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警備実施前準備“アドバンス・ワーク” ②

アドバンス・ワーク② 警備計画〜警備準備

脅威評価までの行程が完了すると、『何を護るべきなのか』『何から護るべきなのか』が明確になってくるため、次のステージである『どう護るのか』の検証に入ります。この『どう護るのか』を具体的かつ明確に組み立てたものが“警備計画”です。そして、警備計画ができあがった後、実際の警備業務に入ることができるように、また、計画通りに業務を実施することができるように、しっかりとした“警備準備”を行います。

(1) 警備計画 (Security Planning)

警備を実施するにあたり、その警備業務の目的を明確にし、最終的な目標(ゴール)を設定し、各警備担当者(警備員等)の役割と責務・行動手順を把握させ、チームとしての連携や関係各所との協力体制を構築するのが、広義における“警備計画”です。警備計画には、当該警備業務の概要をまとめた、狭義における警備計画(A)と、各役割の細かい行動手順などを明確にした警備司令(B)とがあり、これらをそれぞれ明文化したものが“警備計画書”“警備司令書”となります。

A. 警備計画/警備計画書
依頼を受けた警備業務の概要をまとめ、その目的や最終目標(ゴール)を明確にするとともに、警備対象に関する情報や、訪問予定場所に関する情報,行動スケジュールや警備体制,脅威に関する情報や警備における留意点,関係各所の連絡先や添付資料としての地図・見取図などをひとつにまとめたものが、警備計画/警備計画書となります。

B. 警備指令/警備指令書
警備計画(A)に対して、各警備担当者(警備員等)の役割をより具体的・詳細に決め、責務を明確にし、SOP(Standard Operation Procedures: 平時における各自の行動手順や作業内容)を具体化し、脅威に関する分析や脅威の度合い(現実性・可能性の程度),ERP(Emergency Operation Procedures: 緊急時・非常時における行動手順や作業内容)や緊急時の役割分担,緊急退避方法や緊急避難場所,SOP通りに進められない時のバックアッププランなどを明確にしたものが、警備指令/警備指令書です。


(2) 警備計画の保秘

立案した警備計画や警備指令は、当然のことながら部外者に知られるようなことがあってはなりません。これは、計画立案の段階から、警備の実施中、警備終了後に至るまで、一貫して守るべき事項です。警備対象や警備手法に関するあらゆる情報を持つ警護員や警護チームは、ある意味とても怖い存在です。警護員や警護チームが持っている情報が漏れてしまうと、警備対象者のプライバシーの漏洩はもちろんのこと、時に、襲撃者などに襲撃の機会を与えてしまうことになりかねないからです。

警護チーム以外の関係者(クライアントや管轄警察署など)に対し、事前に警備体制などを知らせなければならない場合、通常は警備計画(A)のみ、または警備計画(A)から抜粋した一部の“無難な”情報のみ提供します。これは、警護チーム以外の関係者を信用していない、ということではなく、情報管理・情報統制をしっかりと行うための警備上の措置です。機密情報を知る人の数と情報漏洩の可能性は、比例して大きくなります。情報の管理は警備業務の基本中の基本です。少しでも情報漏洩の可能性を減らすためには、“知る人”を減らすのがもっとも効果的な手法です。依頼者であっても、警察などであっても、警備計画の中の重要な部分や、警備指令の内容,警護チームのERPなどに関する情報は、基本的に提供しません。やむを得ず事前に知らせなくてはならない場合は、全体像や緊急時の警護チームのERPが把握できないよう、限定的な情報のみ抜粋し提供します。専門的な教育訓練を受けておらず、情報管理の統制対象にない人たちは、故意・過失に関わらず、情報を漏洩してしまう潜在的可能性を常に持っています。警備のプロとして、このことは常に忘れてはなりません。


(3) 警備準備 (Preparation)

警備計画あるいは警備指令の中で、当該警備業務を実施するのに必要となる装備や車両,準備すべき物品や事柄が明確にされます。これに基づき、各役割を与えられた担当者がその準備を行います。

例えば、車両や車両周りの装備の手配,必要な改造の実施,ビークル・サーチ(Vehicle Search: 車両検索)やビークル・テスト(Vehicle Test: 車両テスト)の実施,ルート選定,ルートチェック(Route Check/Survey: 移動ルートチェック・下見),車両の保管場所やサーチ・チェックを実施するための場所の選定・確保,プリンシパル(Principal: 警備対象者)が乗車する車両の清掃や乗車席の環境整備など、車両に関する様々な準備は、警護チームの中のビークル・セクション(Vehicle Section: 車両チーム)のメンバーが行います。

他にも、無線機やアコースティックイヤホンマイクの手配,使用周波数や電波形式・出力の選定,無線通話コード(暗語≒暗語)の設定・チーム共有などの役割を担うメンバー,ファーストエイドキット(救急キット)の選定や準備,AED(Automated External Defibrillator: 自動体外式除細動器)やPPE(Personal Protective Equipment: 感染防止等のための個人防護用品)の手配や管理を行うメンバー,ESD(Electronic Surveillance Devices: 盗聴器や盗撮カメラなどの総称)検索キットの準備や管理を行うメンバー,訪問予定先や滞在ホテルのPOC(Person Of Contact: コンタクト・パーソン=連絡担当者)に連絡を取り、打ち合わせを行うメンバーなど、各自のポジションや所属セクション(チーム),与えられた役割に沿った内容でそれぞれの準備を進めていきます。

最後に、警護チーム全員が集まって行う全体ブリーフィングを開き、各自(各チーム)が準備した内容を報告しあい、お互いの情報共有・協力体制の確認・準備の程度や不足箇所の確認などを全員で行い、チームとしての連携した行動が取れるよう、最後の準備を整えます。


次回は《警護業務実践① 警備初日と第一印象》について紹介します。

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