見出し画像

『愛がなんだ』をカップルで観に行く勇気

未だに自分の中のNo.1キャラはウッディ・アレンの映画『アニー・ホール』の主人公アニーだと思っている私。

『アニー・ホール』のオマージュと言われるシーンがある、と聞いて『愛がなんだ』を観に行きました。

観始めてしばらくして、思ったこと。

主人公の名前の印象が薄い…。

主人公が「愛」を捧げる「マモちゃん」。

恋のライバル、「すみれさん」。

この2つの名前ばかりが耳に残って、主人公の名前が置き去りになるのです。

主体性がなくて流されやすくて不器用で、バランスが悪くて空気も読めない。特別な趣味もなく、自分が何が好きかもよくわかっていない。そのことも観ている人をガッカリさせてしまう。(『勝手にふるえてろ』のヨシカとはここが決定的に違っていると思いました。)

このお話の主人公の名前は「山田テルコ」。劇中では「山田さん」と呼ばれることの方が多い?せいか、日本人にはものすごく聞きなれたなじみの名前で、空気のように頭に残らないのです…。

これは原作者の狙いなのか、今泉監督の技なのか…。

だからこそ、観ている人は「山田さん」の言動が他人ごととは思えなかったのではないでしょうか…。

あれ、これって私のことなのでは? と。

自分の痛い過去の恋愛体験を、目の前で再現VTRにされたようないたたまれない気分になり、スクリーンに映し出されるもどかしい「山田さん」から目を背けたい気分になった人がきっと居たに違いない、と(過去の自分も含めて)思いました。

本当はとっくに家に帰っているのに、マモちゃんからご飯を食べようとお誘いがあれば、「ちょうど良かった!今会社出るところだった」と嘘ついたり、独りよがりに相手を想いやっては裏目ったり…。もちろん「付き合ってる?」なんて野暮なことは聞けません。既成事実がミルフィーユのように幾重にも重なれば、やがて想いも募り、誰にも負けない最強の関係になれるに違いない、と信じています。いわば恋における「愚かさ」をこれでもか!と連発し続けるのです。

でも物語の後半から「あれれ?」となります。 

そう、マモちゃんの友人の別荘に泊まりにいったあたりからです。

「好きなのか?」「付き合っているのか?」と、それぞれの登場人物が互いに問われる瞬間がおとずれます。山田さん以外の他の登場人物は、そのシチュエーションでブレたり迷ったりする。
それでも、山田さんはその問いをあえて真正面から受け止めることをせず、やっぱりマモちゃんに「愛」を捧げ続けるのです。

それは好きとか恋とかを完全に超越した行為で、

相手の望む距離感に合わせることで、近くに居続けられる必然性を見出すのです。そして山田さんは、マモちゃんにとって、いつしか都合の良い女を超え、慕情をほのかに抱く存在になります。

独りよがりで恋愛ベタな都合の良い女だった「山田さん」が、何故か急速にまぶしく見える。もはやその頃から彼女は「山田さん」ではなく「テルコ」になっています。

私たち付き合ってるのかな?
私のこと好き?
ずっと愛してくれる?

と互いに確認し合わないと不安な関係より、
型へのこだわりを捨てて

単純に一緒にいたいかどうか?

一緒にいたいと思われるかどうか?

この人が自分にとって必要か?

相手にとって自分は必要か?

にだけ固執する。それは恋愛下手ではなく、なんだかかっこいい。

結果、めちゃくちゃ恋愛ベタだと思っていたテルコが逆にとんでもなく超越した恋愛上級者にさえ見えてくるという…。

信じていた社会的常識や恋愛のハウツーがガラガラと崩れていくような感覚になります。

そして、終盤の合コンのシーン。
このシーンのテルコはこの映画の中でもっとも美しかったです。

テルコさん、あなたにあやまりたい!未熟者だったのは私でした…。
という精神状態に陥り、

これまでの人生で発した

愛してる

付き合ってください
の言葉たちが
信じられないくらいの軽さになって羽根を生やし、ハタハタとどこかに飛んでいきました。

そして、
この映画をカップルで観に行くのって相当勇気がいることだなぁ、と思ったのでした。

この映画を観た後「愛してる?」って確認し合うことが、なんだかとても野暮な気がするので。じゃあ「型」に捉われるのをやめよう、となると彼氏彼女の関係でいる必要もなくなる・・・。

こわい…。


結局映画館からの帰り道に思ったこと。

誰だって愛を語る資格はあるけれど、誰ひとりとして愛について絶対的な定義付けはできない、ということ。

あれ、そんなこと観る前から分かってたよね。
でもなぜか観る前よりも観た後のほうが、

自分自身をちょっといとおしく思える気がしたのでした。

さて、

もう一度観に行こうかな。やっぱり2回目も独りで。

アイスクリップ





この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?