見出し画像

企業とサステナビリティー:トリプルボトムライン

持続可能な開発に関する社会的要請が高まるにつれ、企業はサステナビリティーに関する活動をビジネスに統合するようになった。その中で、特に特徴的なのはコンサルタントであるElkington (1997) によって提示されたトリプルボトムラインという考え方であろう。

彼は、利益という財務上のボトムラインにのみに焦点を当ててきた事業のスタイルから、経済ボトムライン(経済性)、社会ボトムライン(社会性)・環境ボトムライン(環境性)の三つを高めることに注力すべきであると説く。

ここでの経済性は、企業が持続的可能な方法でビジネスを行っているかを意味し (Steurer et al. 2005)、財務の効率性だけに焦点を当てるだけでなく、健全性や成長性、さらにはステイクホルダーとの経済的な関係も含めて考える必要があることを指摘している (Hubbard 2009)。

例えば、財務効率が高くても、健全性が低い場合には倒産のリスクが高くなるであろう。また、成長性が低い場合には企業を存続させることは難しくなるかもしれない。よって、総合的に見た企業の経済の持続可能性をパフォーマンスとして考慮する必要がある。

社会性は、企業と様々なステイクホルダーとの間のソーシャル・キャピタル、すなわち信頼関係や互酬関係のネットワークを構築しているかを意味する (Elkington 1997)。社内だけでなく、社外における公正や公平を実現し、社会に対してどのようなベネフィットを還元しているのかが社会性の評価基準となるのである。

一方、環境性は自然環境への危害を最小限にすることを求める。環境収容力を超えない範囲で資源を活用し、環境汚染物質や排出物の抑制をするシステムの構築や管理体制の整備を求めている。

トリプルボトムラインの考え方は、企業がサステナビリティー・レポートを記載する上での基準を与えたという意味で、実務的な貢献が大きい (Painter-Morland 2006)。一方、その評価基準が曖昧であり、どのようにトリプルボトムラインを測定すべきに関しては議論の余地がある (Hubbard 2009; Norman and MacDonald 2004)。 

また、トリプルボトムラインが与えた理論的貢献は、それが経済・社会・環境という三つの次元で構成されている点である。すなわち、トリプルボトムラインは、経済・社会・環境という三つの関係を探求するという研究の方向性を提示したのである (Hahn et al. 2010; Hahn et al. 2015; Van der Byl and Slawinski 2015)。

References

Elkington, J. (1997). Cannibals with forks: The triple bottom line of 21st century business. Oxford: Capstone.

Hahn, T., Figge, F., Pinkse, J., and Preuss, L. (2010). Trade-offs in corporate sustainability: You can't have your cake and eat it. Business Strategy and the Environment, 19(4), 217-229, doi:10.1002/bse.674.

Hahn, T., Pinkse, J., Preuss, L., and Figge, F. (2015). Tensions in corporate sustainability: Towards an integrative framework. Journal of Business Ethics, 127(2), 297-316, doi:10.1007/s10551-014-2047-5.

Hubbard, G. (2009). Measuring organizational performance: Beyond the triple bottom line. Business Strategy and the Environment, 18(3), 177-191, doi:10.1002/bse.564.

Norman, W., and MacDonald, C. (2004). Getting to the bottom of "Triple Bottom Line". Business Ethics Quarterly, 14(2), 243-262.

Painter-Morland, M. (2006). Triple bottom-line reporting as social grammar: Integrating corporate social responsibility and corporate codes of conduct. Business Ethics: A European Review, 15(4), 352-364, doi:10.1111/j.1467-8608.2006.00457.x.

Steurer, R., Langer, M. E., Konrad, A., and Martinuzzi, A. (2005). Corporations, stakeholders and sustainable development I: A theoretical exploration of business-society relations. Journal of Business Ethics, 61(3), 263-281, doi:10.1007/s10551-005-7054-0.

Van der Byl, C. A., and Slawinski, N. (2015). Embracing tensions in corporate sustainability: A review of research from win-wins and trade-offs to paradoxes and beyond. Organization & Environment, 28(1), 54-79, doi:10.1177/1086026615575047.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?