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持続可能な開発の歴史的流れ(1960-1980年代まで)

持続可能な開発の起源をたどるとするならば、Malthus (1798/2008) の人口論にまでさかのぼることができるが、持続可能性に関する大きな動きが生まれたのは、Carson (1962) が「沈黙の春」を出版してからといえる。

彼女はDDT が環境に悪影響を与えることを説き、環境保護の思想に大きな影響を与えた。この頃の日本は、いわゆる四大公害病が表面化してきた時期であり、1967年公害対策基本法が制定され、1971年には環境庁(2001年に環境省に再編)が発足した。

アメリカでも環境への意識が高まり、1970年国家環境政策法が制定された。また、1971年にはラムサール条約 が採択され、水鳥とその生息地である湿地の保全が掲げられた。また、1972年国連人間環境会議がストックホルム開催され、「人間環境宣言(ストックホルム宣言)」「環境国際行動計画」が採択された。

また、絶滅のおそれのある野生動物の保護を図るための野生動植物の輸出入等に関する条約採択会議の早期開催が勧告され、翌1973年にアメリカにてワシントン条約が締結された。この会議は国連環境計画 (UNEP) など、多くの国際的な環境保護機関が設立される契機となったという点でも、世界における環境への取り組みの一つのターニング・ポイントであったと言える。

そして、もう一つ持続可能な開発に関して重要な出来事は、「成長の限界」が出版されたことである。ここでは、物的成長を放置することの対価と、成長の継続に対する代替策を検討することが重要であると示唆されており、従来の成長プロセスには限界があることが指摘された (Meadows et al. 1972)。

この翌年にはオイルショックが起こり、従来の成長のプロセスの見直しの必要性が改めて人々に認識されることになった。

1980年代に入ると、より一層、環境に対する世界的な取り組みが加速していく。まず、国連人間環境会議の10年後になる1982年国連環境計画管理理事会特別会合がナイロビで開催され、ナイロビ宣言が採択された。また、この年には国連世界自然憲章が採択されている。この憲章では、人類は自然の一部であり、自然や天然資源の安定性や品質の維持について注意を払うべきことが示されている。

また、1984年環境と経済に関する国際会議がOECDによって開催され、環境と経済が相互に関係していることが確認され、1987年国連の環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)での報告書において「持続可能な開発」の概念が提唱される契機となった。「持続可能な開発」には二つの重要なコンセプトが含まれている。

第一に、「ニーズを満たす」ということである。ニーズとは、世界中の貧困に苦しむ人々の本質的なニーズであり、対処すべき最優先事項であることが示されている。そして第二に、「環境収容力の限界を認識する」ことである。この限界は、現代における技術や社会組織によって課せられたものであり、現代世代だけでなく、将来世代のニーズを満たす上での能力を損なう可能性があることを意味する (World Commission on Environment and Development 1987: 43)。

従来のような経済や社会の発展によって、貧困や環境破壊という問題が広がっているのであり、それは未来永劫にわたって継続できるやり方ではない。それゆえ、従来の経済成長プロセスを抜本的に変革し、持続可能なものに変えていく必要があるのである。

References

Carson, R. (1962). Silent spring. Boston, Cambridge, Mass.: Houghton Mifflin; Riverside Press.

Malthus, T. R. (1798/2008). An essay on the principle of population (Oxford world's classics). Oxford: Oxford University Press.

Meadows, D. H., Meadows, D. L., Randers, J., and Behrens, W. W. (1972). The limits to growth: A Report for the Club of Rome's Project on the Predicament of Mankind. London: Earth Island.

World Commission on Environment and Development (1987). Our common future. Oxford: Oxford University Press.

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