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溶かす

脳がとろけるまで目を瞑って。頭がすこし溶けてきた感覚があればもう大丈夫。目を開けた時には溶け切って何もなくなってるから。また新しいものを創ろう。

そんなことを考えていた次の日、涙声の折り返し電話。新しくなった頭で何か言えると思ったけれど、何も言えない。言葉がいない。どこにもいない。まだ脳が溶けきってなかったのかも。溶けきれなかった残骸が新品のフリをしていただけだったか。気がつけば、5分ほど黙ってしまっていた。

「言葉にしないと何も分からないよ」

分かってる。それは私が1番分かってる。実家の台所、あの時の隔離ホテル、小学校の体育館、ジャスコの駐車場、放課後の職員室。今までに何度も言われてきたから、もう分かってるよ。だけど言葉が出ない。話す内容を頭の中に文字起こししていても、デリートキーで全て白紙に戻される。書いてる途中の原稿を誰かが途中で消すから、何を言おうとしていたのか、何がダメで消されたのかも分からない。そして、また何も言えない。悔しい。悲しい。恥ずかしい。原稿を書くことを諦めて何かを言おうとしても、口が動かなくて、音を立てられないぐらいに喉から水分が消えていて、だけど目からは涙が出てきて。何も言えないのに泣くことだけはするんだね、ってまた言われて。

だから、脳を溶かすレッスンで新しい頭になるように頑張ってるじゃん私。溶けきれなかったものが新人のフリしてしばらく頭の中に居座って、頑なに席を譲らないのなら、私はもう完全にそれが溶けるまでまたしばらく目を瞑ることになるよ。でもそうしたら、目を瞑っている間に面白いこととか、可愛い景色を見逃してしまうでしょ。目を開けながら脳を溶かすことができるのならそれでいいけれど、そんな器用なことはできないから、しっかりと1人になって目を瞑ってじっくり脳を溶かさないといけない。今回は溶かしが甘かった。今日の分をまたちゃんと溶かして、次の電話ではちゃんとものを言うから。鼻水を啜る音ではなく、言葉を話すから。約束するから、あと少しだけ待っていて。

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