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デザイン思考を知ったらしんどくなった話

今となっては「Webをつくる」ことがクリエイティブよりもマーケティング中心となった感がありますが、わたくしがIDEOの「デザイン思考」というデザインとマーケティングを橋渡しするような思想に触れたのが2000年代中盤でした。ユーザーを中心に考え、そこをデザインの論拠としてトライ&エラーを繰り返して問題解決の方法やはっきりしていないニーズや要素をかたちにするというものは、非常に理にかなっていると感じました。(デザインをやっている以上、今でもそう思っています)

で、依頼をいただいてブリーフィングをするわけですが、「こういう感じでこういう技術がイケてて、そういう感じでお願いしたいんだけど」という感じでキックオフミーティングは終わっていることに気づきました。
「なるほど、それはいいとして、ところで、わたくしは誰を中心にしてデザインをすればいいのだろう?」と考えながら帰りの電車で考え込むことが多くなりました。モヤモヤの原因は「ユーザーに関する提案がこちらに共有されていない」というところだな、ということに気づくまでちょっとかかりました。
「クリエイティブの瞬発力のようなものでなんとかしてほしい」という、ありがちな依頼が多いことに気づいてしまったわたくしは、さて、中心はどこだろうと考え込むことが多くなりました。資料をみてプランをざっくり作ることができなくなっていました。「誰が使うことを想定しているのか」とか、「誰を救えるのか」とか、そういう出発点も目的もそもそも説明がなかったのです。そもそも、当時の代理店や大手プロダクションとの仕事では、デザイナーはそういうことに口を挟んだり、共有していただけることがあまりなかったように思います。そこをはっきりと提示してもらえないことがどうにももどかしく、いつのまにか手が動かせなくなっていました。試作と反復どころか、そのきっかけさえ見えないことに強烈な不安を感じました。それはすぐに不信感へと変わっていきました。胸の中に広がる漠然とした不信感を隠しながらデザインしていたのですが、割と相手にも伝わるもので、大きい広告キャンペーンなどの仕事は減っていきました。おそらく、自分で自分自身を追い込んでいたような側面もあったのでしょうが、この時期は本当に辛かったです。当時はスキュアモーフィズムが流行り始めで、打ち合わせで「アップルみたいな奴」とか「やっぱ立体感ないとねぇ」とか、そういうしんどいワードが飛び交い、ブリッとした質感のUIトレンドにも心底うんざりしていました。

父が大病で倒れたことで、拠点を東京から現在の福岡に移したあたりから、規模が大きくタイトな仕事は減り、自由な時間が増えたので、マーケターの人の言葉を読んだり、いち早くクリエイティブからマーケティングに舵を切った人々を眺めつつ、デザイン思考について考えていました。その数年前に共著した本で、マーケターの高広伯彦氏にマーケティングの章を執筆していただいたこともあり、高広氏の言葉に多く触れていたように思います。
小さいながらもゼロから着手するような仕事がぼちぼち舞い込むようになり、ちょっとしたリブランディングのような仕事で、デザイン思考を実践してみることも何度かありました。そこでは、ユーザーのことはクライアントに聞くことができましたし、クライアント自身は「どうしたらよいのかわからないようで、ぼんやりとこうなってたら訴求できるかも」というものを持っているという手応えを感じることができました。デザイン的にはわたくし個人の作風をあてにするような依頼の制作物とは異なり、「クライアントのツール」という側面が大きく反映されたものになっていったと考えています。

で、デザイン思考を多少は実践できたかも、と思って、それを立ち位置として人と話してみようと思ったら、「あー、デザイナーなんですかー、そうですかー、正直、デザインがかっこいいとか、そういうの、どうでもいいんですよねぇ」という自称コンサルの人や、都市伝説かと思っていた「もっとバーッとしてガーッとしたさぁ、ドカーンとした感じの、トビのあるやつやってよ!」的な、バブル期のテレビマンみたいなノリの人など、極端な人にいっぱい会えました(笑)。もうちょっとニュートラルな感じの人と話したり、仕事したいと思いました。

今、デザインをするときに心がけているのは、「とりあえず動く」レベルでもよいので、複数のプロトタイプを早い段階で作り、より納品時のかたちを掴んでもらえるようにしておき、そこからさらに試作と軌道修正を反復する準備をし、できる範囲で体制を整えて次に備えるということでしょうか。デザイン思考というとなんだか高邁な思想のようにも思えたのですが、つまるところは「人間中心」であるところと、「失敗を恐れず反復」し、見えていなかったものを洗い出すことで「誰に何を届けてハッピーにできるのか」を考えるということではないかと思っています。

Webフォントサービスを片っ端から試してみたいですし、オンスクリーン組版ももっと探求していきたいです。もしサポートいただけるのでしたら、主にそのための費用とさせていただくつもりです。