表紙

僕が、映画「キングオブコメディ」を「一番好き」だと言い続ける理由

 趣味が映画鑑賞なんて言ってしまう人間には、「好きな映画は何?」という質問に対して、喋りたいことが溢れすぎて上手く回答できないことがある。そして例に漏れず、僕もまた、好きな映画を上手く語れない人間だ。

 僕の好きな映画は、マーティン・スコセッシ監督の「キングオブコメディ」。この映画が好きな理由を上手く説明できた試しがない。

 この映画を多くの人に勧めています。勧めた人の中で、ちゃんと見てくれる人もいました。そして、「え、ごめん、アレの何が良かったの…?」と後日質問され、只々苦笑してしまう経験があります


 昔は、他人の理解できないことを理解できることが教養だと思っていましたが、今は、人にちゃんと良さを魅力的に伝えられるということこそ教養だと思うようになりました。キングオブコメディという映画の魅力をちゃんと文章で表現したいと思い、本日は筆をとります。難しいですがチャレンジしたいと思います。

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 前置きが長くなりましたが、キングオブコメディ面白いです。

あらすじ
コメディアンとして有名になりたいと考えているルパート・パプキンは、有名コメディアンのジェリー・ラングフォードを熱狂的ファンの群れから救い出し、強引にコネをつける。「今度事務所に自演テープを持って来い」と言われて有頂天になったパプキンは、早くも自分はスターになったと錯覚し、昔から好きだった女性リタにも接近するが……。

順を追って、この映画の魅力を説明していきたいと思います。(あ、ネタバレありです


 コメディアンを目指すロバートデニーロ演じるルパートパプキンが、有名コメディアンのジェリーに熱烈アプローチをするところから始まります。

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こちらがロバートデニーロ演じる、パプキン。

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パプキンに話しかけられるジェリー。

タクシーに無理矢理乗り込み、自分のコメディアンとしての才能をアピールし続けるパプキン。一方で車内では、こんな言葉が交わされます。

パプキン「僕はこれでもコメディアンの才能があります。うんざりでしょうが、本物の才能です。保証します」
(中略)
ジェリー「芸能界はクレイジーな世界だが、世間並みのルールがある。この世界でも経験がものを言う。月並みな表現だが、みんな、下積みから出発する」
パプキン「今が下積みです」
ジェリー「それでいい」
パプキン「それでも…」
ジェリー「テレビの前の観客は、我々の芸を簡単なものと思っている。息を吸うのと同じだと。実際は何年もかけて築き上げた芸だ

 この会話から、ジェリーはパプキンを「自分に才能があると思っている素人」として説教しています。しかし、パプキンは自分が説教されているとは気づきません。自分はすっかりジェリー側の人間だと思い込んでいるわけです。

 ジェリーはパプキンの扱いが面倒になり「明日、事務所にカセットを持ってくるように」と言います。タクシーに乗り込んできた不審者を追い払うための社交辞令でしたが、この言葉が彼を狂わせていきます。

 パプキンという男は母親と二人暮らし。まともに働きもせず、コメディアンになる夢を諦められません。ただ一方、コメディアンになるための努力を特にしているわけではありません。部屋の壁に飾られた笑っている観客の写真を前に、自分がコメディアンとして大成する日を妄想しているだけ。努力らしい努力などしていません。

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部屋の壁に飾られた笑っている観客の写真。この前に立ち、毎晩、妄想に更けるのです。

 自分の才能を見初められたと思ったパプキンは、次の日ジェリーの事務所に行きます。そこで受付係に止められるパプキン。「ジェリーが自分を呼んだから、受付じゃ話にならねぇ」とばかりに、受付係に悪態をつきます。

 受付係はパプキンを追い出すために「ジェリーにパプキンが来たと伝えておく。何かあれば電話を掛けさせるから今日は帰って」と伝えます。渋々と応じるパプキン。


 電話にいち早く対応するため、街の電話を独り占めするパプキン。この様子は非常に滑稽です。彼は、ジェリーからのかかるはずのない電話を待ち続けるのです。

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 と、ここまではコメディ調で語られる映画「キングオブコメディ」。自分は疎まれているのに気づかずに勘違いし、間抜けな行動を取るパプキンをコメディにしている、アンジャッシュ並みの勘違いコントなわけです。

 しかし、このパプキンの行動を笑えるものなのか…と声を上げたいのです。

 自分に才能があると信じて。

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 毎晩、夢憧れ。

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 才能のある人から声かけられる自分に期待して電話を待ち続ける。

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 いや、これ、多くの人に当てはまりません?(汗)
 特に電話を待ち続ける姿は、就活の合否が電話通知されるような姿と似ていると感じて、他人事には思えませんでした。

 と、ここまでは、確かに滑稽だけど共感できる存在としてパプキンは描かれています。しかし、この後、パプキンはより狂気じみてきます。

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 ジェリーに中々会えないことを逆恨みしたパプキンは、ジェリーの別荘に勝手に侵入します。パプキンの意中の女性、リタに嘘をついて誘います。
リタと共に、別荘に侵入する。

