#18 Ted Barton

https://soundcloud.com/user-983930015/no-18-ted-barton 2019年4月5日

みなさんこんにちは、Ice Time Podcastへようこそ。ホストのジャックと、共同ホストのあやのです。本日のスペシャルゲストは、スケート界への多大なインフルエンサーとして知られる、ジュニアグランプリシリーズのキャスターである、テッド・バートンさんです。こんにちは。ご機嫌いかがですか

とってもいいですよ、東京での世界選手権でスペシャルな週末を過ごしましたからね。素晴らしいホスピタリティと、信じられないスケートパフォーマンスの数々でした。

そうですね、本当に素晴らしかった。ぜひそのお話から始めましょう。全体のスケートのレベルについての意見を聞かせてください。まずは男子の部門

いや信じられない思いですね、人はこんなにも新しい境地を発見し続けられるのかと。採点システムが変わった時というのはスケーターたちが点数をより多く獲得するために機会やクリエイティビティを発揮するタイミングではあります。それが今は、身体的には多くの4回転が飛ばれるようになり、それだけでなく芸術性の面も非常に進化している。羽生選手とネイサン・チェン選手の戦いを見ていると、それを如実に感じますね。きっとこれから数年は、このスポーツにとって特別な戦いが続くでしょう。2人のトップスケーターがスケート界を引っ張って言って、もちろん他の選手たちもチャレンジはするでしょうが、この2人はもう別格のレベルにいて、今回はチェンが勝ったけど次は羽生が勝つというような2人の戦いがこのスポーツをどんどんと遠くへ押し上げていくでしょうね。そういったことを感じられる、とてもエキサイティングで特筆すべきイベントでしたね。東京で行われたこの戦いで、何を目撃したのかということをどれだけの観客が正しく理解していたかわかりませんが、とにかく素晴らしい戦いでした。

そうですね。日本のファンについてはどう思いましたか?エキシビジョンも含めて5日間、1万8千人の客席をファンが埋め尽くしました。日本のファンがフィギュアスケートに向ける情熱をどう感じましたか?

日本の観客にあるのは情熱だけだとは思いません。知識もしっかりとある。だから、カナダのファンたちのことも思い出しました。90年代でカートブラウニングがいて世界を引っ張って言った時代には1万7、8千人のファンがいて、その国に戦いに来た全てのスケーターたちを理解して応援していた。日本のファンも同様に、どこの国の出身でも、もちろん日本のスケーターにはもっとも熱い応援が送られるけど、他の国のスケーターに対してもとても礼儀があって素晴らしい応援をしている。これはどこの国でも聞くことができない、日本だけのことですけど、スケーターの名前がコールされるときはもう完全に、100%みんなが黙って無音になる。応援で大きな声を出すこともない。これは名前を呼ばれる選手に対する敬意ですよ。名前を呼ばれてポジションについて演技をスタートする、それをみんなで黙って見守っている。大きな声を出さないように客席で囁きあっているんですよね。これは他では見たことがない光景でした。

そのことについてあなたは記事にも書いていましたね。日本人が全てのスケーターに敬意を表している証拠ですね。それはネイサン・チェンへの応援にも表れていましたよね。自国のヒーローの一番のライバルがあれだけの歓声を受ける。他の国では見られないことでしょう。

そうですね、日本人はすごくこのスポーツを愛しているようです。1つ、このスポーツを愛している。2つ、自国のアスリートを応援する、これはいたって自然なことですよね。このスポーツを愛していること、全ての選手への尊敬と情熱を持っているということは、彼らの振る舞いと世界中の選手への態度でよくわかります。これはとてもユニークなことで、私に90年代のことを思い出させますし、これが世界中でこのスポーツをもっと有名にしていくために根付いて欲しいと思いますね。

世界選手権の男女フリーの日を見ていると、同意してもらえるかわかりませんが、ここ15年ほどの日本でのフィギュアスケート人気の盛り上がりがカナダでのアイスホッケーの盛り上がりに似ていると思うんですよね。どう思いますか?

