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子どもの描く複雑で豊かな世界


「子どもが子どもでいられる時間や空間を大切にしたい」
私達はそんなことを願いながらも、大人が生きる社会の物差しを意図せずして子どもにも差し出していることがある。
その物差しは時として、子どもの持つ豊かさを見えづらくしてしまう。その物差しは、子どものレジリエンス(*1)を支えたり、新たな世界とつながったりする「遊び心」や「想像力」に蓋をしてしまっているかもしれない。

(*1)レジリエンスは、我々が生来身につけている回復するプロセスあるいは回復する力です。(「緊急支援のためのBASIC Phアプローチ
――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル」を参考にしています。http://tomishobo.com/catalog/ca030.html

ある男の子からの、大人への願い

ある男の子が、久々に怒りを爆発させ、顔を真っ赤にして、あふれ出そうな何かをなんとかこらえながら物に当たっていた。彼と出会って1年、ものを壊したり、やり場のない感情を誰かに向けて爆発させることが減り、その前に気持ちを伝えることが増えていた時の出来事だった。
どうしたんだろう?そんな疑問から、その子と時間をとって話をした。

「だってさ、僕のこと嫌いでしょ。あの人たち」

日常で彼に関わっている大人のことに対してそう言う彼。そんなふうに思ったきっかけってなんだろう。

「最近ちょっとイライラしやすくて、ウウウってなること多くて。」

そっかあ。ウウウってなるの自分で気づくようになったんだ。ウウウってどんな感覚なんだろう。どんな時にウウウってなるのかな。ウウウってなった時はどんなふうに過ごしてるのだろう。

「学校の先生が変わって、ちょっとずつルールが増えてってるんだよ。だから、ルールがすぐ変わるんだ。いつまでルールが増えるかわからなくてウウウってなる。
あとね、同じクラスになった子が、僕のことあだ名で呼ぶんだ。やだっていうとなんどもあだ名で呼んでイライラする」

「イライラすると、どうしていいかわからなくて。思わず壁殴っちゃうんだよね。殴るのはよくないけどさ、大人は僕の話全然聞かないで怒るんだよ。だから、僕のことなんて大切じゃないんだと思う。大切だったら話をちゃんと聞いて一緒に考えてくれるんじゃないかなあ。僕だって頑張ってるのにさ。できないところばっか見るんだよ。」

どうなったら彼にとっていいのかな。

「ルールをコロコロ変えないでほしい。あとあだ名で呼ぶのやめてほしい。」

1年を経て、自分のことを伝える言葉が一気に増えた彼。そんな彼が、自分が大切にされてると思う時はどんな時なんだろう。

「うーん。うーんとね。ちゃんと話聞いてくれた時。勝手に決めつけない時。あとね、一緒に考えてくれた時。あとはねえ、なんだろうなあ。あ、怖いなとか寂しいなって言えるとき。」

しばらく彼と話しているうちに、彼は何かを思いついたらしく、そこにあったぬいぐるみで、自分が願う大人との関係の即興劇をしてくれた。

(これは、彼と一緒に話したことのごく一部である。彼については、その後周りの大人の話も聞いた。大人が余裕がなくなり、彼の素敵なところや頑張っているところを見れなくなっていたこと。彼のことを大切に思うがゆえの大人の願いがあったことを共有してくれた。その上で、彼の願いや理由を大切にし、彼自身のことも周りのことも大切にできる願いの叶え方をつくっていけるように、彼との関係を見直していった)

複雑で豊かな子どもの願いに目を向ける

子どもたちの隣で、子どもたちから紡がれる風景を一緒に眺めていると、その内面にある多様性に、豊かさにハッとする。

表面に見える言動や、大人が困ったなあと思うような行動だけに目が向きやすいけれど、子どもたちは日々たくさんのことを自分なりに感じ、自分なりに意味付け、自分なりの物語をつくっている。子どもの目から見える世界はどんな彩りなのか。子どもの感じる体験はどんな物語として子どもの中に息づいているのか。子どもたちの隣で子どもから学ぶ日々だ。

だが、大人が思っている子どもの行動の背景と、子ども自身が何を願って、その行動をしたかは実は食い違っていることがある。

表面に見えている言動や「困りごと」はその子の全てではない。たまたま表出されている氷山の一角に過ぎない。大人の思う目的に向かわせようとするあまり見逃してしまうことがあるけれど、子どもたちの内面にはいろいろな気持ちがあり、好奇心があり、願いがあり、大切にしていることがある。

子どもたちは複雑で豊かだ。

子どもの豊かさを大切にするPIECESの「優しい間」プログラム

意図せずして大人の社会の物差しを子どもに差し出している時に、少しだけ立ち止まって、子どもが何を思い、どんな気持ちで、何を願っているかを知ろうとする余裕を社会に作っていきたい。

だから、私たちPIECESは、子どものもつ豊かさが大切にされるように、子どもの周りに様々な関係や文化を通した「優しい間」を増やしている。そしてそのプロセスで、「優しい間」をつくる市民の持つ豊かさも大切にされるプログラムを行っている。
「優しい間」は、自分のことも相手のことも大切にする意思決定が生まれる間のことである。私たちは、同じ人間でありながら、違う正義や価値観、感情、思考を持っている。どのように世界を捉えるかも違う。プログラムを通して、その違いに好奇心を寄せ、市民自身が自分の大切にしていることを振り返り、子どもの大切にしている願いを想像し、お互いを尊重しあえる新たな世界を紡ぎ、広げている。

一つの目的に回収していく過程では見えづらい、子どもたちの持つ好奇心や願いは、子どもたちの世界を広げていく種でもある。
だから、そんな複雑な豊かさを大切にしたいなと思う。そして、それを大切にできるためには、きっと私たち大人にも余裕が必要だし、私たち大人自身が、自分の気持ちや願いといった複雑な豊かさを大切にできる環境も必要なんだろうと思う。

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PIECESでは、「優しい間」を耕す市民の育成を行っています。プログラムの一部の公開講座は誰でも参加できます。次回の公開講座は8月25日。テーマは「子どもへの深い理解をもたらす「アセスメント」を学ぶ」です。

また、様々な団体と共に「子どもと共にこれからの社会を描く」プロセスを考えるコラボイベントを行っています。8月19日に短期地域里親、ショートステイ、週末里親の普及啓発活動を行っている一般社団法人 RAC(らっく)代表の千葉彩さんと共にオンラインでのイベントを行います。


是非遊びにいらしてください。

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