見出し画像

企業の社会的パフォーマンス

企業が社会的責任の原則に基づいて社会的即応性のプロセスに基づいて行動した結果を、企業の社会的パフォーマンス (Corporate Social Performance, CSP)と呼ぶ。

Wood (2010) はCSPを大きく三つに分けている。一つは人々や組織への効果である。すなわち、企業が社会からの期待に応えることによって、人々の生活や自らの組織に対してどのような影響を及ぼしたのか、という視点である。例えば、企業の社会的即応性の結果、企業に社会的責任を重んじる組織文化が醸成されたとすれば、それは組織に対するCSPとしてとらえることができる。

二つ目の領域は、自然環境や物理的空間への影響である。企業活動は時に環境破壊や人々の生活環境を大きく変える可能性を秘めている。それゆえ、企業活動の環境や人々への生活全体への影響をCSPとして測定することが重要である。

最後に、社会システムや制度への影響である。例えば、企業が社会的即応プロセスを通じてその産業の規範を大きく変える可能性もある。こうした、社会システムや社会制度に対する影響もCSPとして考慮することが必要となる。

一方、CSPに関して問題となるのは、どうやってそれを客観的に測定するのか、という問題である。すなわち、CSPは企業の財務業績とは異なり、客観的な金額で表現されるものではない。例えば、企業が社会の期待に応えるような行動をした結果、社会的責任を重んじる組織文化が醸成された場合を考えよう。この場合、この醸成された組織文化が他の企業に比べてどの程度社会的責任を重んじているのかを測定するのは極めて困難である。

あるいは、ある製造業の企業は二酸化炭素排出量を削減している一方、他の製造業の企業は水資源の有効活用をするシステムを導入したとしよう。この二つの企業はどちらの方がCSPは高いのだろうか。このように、異なる企業の行動に対して統一の基準でもってパフォーマンスを測定するのは難しいことがうかがえる。

こうした困難があるにもかかわらず、研究者の多くは何とかして企業のCSPを測定し、それを企業間で比較しようと試みている。こうした研究者は大きく二つの情報源を用いてCSPを測定する。

第一に、企業が自主的に開示する情報を統合する方法である。例えば、企業はCSR報告書やサステナビリティ・レポートなど、様々な活動報告書を発行し、ステイクホルダーへの情報公開を行っている。そして、これらに記載される情報をもとに、統一した基準と統計手法を用いてパフォーマンスを測定する、というのが一つのアプローチである。

もう一つのアプローチが第三者機関の評価を用いる、という方法である。最も頻繁に研究で用いられているCSPの指標は、Kinder, Lydenberg and Domini & Co. Inc. が発行するレーティング指標である。KLDは社会的投資 (SRI) を促すための指標であり、ポジティブな側面及びネガティブな側面それぞれ7つの領域でスクリーニングをし、その評価を行っている (Perrault and Quinn 2018)。

また、日本国内の指標であれば東洋経済新報社が行っているCSR調査がある。東洋経済新報社はこの調査に基づいて日本企業のCSR活動を人材活用、環境、企業統治、社会性という四つの観点から数値化している (山本, 2011)。このような第三者機関によるCSR評価は比較可能性を担保している、という点で非常に有益である。一方、その数値がどのように導き出されたのか、指標の妥当性に関しては常に注意しておく必要があるだろう。

References

Perrault, E., and Quinn, M. A. (2018). What have firms been doing? Exploring what KLD data report about firms' corporate social performance in the period 2000-2010. Business & Society, 57(5), 890-928, doi:10.1177/0007650316648671.

Wood, D. J. (2010). Measuring corporate social performance: A review. International Journal of Management Reviews, 12(1), 50-84, doi:10.1111/j.1468-2370.2009.00274.x.

山本昌弘 (2011) 「「信頼される会社」の研究:「東洋経済CSR企業ランキングデータ」による実証分析」『明治商学論叢』94(1), 19-32.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?