確かにそうですね、もしくはそれよりも強いかもしれない。世界中の全てのスポーツを知っている訳ではないですが、日本にとってフィギュアスケートは比較的新しいスポーツですがそれを発見してどんどん進化させて行っているこんな国は見たことがないですね。浅田真央さんからか、それより少し前ぐらいから人々が本当にフィギュアスケートに興味を持つようになっている。TVでの放送もそうですよね。もしそういった露出や熱狂的なファンがいなければ人々はこのスポーツを知らないでしょうし、このスポーツに恋に落ちたりもしない。こんなにも深くこのスポーツが広がることもなかったでしょう。ちょっとしたお話をしますけどね、朝日TVが数年前にジュニアグランプリの試合を放送しようとしていた時に打ち合わせをしていて、浅田真央さんが引退することを知って、日本のファンたちが浅田真央の次の世代の選手たちを見られるように、見つけられるようにこの試合を届けなければいけないという話になった。だから世界のトップジュニアスケーターたちのストーリーを交えてライブで見られるようにということでジュニアグランプリの放送権を買ったんです。ただ日本がメディアパートナーとしての力を見せたかったからとかそういうことではないんです。だから今改めて、NHKや朝日TV、フジテレビに感謝を述べたいですね。

全面的に賛同しますね。それで、世界選手権に話を戻しますが、羽生結弦選手の演技をどう思いましたか?4ヶ月の怪我との戦いのあとと思うととても素晴らしかったと思いませんでしたか?

彼が数ヶ月も氷から離れた後に何を生み出したかを考えると、彼は本当に特筆すべき、普通でない、とてもハイレベルのアスリートで、私たちが長い間見たことのない選手だと言えます。ただ質が高いとか難しいことをやったということではなくて、彼が披露したのは、「彼の品質の演技」なんです。それを念頭におくと、世界選手権でのエレメンツの質は全てが彼の最高ではなかったかもしれない、長い間氷に乗っていなかったですからね。でももちろん彼はジャンプをしっかり降りているし、いくつかは素晴らしいランディングでいくつかはちょっと危ないものもあった。でも彼のプレッシャー、自国開催の満員の観客の前で、ネイサン・チェンの前でどんなものが来るかもわからない中で滑る。これはもうすごいことですよ。彼ができるだけ長く選手でいてくれることを心から願いますね。彼ほど、勝手も負けても見ていて楽しい選手はいない。世界にはたくさんのスケーターがいますけど、彼は一人だけだ。Yuzuru Hanyuというスケーターは。

本当にそう思います。全く素晴らしいショーでした。2年連続の怪我からの復帰ですよ。去年は怪我から復帰して平昌で優勝した。もう彼が何をしても驚かないぐらいですよ。彼はなんでもできるアスリートのように見えてしまう。

一つ付け加えたいんですが、ゆづるのコーチは、彼のプレッシャーを完璧に理解していると思いますね。ブライアン・オーサーのキャリアを見返した時、特に彼がカルガリーオリンピックに行った時を考えると、彼は自国での大きな大会のプレッシャーを理解していると思いますね。だから彼は、技術面やマネジメント面だけでなく精神的にもゆづるの大きな助けになっていると思います。すごいプレッシャーが選手に降りかかった時、世界でもそれをブライアンのようにうまくコントロールできるコーチはいないと思います。だから彼らは良い関係を築けているんでしょうね。素晴らしいですよ。

そうですよね。彼のフリーでのクアドトゥートリプルアクセルのコンビネーションについてはどう思いますか?

素晴らしいと思いますね。技術的に、彼の回転に入る速さがすごく優れていると思うんですね。さらにテイクオフの時にバネのように飛ぶこのでとても高く上がることができる。そこから素早い回転に入るので無駄がないんですね。だからクアドトゥのすぐ後にトリプルアクセルを跳ぶことができる。素早い動きであのコンビネーションを可能にしているんですね。多くの選手があれほど速く動くことができるわけではないけど、彼はその素早さを持っていますね。

テッド、あなたは自身もスケーターでいましたよね。1975年にはネーベルホルン杯に出場しているし、1976年には世界選手権にも出ている。このスポーツの巨人たち、ジョン・カーリーやロビン・カズンズ、トーラー・クラインストたちと戦っていますよね。彼らと比べて羽生選手はどの位置にいると思いますか?

