたちまち破ってマイナス方向へ突き落とされていくだろう。上昇し続けていたアメリカの安定感はあのx=0の点でたちまち、上に凸の変曲点を示して下降しただろう。x=0で微分したときのyの値はとにかく、とても大きいか小さいか、0か。
史実は、このようにx=0、現在で微分したときのグラフの値が並ならぬものであるときに、連綿と続く歴史の1ページに明確に刻まれる。
あれから7年経った現在、あのグラウンド・ゼロには四棟の超高層ビルが建設されている。その四棟の中には日本の建築家の手がけたものもある。ゼロに戻されたあの土地に、世界がまた、一本ならず四本の、標を打ち立てた。
いまグラフを微分してみればきっと、横ばい。ただし、値がプラスなのかマイナスなのか、それは現在、知る由もない。

#現在 #180911

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