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【鉄面皮日記】23/10/15. Who Killed Boxman.


箱男、最後の日。

わたくし13日の金曜日、晴れて箱男を卒業いたしました。
半年弱に渡る外仕事、労働とは何かと自身に問いながら、いつの間にやら馴染んでいく感覚、
淡々と荷運びを繰り返すコトでそんな問いも消失していく。
様々な思いが浮かんでは消えていく、座禅で立ち現れるような雑念、ある沸点に達すると真っ白になっていく。
トラが木の周りをぐるぐる回ってるうちにバターになるってなもんでしょうか。

半年を越えれば有給も貰えたし、この仕事も実に楽になってきたところだった。
馴れという魔物、習慣化され飼い慣らされていくと、何も思考しなくとも身体が自然と動く。
国内と貿易、各所に仕分けしていく地図が身体に形成され、無駄な動きもなく運ぶようになっていった。
本来ならばこのまま続けていけば、きっと気疲れなく、ただただルーティーンに埋没し賃金をゲットしたことでしょう。

覗き見がぐらいがいい。
人と関わるのは面倒だが、聞き耳を立て人を観察するのは嫌いじゃない。
近くで会話を盗み聞きし、自分の中でそいつらにツッコんだりボケたりする。
最近気付いたが、僕はこの仕事の給金を生活の糧として重要に捉えていたが、
ここに居る老人たちにとって定年後のお小遣い稼ぎに過ぎなかったコト。
それまでやったマトモな仕事を定年退職し幾許かのお金も持ち、年金も貰い、
それでやることもないし適度な運動てので健康を保っとくか的な、余暇を持て余した就職先がここだった。
万歩計アプリで今日は何万歩だったと携帯を見せられ、竜二ばりにタバコを相手の手の甲に押し付けてやろうかと思った。
そうして僕に話しかけてくる者はいなくなっていった。
そう、かまわれたくはない、覗き見がぐらいが丁度いいのです。

僕は一定の距離感がないと不快になる。
「エヴァンゲリオン」に於けるATフィールド“Absolute Terror Field(絶対不可侵領域)”だ。
老人たちは必ずそれを無視して、僕の領空を侵犯しようとする。
近過ぎるんだ。
いや僕にも愛する人がいるので、そんな仲であれば構いやしない、いあや寧ろ近くに来て欲しい。
しかしあなた方は職場の同僚くらい、遠くでも近くでもなく、お金で飼われたタダレた関係でしかない。
観察してると老人たちは和気藹々と、スレスレの距離で会話してるじゃないか。
ツバキ飛び交う近さだ。
ゴルゴ13ではないが、至近距離で背後につかれるのも不快な僕は、ベルトコンベアーで荷待ちしている際でも一定間離れるというのに、ピッタリと張り付いてくる老人たちに辟易した。
広い駐車場一台も停まっていないのにわざわざ隣にきて駐車する奴らみたいだ。
誰もいない公衆便所の小便器の真隣に陣取る奴みたい、やいそんなに僕のイチモツが気になるのかい。

そんな様々な思惟も、やがて深層意識の底へ沈殿し、忘れ去られていくことでしょう。
さようなら箱男、もう二度と会うことはないでしょう。