全く違うレベルの話だと思いますね。ジョンやロビーやあの世代の他のスケーターたちを尊敬していないわけではもちろんないですし、彼らはあの時代を破ってこのスポーツの芸術面を進化させたと思います。進化は必ずしも技術面だけに必要なわけではない。芸術面は様々なことに影響しますし、腕の上げ下ろし肩の位置など全てにおいて関係があります。特に私たちの世代の時は。彼らはこのスポーツの余白を広げたんだと思うんです。そして芸術を競技に取り入れた。だけど羽生の芸術性は桁外れです。ネイサン・チェンについても言えるでしょう。過去の彼は素晴らしい技術者だった。去年は良かったし今年はさらに良くなって彼の演技の才能はどんどん進化しているし、ゆづると比べなくても、彼自身が素晴らしい。私たちの時代では、ジョンやトーラーは素晴らしかったけど、それは身体的にと芸術的にということで、どちらが劣るとかでなく、ただ本当に比べられないんだと思います。どこから現れるのかはわからないけど、そういったアスリートたちはきっとまた発見されるでしょうね。連続クアドのコンビネーションができるか?5回転も可能か?いつ、誰に寄ってかはわかりませんが、いつか5回転も可能になると信じています。

そうですね、きっとそうだと思います。ISUのジュニアグランプリシリーズについてですが、このことはもちろん私たちは何度も話をしましたがリスナーたちに聞いてもらうために、あなたがどうやってISUジュニアグランプリシリーズを放送することになったのか教えてください。

そうですね、あれは・・・もう何年前だったかはっきり覚えてないけど多分9年ぐらい前に、ISUのディレクターだったピーター・グレッグとジャッジシステムに関する仕事を一緒にしていたんですね。その時に僕にアイディアがあった。カナダですでにストリーミング配信をしていたんですが、他の国のジュニア選手たちがどんなことをしているのか、同世代の選手がどんなことができるのかというのを見るのは成長するためのとてもいい刺激になると思ったんです。それで始めて見たら多くの人がそれを楽しんでくれていることに気づいたんです。おじいちゃんおばあちゃんや兄弟姉妹おじさんおばさん、家族だけでなくて幼い子供たちも世界中から見ることができて、グループ全体が進化して行った。それでピーターに言ったんです。「ピーター、ISUだけがこの権利を持っていて世界に見せないのは勿体無い。カナダのアイスホッケーを見て見てよ。ジュニアホッケーはTVででも放映されているし、PSNができるまでスポーツの中で一番見られていた、ジュニアの放送が素晴らしかったからね。世界のジュニアスケーターたちは素晴らしいから、ぜひISUにまずはテストとしてジュニアグランプリを放送することを提案してほしい。」と。そうしたら彼はすぐにそれを協会に提案して、どんどん動かして行った。朝日TVの知り合いにも話をしたら、さっき話したように浅田真央さんの引退の時だったから彼らもこのアイディアを気に入って、それで2014年のクーシュヴェルの試合から放送を始めたんです。今年もクーシュヴェルが始まりでしたけどね。
それをやり始めて改めて、若い選手たちが何ができるのか何をしているのかを広めるのはスポーツにとっても若い選手にとってもコーチにとっても、みんなにとっていいことだと気づいたんです。これはジャックには話したと思うけど、私がその中で一番悪いことなんですよね。テレビで何を放送するか、何をいうか何をするか、スケーターたちに何ができるか。ポジティブに、サポートして助けとなり、正直でいることがこれを続けていくために大切なんですね。

えぇ、日本や世界中のファンたちが秋の間は毎週を楽しみにしていますよ。若いスケーターたちがどうしているかを見ることができて、しかもあなたのようなエキスパートが解説をしているのは見ている人に素晴らしい知識を与えると思います。

東京にいる時に思ったんですが、あそこにいたほとんどのスケーターがジュニアだった時に私は取材しているんですよね。だから、次の流れとしてはロシアのジュニア、アレクサンドラ・トゥルソワが来年シニアに上がりますが彼女がどれだけ早く駆け上がるかに注目したい。ジュニア選手がシニアに上がってどう変化していくかという軌跡を追って見たいという、そこまで範囲を広げたいという気持ちに今はなっています。それに、僕が好きなのはトップスケーターだけじゃないんですよ。彼らはもちろんすごい物語を持っているけど、その横にいる選手たちも素晴らしいストーリーを持っているんです。アゼルバイジャンや、あまり氷に触れる機会がない国の選手たちが大会で自己ベストを更新していく。レベルが違っても氷の上の努力という点では同じで、そう行ったストーリーも全てカバーしていきたいですね。

テッド、少し世界選手権に話を戻したいんですが、女子はどう見ましたか?先ほどほとんどの選手のジュニア時代を取材していると言っていましたが、日本にとっては残念な結果になった。紀平梨花さんが4位、坂本花織さんが5位。彼女たちの滑りをどう見ていましたか?