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 恐ろしい無鉄砲さです。

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 ここで、ジェリーに久しぶりに遭遇します。「やっと会えた〜」と思うのも束の間、パプキンは大好きなリタの前で怒られます。ジェリーに恥ずかしいぐらいに怒られます。大人が本気で大人を怒るシーンに「胸が痛い、痛い!もうやめて!」と叫んでしまいそうになります。

 恥をかかされたパプキンは怒り心頭し、ジェリーのストーカーである狂った女と組んでジェリーを誘拐します。誘拐をして、要求すること。それは「テレビ番組に出せ」ただそれだけです。

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 正直、この辺りから、この映画はホラーのような雰囲気を醸し出します。
 夢のために犯罪を犯す狂気に、電話のシーンで共感していた自分は「興ざめ」します。それは「人に迷惑をかけてはいけない」と口酸っぱく教えられていた自分の道徳観が、「こんなパプキンみたいなやつに共感してはダメだよ」と言ってくるのです。自分の夢のために人を平気で傷つける狂気が露になり、共感の気持ちが離れていきます

ただ、この映画は思わぬラストに向かいます。

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 ついに要求が通り、テレビ番組に出演できたパプキン。収録された番組が放送されるとき、彼はある場所にいるのです。犯罪を犯してまで夢を叶えた彼が向かった先、それは、大好きなリタのバーでした。バーに入り、彼は自慢げに、自分の出演する番組を胸張ってリタに見せつけているのです。

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なんだこのどや顔

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リタは、まさかパプキンがテレビに出演するなんて…と、ポカーンです

 以下は、パプキンがコメディショーの中で語ったセリフです。

皆さんこんばんは。私の名はルパート・パプキン
(中略)
両親は貧乏で僕に子供時代を買えなかった。
貧乏だがドン底生活では無かった。
ドン底になると隣町へ追放される。
両親は僕を育てかけたが途中で嫌になった。
”欠陥品”として病院に突っ返した。
それでもお袋のおかげでなんとか育った。
(中略)
僕はスポーツが苦手。
友達に殴られるのが僕の唯一の運動
殴られるのは毎週火曜日
学校の時間割に組み入れられた
僕を殴ったら1点もらえる
僕を殴れない弱虫に僕はこう言った
”さっさと殴れよ 卒業できないぞ”
全身骨折で卒業した小学生は僕が初めてだ
子供の頃から僕が興味を持ったのは芸能界
トップを狙った つまり、サイン集め
今夜ジェリーがいないのはなぜか
彼は縛られてて来られない 僕が縛った
嘘ではない 芸能界に入るための手段だ
ジェリーを誘拐した
ジェリーは今椅子に縛られている
笑ってもらえて嬉しい
出たかいがあった
君らは僕がイカれてると思うだろう
だが ドン底で終わるより 一夜の王になりたい


 このスピーチがパプキンが番組で語ったセリフです。

 学生時代にうまく周囲になじめなかったこと。自分には才能があると思い込み、現実から逃避したこと。その情けなくてはた迷惑の承認欲求に逃げ込み、誰かに認めて欲しかったパプキン
 僕は恥ずかしいくらいにこのシーンで号泣してしまいました。

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 このドヤ顔見てくださいよ。彼はバカで不器用で、迷惑な人間ですが、ただ好きな子(=リタ)に認めてほしかっただけ、なんですよ。そうすることで、今まで上手く行かなかった人生を清算したいんですよ。こんな純粋でまっすぐなモチベーションと行動力を笑ったり、気持ち悪がったりできますか。僕はできないですよ。

 警察につかまりながら、彼はリタに言い放ちます。

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 犯罪者なのにスター気取りな、この痛々しさが胸に迫ります。強がって「忘れないよ」とか言っちゃって。本当は、全部、リタに見て欲しくてやってたくせに。

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 「夢」というものに逃げ込んで、取りつかれて、人を傷つけいく。そんなイカれてるパプキンのピュアなモチベーションを知って、僕は共感してしまったわけです。
 僕もあなたも、きっとパプキンな部分があるでしょ!?


 長々の語ってしまいました。。

 この映画がみんなが好きになるタイプの映画じゃないのは明白ですよね。パプキンのような部分(所謂、承認欲求)が強くない人にとっては、つまらないのではないでしょうか。
 ただ、僕は大好きなんで、ずっと薦め続けます。そして、「この映画最高!」って思える同志を探し続けます。多分、その人も痛々しい人だと思うから

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今日はここまで考えました。


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2019年10月追記
映画「ジョーカー」の公開の勢いで、こちらの記事のアクセスが増えました。流行が来る前に何かしら種をまくって大事なのだな…と感じつつ、
「一番好きな映画」と言っているのに、主人公の名前を間違えるという失態が浮き彫りになってしまいました…。

ホントに間違えてみていました…恥ずかしい。申し訳ございません。
ご指摘いただいた方、ありがとうございました!

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