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〈ケアデザインサミット2023〉第二部くらしとテクノロジー―山形義肢研究所 阿部伸乃介さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。
ぜひ、お楽しみください。


「義肢装具士に会ったことのある方、いらっしゃいますか?」
阿部伸乃介さん(しんさん、と呼ばせてください)が会場に投げかけた。
手を挙げるのは、1人か2人。
「……こんな感じなんですよね。このくらい知られていない業種なんです」

重ねて、しんさんからの「義肢装具士に対するイメージは?」という質問に、会場から声が上がる。
「影の功労者」

「ありがとうございます。そうなんですよ。“影にひそんだ職人”とかね。ただ、ちょっとそのイメージも、自分の中では違うなと思っているんですよね」

義肢装具士とは


「義肢装具士は、職人ではなく医療職なんです。厚生労働省が管轄する医療国家資格を取得した人が働く職種です」

ちょっとお勉強っぽく引用しますね、としんさんはスライドを指す。

――医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者――(義肢装具士法より)

義肢とは、身体の切断された部位を補う義手・義足のこと。
装具は、動作を補うもの(麻痺のある人に向けることが少なくない)。装具の幅は広く、たとえば身体に付けるものを「コルセット(体幹装具)」、足に付けるものを「インソール」と呼ぶ。

しんさんは、世間とのイメージのギャップが一番あるところ、として話を進めた。

「義肢や装具をつくる、だけが仕事じゃないんです。『採型』と『適合』というところが医療国家資格の判定対象、判定基準となっているんです。もっと言うと、コルセットをつくる作業は、うちではパートさんにもやってもらっています」

へえー、と会場から声が上がる。

「ね? そういうことが全然知られていないのが現実です。だから僕はSNSを使って情報発信をしているんです」

義肢装具士が一生懸命SNSで発信する理由


Facebook、Twitter、Instagram、TikTok、YoutubeというSNSを網羅して義肢装具についての情報を日々伝えているというしんさん。
この「しんさん」という呼び名は、SNSのアカウント名に由来するのでした。

「非活用・非共有・非連携。この業界には、3つの問題があると思うんです。冒頭に、『影の職人』という話をしましたが、見て覚えろの世界ではあるんですよね。職人ゆえにパソコンやインターネットに疎いという弱点もあって、情報が外に届きにくい・外からの情報も入ってきにくい環境である。それが閉鎖的なイメージにつながって、技術が同業の人たちと共有・連携できないという側面がある。それってまずいな、と僕は思っているんです」

そこで、SNSを活用して情報の発信をはじめる。
写真や言葉を投稿するのと合わせて、動画で装具をつくるシーンを紹介し、カラフルな柄がプリントされた装具ができていくのを実際に観ることができる。「なるほど、こうやってできているんだ」とか「観るだけでも面白い」と、好評だとのこと。

2022年4月からは、ほかの会社の義肢装具士と一緒にYoutubeチャンネルを開設。義肢装具士だけのチャンネルは全国で初だそう。2人の仲間とともに、コルセットの付け方や装具の解説などをおしゃべりしている。

しんさんが、情報発信にここまで力を入れるのには、まだワケがあるそうで。

「義肢装具士の有資格者は、現在日本に約6000人いると言われています。ところが、資格を持っていて働いている人は4000人ちょっと。
義肢装具士を養成する学校は全国に10校。……10校しかないんです。自分の母校も含めた1、2校が来春でなくなってしまうことが決まって、さらに減ってしまう。養成する学校がなくなれば、それだけ義肢装具士になる人が減る。……かなりまずい状況です。
なんでまずいかというと、日本で脳卒中の患者さんて150万人弱いるんですね。こちらはさらに増えてきます。全部が全部ではないのですが、義肢装具士が関わる対象としてもっとも多いのが、この脳卒中の患者さんたちなんです。つまり、装具を必要としている人がこれだけいるのに、装具を渡せるのが4000人……。このミスマッチをどうすればいいのか。
それを変えるためには自分たち義肢装具士だけじゃなくて、ほかの領域、ほかの分野の人たちと連携し、義肢装具を使っている方を支えるしくみが必要になると感じて、僕は情報発信をしています」

それに、義肢装具に関わらずとも、いいなって思ったことやポジティブなことを自分だけのものにしないで、ほかの人に伝えて共有することってすごく大事なことですよね、と笑顔で語ったしんさん。

わたしの中でも「あ、そう」から「どれどれ? もっと教えて!」のチャンネルに変わった、義肢装具士の仕事。しんさんの発信する各種SNSもチェックされたし。


▼山形義肢研究所https://yamagatagishi.com
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〈Instagram〉
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▼「聞くだけで義肢装具に詳しくなれるチャンネル」(しんさんのYOUTUBE)
https://www.youtube.com/@3POch


text & photo by Azusa Yamamoto


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