梨花は表彰台には間違いなく登ると思っていましたね。最初のトリプルアクセルがシングルになってしまったのが大きい。彼女の大きな武器ですから。でもそれだけでなくて、彼女を初めて見たのは確か数年前にリュブリャナだったと思いますが、当時から素晴らしい技術を持っていた。練習ですでにトリプルアクセルやトリプルアクセルートリプルトゥに挑んでいました。でももちろんまだまだ進化の余地はあったけど、それでも彼女は一つしか才能がないという選手ではなかったですね。難しい演技構成ができることは確かですが、それだけでなく成熟していく素質があった。浅田真央さんと同じとは言いませんが、真央さんは特別な品質の高さがありますからね。でもそれと同じような品質を得ることができると思います。そのかけらを感じますね。今回は彼女にも日本のファンにも残念でしたが、彼女は他の誰もが挑んでいない難しい構成に挑んでいったんです。それが少し今回はリスクが勝ってしまった。他の女子スケーターたちはすごくパワフルで強くて、誰もミスをすることが許されなかった。競技レベルが高すぎて、どこの国のスケーターであってもミスは許されなかった。その中でメドヴェジェワは、世界中に存在感を示す決意があった。それはザギトワも同じで、若いスケーターたちだけが強くいられる、歳を取ったら解雇されると言われる世の中で、存在を示す強い決意があって事実それをやり遂げた。
僕の予想では、来年のモントリオールでの大会では日本の選手たちが次のレベルに上がっていると思います。プレッシャーが飛んでもないことになっているでしょうしね。世界選手権が全てだとかそういうつもりはないですが、でもきっとハードにやってくる。日本のファンがメダルを待ち望んでいますしね。日本選手たちはきっと世界のトップレベルに長くい続けるでしょうし、オリンピックの頂点に立つかもしれない。

えぇ、そう思います。年々、イベントごとに状況が変わって誰がその日に勝つかがわからないというほど、全員のレベルが上がってきている。それに他にも怪我やプレッシャーといった要因もありますしね。先ほどモントリオールでの来年の世界選手権の話がありましたが、あなたはそれに関わっているんですよね?

そうですね、何か国内のエンターテイメントやプロダクション関連のことで関わるでしょうね。それにプログラムを作るのにもきっと関わると思いますよ。ついに私たちの国の特別な場所、モントリオールにこの大会が戻ってくるんです。確か最後に世界選手権がモントリオールで開催されたのは1930年代で、それからグランプリファイナルは一度ありましたがそれ以外に大きな大会というのはないんですよね。素晴らしい文化と素晴らしい人々がいる場所で、何を食べるかどう生活するかをみんなが知っています。フランスとイギリスの文化が混ざった素晴らしいカナダの都市なので、素晴らしい世界選手権になると思いますよ。設備も見事ですしね。東京での開催を考えると、都心部からは少し離れていますよね。モントリオールは都市の真ん中にあるのでとても便利ですよ。

モントリオールカナディアン大会があったのと同じ場所ですか?

えぇそうです。映像設備も音響設備も素晴らしいですよ。それに一番いいことは、ダウンタウンのホテルからリンクまで歩いて行けるし、もし地下鉄に乗るとしてもしっかり発達しているのでとても簡単ですよ。

素晴らしい大会になりそうですね。開催されるときが楽しみです。すごく昔になりますがモントリオールにはいったことがあって、1週間ぐらい過ごしました。人々も親切だったし、ホッキーに熱狂していましたね。

ホッケーは人気ですからね。でも世界中からのスケートへの熱意もすごいことになると思いますよ。もちろんアメリカは隣国ですからたくさんの人がくるでしょうしね。埼玉の大会でもコンコースにたくさんのブースがあってチケットインフォメーションをもらうためにたくさんの人がメールアドレスを登録していました。きっとモントリオールでも日本の応援団やアメリカ、ヨーロッパの応援の人々が押し寄せてきて、国際色豊かな楽しい大会になると思いますよ。

