『瞼』#346

こう、指を動かしている時でも、書きあぐねて指が中空をさまよっているときでも、ぱちりぱちりと瞼は開閉を続けている。止まることなく、眼球が乾かぬよう、眼球表面にホコリがたまらぬよう、開け閉めを繰り返している。
瞼が重い。わかってはいるのだが、いまは眠気が襲って来る時間帯で、朝の6時を過ぎたところで、まばたきのスピードが若干ゆっくりになっていて、閉じた後に開けるまでタイムラグがある。タイムラグ、というか、よいしょと開けるまでの休憩なのだろう、瞼の。…ふう、いま数秒間、閉じて幾ばくかの休息をとった。瞼の休息でもあり、私自身の脳の休息でもある。人間の身体、あるいは脳は、その状態に対して正直である。だいたいにおいて。沈黙の臓器と呼ばれる肝臓に関してはそうとは言えないけれど、例えば眠気について、身体や脳が活動を続けて疲労したならば脳は「疲労」を知覚し、身体に対して休息を促し脳自身は睡眠を求める(言葉の上でいま、正確ではないことは自覚している)。身体は重力に抗う垂直姿勢から横になることを求め、脳は交感神経優位な活動状態からは副交感神経優位な休息状態を求め(睡眠時にそうなるのか、ちょっと自信がないな)睡眠を求める。そのとき、瞼は閉じて目を瞑る。目を開けたまま寝ることはまず無い(半開きとかはあるかもしれんが)。なんでかなと一瞬考えたが、目が開いたままでは意識するとしないとに関わらず視界に映る情報をいつまでも受容してしまい脳が休まらないからかなと思って、たぶんそうなんだろうと納得していま、視覚情報をシャットアウトするために瞼を閉じるんだと結論づけた。
瞼の裏には。縦横無尽に血管が走っている。肌色の皮膚と細かい網目状の血管、鏡の前でペロンと瞼をひっくり返してみればそれは確認できる。けれど、ふだんわたしたちが瞼を閉じたときにその肌色と網目が見えることはない。眼球の焦点距離に対して近すぎるってこともあるけれど、そもそも、見るためにはその対象に最低限の明るさが必要だ。眼球にぴったりと接している瞼の裏には光が届くことはない。眼球表面のごく薄い透明な膜を通して外光が反射してくることはありえそうでちょっと面白いけれど、まずない。それでも、よく晴れた日の屋外で、瞼を閉じて太陽の方を見れば、太陽が薄い瞼を通して光を届けてくれる。透過する瞼はオレンジのようなピンクのようなほんのりとした赤っぽい色を見せてくれる。網目状の血管までは見えない、けれど肌色と混ざり合って赤味を足しているはずだ。
いまのこの重たい瞼は、明るい屋外で元気にしているときとは色や網目の形が違っているのだろうか、なんとなく、なんとなくだけど紫色をしていそうだなあなんて思う。

#瞼 #181129

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