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自主アニメ「こうしす!」の改善のため、ザ・ゴールを読んで考えた

ザ・ゴールを読みました。
この本を知ったのは、こうしす!の小説版について考えていたとき、とある方から「ああ、『もしドラ』や『ザ・ゴール』みたいな方向性ですか?」と聞かれたことがきっかけでした。「へえ、読んでみよう」と思っていたのですが、NebulAI.HOSXIの執筆が全然進まなくなってしまったので、参考にしようと読んでみました。

危機的な状況の工場を3ヶ月でどうやって立て直すかというストーリーで、企業にとっての目標とは何かという問いから色々始まります。

企業にとっての目標(ザ・ゴール)とは、お金を儲けつづけることです。でもその目標をどの程度達成しているのかというのは実は難しい問題です。そこで、以下の簡単な指標を用いると良いのだとか。

◆スループット
 販売を通じてお金を作り出す割合のこと
 生産を通じてではないことに留意。
 ※「売上ー購入費」と説明されることが多い。
◆在庫
 販売しようとする物を購入するために投資したすべてのお金のこと
 付加価値は含まない
 例:製品、仕掛品、工場、生産設備など客に売れる物
◆業務費用
 在庫をスループットに変えるために費やすお金のこと
 例:内部人件費、機械の減価償却費、潤滑油など

そこで、スループットを最大化し、在庫と業務費用を減らすことが大切。販売できずに在庫の山が積み上がることは良くない。

そのためには、ボトルネック(=制約条件)となる工程を市場の需要に合わせて重点的に改善し、ボトルネックに合わせてすべての工程の生産を調整することによって、スループットの最大化を実現する、ということでした。

このプロセスをまとめると……

[ステップ1] 制約条件を「見つける」
[ステップ2] 制約条件をどう「活用する」か決める
[ステップ3] 他のすべてを[ステップ2]の決定に「従わせる」。
[ステップ4] 制約条件の能力を高める。
[ステップ5] 「警告!!」ここまでのステップでボトルネックが解消したら、[ステップ1]に戻る。ただし、「惰性」を原因とする制約条件を発生させてはならない。

引用: エリヤフ・ゴールドラット著、三本木 亮訳、『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』(2001)

何か役立ちそうですね! 詳しくは本を読んで下さい。

小説としても面白いのでオススメです。

自主アニメ・こうしす!に応用できないか?

自主アニメの集団制作に関わり始めて十年ぐらいになりますが、自主アニメ、特に「こうしす!」は色々改善の余地があると考えています。

作品制作にはお金、時間、労力などかなりのリソースを要しますが、果たして作品を作るときに何を目標として意思決定を行えばよいのでしょうか。

難しいのは、その目標(「ザ・ゴール」)はお金を儲けることではないということです。

こうしす!を制作するOPAP-JPは非営利団体です。自主アニメすべてがそうであるとも限りませんが、多くは採算度外視なのではないかと思います。

強いて言うならば、会費、寄附金、協賛金、助成金がありますが、これらは対価性のない、つまりアウトプットに直接関係のない収入です。したがって、これを用いてスループットを算出しても意味のある指標にはならならそうです。

もちろん会費、寄附金、協賛金、助成金を獲得しやすい作品を優先して作るという判断があれば、それらを事実上の前受金として考えられます。しかし、それはNPOが陥りがちな罠のように感じます。つまり、それらのお金の性質に作品の内容が左右されてしまうのであれば、自主感が失われてしまいます。

そこで、用いるべき指標は、お金じゃなくて時間なのかなと思いました。こうしす!第1話の時のように、(それが良いことか悪いことかは別として)お金がなくても作品は作れますが、時間がなければ作品は作れないからです。

そう考えて再定義すると……

◆スループット
 総視聴時間-(制作・宣伝・資金獲得に直接要した時間)
◆在庫
 視聴時間を獲得するために投じたすべての時間
 例:現金、作画、キャラクターデザイン、脚本、音声、実況広告
◆業務時間
 在庫をスループットに変えるために費やすお金のこと
 例:打ち合わせ時間、事務作業時間、本業の勤務時間 など

という感じでしょうか。興味深いことに、時間を主な指標と考えた場合、現金は在庫になるということです。時間を払って現金を購入することによって仕入れる在庫……ということで、感覚的には分かり辛いですが、たぶんそうなります。

