卒業論文の書き方 その4(仮説実証型論文)

卒論の書き方の最後のトピックは以下の二つ。

7. 結果を解釈せよ
8. 論文を書きたければ本を読むな、論文を読め

一つずつ解説していく。

7. 結果を解釈せよ

データを集めて統計手法を使って分析をすると、何らかの結果が出てくる。

例えば、被説明変数(Y)に企業の業績説明変数(X)に企業の社会的パフォーマンスの指標をそれぞれ用い、回帰分析という手法を使って分析を行ったとする。そしてその結果、YとXに正の有意な関係があったとする。

正の有意な関係がある、ということは、業績が高い企業は社会的パフォーマンスも高い傾向にあることを示している。つまり、二つの変数は相関している、ということである。(しかも、統計的に有意、ということは、その関係性が生じる可能性が偶然ではない可能性が高いことを示している。)

ここまでは、統計ソフトなりエクセルなりを使って、データをぶち込めば出てくる結果である。そして、研究者の腕の見せ所は、この結果をどのように解釈するのか、どのように意味づけをするのか、という点である。

例えば、社会的パフォーマンスが高い企業は、様々なステイクホルダーから好ましい評価を受け、その結果業績が高まるのだ、と解釈する人もいるかもしれない。

一方、そうではなくて、社会的パフォーマンスが高い企業は社会貢献をするだけの余裕があるのだから、もちろん業績も高くて当然である、という解釈も可能かもしれない。

残念ながら、分析の結果からどちらの解釈が正しいのか、あるいは別の解釈をすべきなのかは分からない*。大事なのは、論文を読んだ人が「なるほど、確かにそうだろうな」と納得してくれるかどうかである。

では、どうすれば論文の読み手が納得してくれるのだろうか?
それは、理論に沿って説明できているか否かである。「これこれこういう結果が出たのは、○○理論に基づけばこういうことである。」という説明ができるか否かである。この意味で、理論は論文のもっともらしさを保証するうえで極めて重要であり、理論のない論文は説得力が圧倒的に少ないと言える**。

* もちろん、統計手法の中には傾向スコアマッチングなど因果関係を明らかにするための手法も存在する。しかし、この手法を用いて結果をどのように解釈すべきかはやはり研究者の手に委ねられると言える。

** 分野によっては理論的な説明ではなく、分析結果が重要な研究分野も存在するだろう。例えば、「たばこを吸う人はどの程度一般の人より肺がんになる確率が高いのか」を探求する場合、もちろんたばこの害を説明することは重要かもしれないが、それ以上に「〇〇%、肺がんになる確率が高まる」という事実の方が重要になるだろう。

8. 論文を書きたければ本を読むな、論文を読め

最後に、卒業論文を書く上での全体的なアドバイスである。

よく、「大学生は本を読まない。もっと本を読め」、みたいなことが言われると思う。もちろん、本を読むのは重要だし、できるだけ多くの本に触れることは大切である。

一方、卒業論文を書くのであれば、本なんて読んでいる時間はない。そんなものをのんびり読んでる暇があるのなら、論文を1本でも多く読んだ方が良い。論文を読むべき理由は以下の通りである。

a) 本の内容は最先端ではない

本、とりわけ学術書は多くの場合、著者の研究結果の蓄積をまとめたものである。それゆえ、多くの研究結果が出揃って初めて本としてまとめられる。この場合、昔の研究結果も本の中に盛り込まれることになり、どうしても最先端の研究結果、というよりも一昔前の研究結果や知見がまとめられる傾向にある。

一方、論文であれば最新の論文から自分の研究分野に近いものを探すことができる。つまり、つねに最先端の情報に触れることができるのである。

自分の研究が最先端ではない、ということは、どこかの誰かが同じような研究をすでにしてしまっているかもしれない、ということを意味する。誰かがすでに研究結果を示しているのであれば、新たに研究をするのではなく、その人の研究を読めばいいだけで、論文として追及する価値は低くなるだろう。

b) 本を1冊読むのは大変

本は200から300ページにもなる。一方、論文は短いものだと10ページ、長くても30ページ程度である。すなわち、本を1冊読む間に論文を10本程度読むことができる。

なので、いろいろな論文を読んだ方が、1冊の本を読むよりも知見が広がる可能性がある。

もし本を読むのであれば、全部読まずに目次を見て自分の研究と関連しそうなところのみを読むことである。本を全部読むのは時間の無駄である

c) あなたは本を書くのではなく論文を書くはずである

論文をたくさん読めば、論文の内容だけでなく、どのような論理構成にすればよいのか、フォーマットをどのようにすればよいのかなど、論文を書くための知識もつけることができる。

一方、本の書き方は比較的自由であり、上記のような学びはない。また、本の中には研究に向かないものもある。とりわけ、科学的根拠の薄い本は卒業論文を書く上で参考にすべきではない。こうした本は、参考文献の書き方や研究の仕方に関して、マイナスの影響の方が大きくなるだろう。

以上、卒業論文を書くのであれば本ではなくて論文を読め、ということの理由である。もしあなたの指導教授が卒業論文を書く際に本をたくさん読め、というのであれば、まともな論文を書いていないか、その教授が論文を読む習慣のない研究者か、もしくは学生の力を見くびって、要するに論文を読む能力がないだろうと過小評価してアドバイスしている可能性がある。そういう教員のアドバイスは聞かない方が良い。


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