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本名で書いた小説

先日、たまたま入手した本
「横浜文学散歩
(鈴木 俊裕 氏 著 平成元:1989年発行)」
では、個人的に懐かしい地名や
場所などを見てノスタルジーに浸った。

登場する文学者たちの小説を片っ端から読み、
感動する精神的な余裕はないので、
「そういえば◯◯があの辺りにあった」
という思い出だけで満足するつもりだった。

ところが、桜木町駅から徒歩10分のところに
生まれたという獅子 文六 氏がただ一度、
本名の岩田 豊雄 氏で書いた小説
「海軍」が妙に気になった。

「横浜文学散歩」には、「海軍」に関して、
昭和17年に新聞に掲載された連載小説であり、

「真珠湾攻撃で散華した特殊潜航艇の
九勇士の一人である横山 正治 氏を
モデルにした小説」
「真面目な江田島讃美文学」

と記載がある。

基本的に自分は、
小説:創作物は読まないが、
事実に基づいた内容となると話は違う。

それで古書を取り寄せて読んでみた。
昭和37(1962)年 発行、
昭和49(1974)年 十一刷。

就寝前に布団の中で、
または病院の待合室など、
スキマ時間に読み進めたが、
アッという間に引き込まれてしまった。

久々、
「これ読んでみておもしろいよ」
と人に勧めたくなる本に出会った気がした。

舞台は鹿児島、ある一家に男の子が
生まれるところから始まる。
主人公の真面目で真っ直ぐな性格も
かなり眩しいが、
憧れの海軍に、身体的なことで
ことごとくはじかれて(不合格で)
後ろ向きに歩み始めた主人公の友人が
ある日いきなり才能に開花して
生きる道を見つける展開も、
なかなか興味深い。

なお、本名で書いた理由は、獅子 文六 氏が
他の小説に記載した文章で言及している。
以下、「横浜文学散歩」から引用。

「私の従来の作品と違って
事実を主としたものであり、
また書こうとする気持ちも、
日本の勝利を希(こいねが)う
一国民のそれであった。
それを私は区別したかった」

ただ、その内容のために、
戦後の一時期、あのマッカーサーのGHQから
追放の仮指定を受けることになったらしい。

こういう、昔強かった人々の、
純粋で真っ直ぐな思いは、
たしかにGHQが嫌う(怖がる)
ところかもしれない。

今さら、と呆れる方々も多いだろうが、
この本を読んで、

昔の人(男性も女性も)は強かった、
その延長線上に自分はいるのだ、
自分だけでなく先祖も家族も友達もみんな、

という事実を知るだけでも
かなり有意義な時間を過ごせると考える。

ちなみに「海軍」読後の感動が冷めぬうちに、
江田島の風景印を郵便で依頼した。
それが先日、到着した。
旧海軍兵学校の大講堂(現役)と錨、桜。

江田島(えたじま)郵便局の風景印

ネットで絵の内容は知っていたが、
実際に押印されたものを
手に取って間近で見るとまた感慨深い。

オリジナルの一筆箋に
手書きの文書も送っていただいた。
そこでまた感動が増幅される。
これもまた風景印の醍醐味である。


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