現金を集めすぎてはいけない

ザ・ゴールの理論によると、在庫・業務時間を少なくしてスループットを最大化するのが良いとされています。また、ボトルネック工程の手前に適量の予備在庫を置くことで、ボトルネックの先行工程のトラブルを吸収するできるようにしなければ、ボトルネック工程の効率を低下させてしまうとされていました。

これを、こうしす!に当てはめるとどうなるでしょうか。

こうしす!の制作では、現金は在庫として扱うものとします。

こうしす!の一部の工程を簡略化して図式すると、以下のような感じになります。

基本的に、こうしす!のボトルネック工程は作画工程です。作業が遅いというわけではなく、全体の工程の中で作画工程にもっとも時間を要するという意味です。ですから、全体の工程のなかで時間の投資を最優先するべきなのは作画工程です。そして、すべてを作画工程の歩調に合わせる必要があります。詳細を考えましょう。

まず、作画工程の作業を有償で依頼する場合、現金が必要となります。無償の場合は不要ですが、どうしても本業に左右されて進捗が不安定になってしまいがちですので、有償での安定化は必須です。そのため、作画工程の前には現金の予備在庫が必要となります。

ザ・ゴールの理論に従えば、この予備在庫は多くても少なくてもいけないはずです。そして、ちょうど良い量は、万が一現金の供給がストップしてもしばらくは作画工程の進捗に影響が出ない程度といえます。

仮に大量の現金の在庫があったとしても、作画工程で一定期間に処理できる作業量には上限があるため、死蔵することになります。そのうえ、資金獲得に時間を費やしすぎて、コンテ作成や作画打ち合わせが遅延したりすれば、せっかく大量に資金を獲得してもスケジュールは改善しない、ということになってしまいます。

つまり、ザ・ゴールの理論に従えば、作画工程に合わせて、必要な量だけ資金を継続的に獲得するということが大切ということになりそうです。こうしす!プロジェクトの場合、過去の実績では平均月5カットですから、1カットあたりの予算を2万円として、10万円の資金を毎月確保すれば十分であるということになります。その上で、20万円ぐらいの予備在庫を加えると良いということになりそうです。

これは概ね実感に合っているように思います。

そうなると、企業協賛にしても、賛助会費にしても、一時の高額寄附を得ることよりも、月次寄附として毎月10万円を確保することを目指さなければならないということになります。

極端な話、毎月10万円のクラウドファンディングを行えば良いということになります。とはいえ、それはそれで面倒ですから、そもそも、こうしす!の制作にプロジェクト型のクラウドファンディングは向いていないのではないか、などと思ったりもしました。

アウトプットを増やす

アニメの完成には2年ほどかかることもありますが、その間、公開されない素材は死蔵している在庫と同じとなります。

ザ・ゴールでは、在庫・業務費用を減らすと共に、スループットを最大化することが重要とされています。

「総視聴時間-(制作・宣伝・資金獲得に直接要した時間)」がスループットですから、在庫を用いて、できるだけ時間を掛けずに総視聴時間を稼げるような何かを公開すれば良いと言うことになります。

そうなると、予告編を毎月公開すれば良いということになるのかもしれません。ただ、これはこれで費用や時間が必要となるため、最悪、静止画でも良いと考えて良いかも知れません。

まあ、無形物なのでいくらでも簡単に複製できるという意味では正直適切な指標とは言いがたいかもしれませんが、一度でも公開すれば死蔵していた在庫はスループットになるわけです。そして、アウトプットを増やせば潜在的な支援者への単純接触の機会も増え、広報効果もあることでしょう。

そう考えると、PixivFANBOXで定期的に素材を公開して、月10万円の支援を目指すというのも、なかなか良い戦略なのかもしれません。

そのほか諸々

こうしす!の制作では、必要以上にコンテを作らない、プレスコしないということを実践してきましたが、ザ・ゴールを読んである程度正しかったのかなと考えています。一時期、アフレコではなくプレスコを行おうと考えていたこともあったのですが、もしやっていたら逆効果だっただろうなと思います。

疲れた

疲れたのでここら辺で公開します。何か良いアイデア、ご意見があればコメントください。