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BTS「MIC Drop -Steve Aoki Remix-」:声の魅力を最大限に引き出すリミックス、七つの身体が見せる圧倒的なパフォーマンスの密度

「Waste It On Me」をきっかけにBTS(방탄소년단)の音楽を聴く機会が増えています。Apple MusicやYouTubeで曲を聴いてみたところ、Steve Aokiがリミックスした「MIC Drop」に出会い、第一印象で気に入りました。それからオリジナルの「MIC Drop」に遡ってみると、こちらもまた良い。音が違えばラップやボーカルも印象が変わり、複数の角度から曲を楽しむことができます。

2018年11月、「MIC Drop」のダウンロード数およびストリーミング回数が100万ユニットに達し、プラチナ・ディスクに認定されたことが、RIAA(Recording Industry Association of America、アメリカレコード協会)によって発表されました。なお、2017年の9月にリリースされた後、2018年2月に50万ユニットを達成してゴールド・ディスクに認定されていました。

「MIC Drop」にはオリジナルの他、ラッパーのDesiignerをフィーチャーしたSteve Aoki Remix、さらにDesiignerのラップをBTSのラップに戻したFull Length Versionがあります。Billboardの記事によると、100万ユニットとは、これらのダウンロード数と曲やビデオのストリーミング回数を合わせた数字とのことです。BTSはソーシャル・メディアを活用して人気を集めてきた(『K-POP ――新感覚のメディア』より)とされますが、彼ららしい記録の樹立なのではないでしょうか。

BTSの曲では韓国語のラップや歌に英語が混ざります(全編英語詞の曲を歌ったのは「Waste It On Me」が初めてだそうな)。ハングルは読みも意味も分からないので音だけの印象なのですが、「MIC Drop」を聴いていると韓国語が持つ独特な響きを感じます。Mandarinなどのチャイニーズや日本語のポップスとも違うし、英語の歌に近いわけでもない。言語が違えば歌の雰囲気も変わることを改めて実感します。

アジアの中でも東南アジアの雰囲気を感じた…というのが最初の印象です。ただ、聴いていくとヒップ・ホップの色も強まり、それでいてボーカルは美しく響くため、僕の中では聴いたことのないカオスが広がりました。Steve Aokiの音が吹き荒れる中で、韓国語と英語が入り乱れ、そうなるともう地域がどこなのかそんなことはどうでもよく、イメージの断片が交錯して見たことのない世界を描き出します。

BTSを含むK-POPグループの特徴のひとつに「칼군무(カルグンム、刀群舞)」が挙げられます。華麗に刀を振り回すかの如く鋭い動きが乱れなく合わさるパフォーマンスです。特にYouTubeを通じた映像配信において、K-POPムーブメントの広がりに拍車をかけてきた要素といえます。

「MIC Drop -Steve Aoki Remix-」のミュージック・ビデオでは、彼らが披露するカルグンムの鋭さを存分に味わうことができます。圧倒的なパフォーマンスの密度。カメラワークと編集によって彼らのパフォーマンスの勢いが余すところなく表現されています。

BTSの音楽は、ブラックミュージックに基づいている。それは、サウンドやビートだけではなく、態度や表現方式までを含む。その音楽には、BTSというチームやメンバーそれぞれの経験や社会に対するさまざまなメッセージが、彼らのアイデンティティとして表現される。
しかしそれは、アメリカのラップ・ヒップホップを一方的に受け入れているという意味ではない。(中略)つまりBTSの音楽が基づいているブラックミュージックとは、K-POPとアメリカのもの両方を意味するといえよう。

金 成玟(Kim Sungmin)『K-POP ――新感覚のメディア』より

『K-POP ――新感覚のメディア』では韓国のポップ・ミュージックの歴史が概観され、その最前線であるK-POPがいかにして成立、そして拡張していったのかということが論じられています。著者はもちろんBTSにも言及しており、「BTSの音楽が基づいているブラックミュージックとは、K-POPとアメリカのもの両方を意味する」と指摘します。自国のアイデンティティを押し出すのでもなく、受動的にアメリカン・カルチャーをコピーするのでもない。ハイブリッドに組み合わせて新しい表現を生み出していくのがBTSのスタイルです。

Steve Aokiのサウンドを得たことで、「MIC Drop」はふたつの地域の融合だけではない、多彩な拡張を見せるようになりました。「MIC Drop -Steve Aoki Remix-」は「1+1=2」の向こう側に到達したというべきコラボレーションなのではないでしょうか。前に進み続け、拡張を続ける音楽を知り、聴いて、心を動かされるというのは、なんと素晴らしいことか。またひとつ、価値ある音楽体験を得ることができました。


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