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三方よしとCSR

三方よしと企業の社会的責任 (CSR) との共通点および相違点を整理しておく。まずは類似点である。第一に、三方よしもCSRもどちらもビジネス主体を中心にした論理である、ということである。例えば、三方よしの主体は近江商人であり、近江商人(売り手)と小売商(買い手)および商圏(世間)の関係性という観点から述べられた概念であり、近江商人とは関係をもたないもの(例えば、当時の他の国の人々や社会)に対する善行を勧めている概念ではない。一方、CSRも企業とそのステイクホルダーとの関係から責任が規定されるものであり、岡本 (2018) はCSRによって高められる社会性は企業の社会性であることを強調している。また、三方よしが売り手、買い手、世間がWin-Win-Winの関係になることを奨励している点は、ステイクホルダー理論が企業にすべてのステイクホルダーに対する価値創造を求めている点と類似しているといえる。

次に相違点であるが、三方よしで考えられている世間とCSRが意味する社会の意味の違いである。前回述べたように、世間とは近江商人の商圏を意味しており、近江商人が活動していた範囲を意味している。もちろん、近江商人が活躍していた時代には飛行機や自動車はなく、その意味で活動範囲は限定されていたと言える。それゆえ、近江商人の商圏も現代の企業の活動範囲よりも狭いものと言える。一方、CSRで規定される社会はより広いものであり、企業によっては世界規模になるものもあるであろう。

また、二つ目の相違点として、三方よしは「陰徳善事」を前提にしているという点があげられる。すなわち、善い行いをあまり人目につかないよう行うことが美徳である、という考えが三方よしの背景にある。これは、CSRとは異なる特徴である。CSRにおいて、企業は必要な情報をステイクホルダーに対して開示することが求められる。企業がどのような社会的活動を行っているのか、CSRレポートやサステナビリティ報告書、統合報告書などでステイクホルダーに開示することが求められているのである。このような責任をアカウンタビリティと言い、情報発信という点では三方よしとCSRには異なる考えがあると言えるだろう (岡本, 2018)。

Reference

岡本大輔 (2018)『社会的責任とCSRは違う!』千倉書房.

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