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卒業論文の書き方 その1(仮説実証型論文)

今、APUは期末試験期間であって、夏休みに入る前の苦しい時期でもある。これは学生だけでなく教員も同じで、自分も数百のレポートの採点業務に追われている。

そして、その合間をぬって学生の論文指導や添削をしているのだけれど、彼らが論文の書き方がいまいちわかっていないようで苦戦している(半分以上はやる気の問題だと思うのだが)。

今回は卒業論文、とりわけ仮説を立てて統計手法によって実証するタイプの論文をどうやって書けばよいのか、その流れと心構えをまとめておく。

1. 全体の構成はイントロ → 理論 → 仮説 → 手法 → 検証 → 考察
2. イントロダクションでリサーチクエスチョンを提示せよ
3. 理論はあまりたくさん使わない
4. 理論によって論理的に仮説を導く
5. データを集めと正しい統計手法の選択
6. 自分が何をしているのかを理解する
7. 結果を解釈せよ
8. 論文を書きたければ本を読むな、論文を読め

今回はとりわけ 1. と 2. についてまとめ、残りは後日解説する

1. 全体の構成はイントロ → 理論 → 仮説 → 手法 → 検証 → 考察

自分の研究分野は社会科学系の主にマネジメント分野であり、定量的手法を用いた論文の形式は概ね決まっている。それが、「イントロ → 理論 → 仮説 → 手法 → 検証 → 考察」という流れである。

論文を書こうと思ったならば、まずこの構成に沿って各内容を詰めていくとよい。具体的に各内容とは以下の通りである。

a) イントロ:何が分かっていて何が分かっていないのか、研究質問、研究のコンテクストの説明、論文全体の簡単な流れの説明

b) 理論:自分が用いる理論の説明、自分の研究と理論との関連性

c) 仮説:理論から導き出される仮説の提示

d) 手法:用いるデータの説明、データ収集方法、変数作成方法、分析モデルの説明

e) 検証:分析結果の提示、仮説が支持されたのかどうかの説明

f) 考察:検証結果の意味づけ

概ねこんなものだろうか。まずはざっくりと上記のことを考え、既存研究のレビューなどを通じて一つ一つの項目を深堀していくのがよい。

少なくとも全体の構成を考えずに論文を書こうとするのは愚の骨頂である。

2. イントロダクションでリサーチクエスチョンを提示せよ

イントロダクションは論文の最初のパートである。

このパートは論文の読み手に興味を持たせるうえで最も重要なパートであり、仕上げるのに最も時間のかかるパートである。

例えば、Academy of Management Journal という経営学系の世界的トップジャーナルでBest Articleに選ばれる論文の著者への調査によると、イントロダクションパートには平均で全体の30%の時間が割かれ、45%の著者が少なくとも10回は書き直しをしているという (Grant and Pollock, 2011)。

このように、イントロは最も書くのが大変なパートと言える。

イントロダクションで提示すべき内容の一つとして、研究質問がある。すなわち、論文を探求する意味と言ってよい。どのような問題を論文によって解決するのか、これが明確でないと読み手としては「著者は何をしたいの?」ということになってしまう。なので、明確な研究質問を提示することがイントロでは重要になる。

さらに、「その研究質問が問うに足りるものなのか」という点も重要な視点である。自分が大学院生の時にした研究発表で一番つらい質問だったのは、「その研究質問は探求するに値するのですか?なぜその問いが重要なのですか?」というものだった。

しかし、この問いに真摯に答えることができなければ、少なくともその研究には意味がないと言える。研究者はちゃんと研究の意義を説明しなければならないのだ。

自分の研究の意義を明確にするために、既存研究でどのようなことが分かっていて、どのようなことが明らかになっていないのかを明確にする必要がある。これを示すのもイントロの重要な役割である。

よって、既存研究の渉猟をまずはしっかりすることである。そして自分の研究のポジションを明確にしなければならない。自分の研究のポジションが明確ということは、他の研究との差別化ができていることを意味し、研究分野に新しい視座を提供することにつながる。さらには、研究する意義にもつながる。

経営学の分野では概ね100程度の参考文献が引用されることが多いが、その倍程度の研究の渉猟は最低限必要であると言える。

次回は「3. 理論はあまりたくさん使わない」および「4. 理論によって論理的に仮説を導く」について考察する。


Reference

Grant, A. M. & Pollock, T. G. (2011). Publishing in AMJ-part 3: Setting the hook, Academy of Management Journal, 54(5), 873-879.

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