ところでテッド、今回の世界選手権で使われていたアイススコープというのは知っていますか?ジャンプの距離、高さ、ランディング速度を測っていたんですが

えぇ、全日本選手権でも見たと思います。ああいった技術の情報を得られるのは素晴らしいですね。いつ、どのように使うかということが重要になってきますが、私自身コメンテーターとして情報をリサーチしているので。そういった情報が常に表示されていたら混乱するよりも助かる方が多いでしょうね。批評するためでなく分析するために。スケーターたちがどれだけ早く、どれだけ高く飛んでいるかという情報はファンたちにとってもありがたいものになるでしょう。特に速さは全てのエレメンツに関係しますから。ただ、ジャッジにとってはそういった情報は特に必要ないのかなとも思います。だとしても、良いスケーターは速さが優れているとか、高いジャンプには高い点数をつけるだとかそう行った相関性も出てくると思います。

その分析によると、あなたが知っているかわかりませんが、もちろん結弦のトリプルアクセルが一番高くそして遠くへ飛んでいる。これはそんなに驚きではないですね。ただランディングスピードに関していうと、坂本花織さんが男子も含めた中で2位の速さなんですね。彼女はダブルアクセルで、男子はトリプルアクセル、女子のほとんどはダブルアクセルですが、坂本さんのランディングスピードは時速20.7キロで、男子のミハル・ブレジナ選手に次ぐスピードなんです。

それはでも驚きはないですね。初めて彼女を見たとき、確かブリスベンだったような気がしますが違うかもしれないけど、とにかく初めて彼女を見たときはもう「オーマイガー」と思いましたね。ジュニアスケーターであんなに速い子を見たことがありませんでしたから。彼女はスピードのコントロール方法を習得していますよね、ジャンプの入りとランディングだけでなく。その数字は、今ジャッジが使いきれていないことだと思いますね。GOEが+ー5に広がって、そこにはこう行った速さということも加味するべきだと思います。エレメントの質という点においてこれは大切なことです。彼女は氷から飛び立つとき、空中、そしてランディングでも信じられないパワーを放っていて、それが彼女のジャンプ技術を支える大きなポイントでもあると思います。

今シーズン男子のフリースケーティングが30秒短くなりましたよね。これはどんな影響があったと思いますか?

おそらく結弦とネイサンには助けになっているでしょうね。彼らのプログラムから非常に高度なエレメントを一つ減らしていますから。その30秒の間にクアドやトリプルアクセルのような大技を組み込む、しかもプログラムの最後の方に入れるということは本当に大変ですから。おそらく技術的には多くの選手の助けになっていると思いますが、プログラム自体が成熟して行くために成長しているかどうかはもう一年様子を見る必要があると思います。30秒という時間はエッジワークと音楽性を発揮するには十分な時間ですからね。でもなぜ彼らがこれを決定したのかは理解できますし、正しい選択だったと思いますよ。スケーター達はちゃんと調整できるでしょうし、僕は短すぎるとは思いませんでした。だから僕は大きな問題はないと思いますし、30秒短くしたことでより良いパフォーマンスができるスケーターが増えるのではと思います。

なるほど。先ほどジャッジシステムについての仕事のことを少し話していましたよね、ソルトレイクシティ後あたりのことと思いますがそれについて少し教えてもらえますか

えぇ、ISUはジャッジシステムを検討する国際的なチームを90年代の後半から考えていて、新しいシステムを作るためにソルトレイクシティのアリーナでのスペシャルMTGに出席して欲しいと言われて行きました。それでソルトレイクオリンピックを見て、よりアスリートのためになるシステムを考案する6人のチームメンバーが確定しました。それから6ヶ月ほど検討して京都で初めての会議がありました。私がそうしてこの仕事をしていたのはそれから4年ぐらいですね。チームにはロシア人、カナダ人、ドイツ人、フィンランド人などがいて、みんなでエレメンツをより明確に、より詳細にジャッジする新しいシステムを考えていました。このチームで働くことは本当に貴重な経験になりましたね。例えば英語が世界中で話されているけど、少しずつ違うということもここで実感しました。ロシア人の英語、日本人の英語、ドイツ人の英語と、それぞれが話すのは同じ英語だけどバックグラウンドが違うので含まれる情報の意味が少しずつ異なっていて、それを正確に汲み取ることをとても気をつけていました。そういったことを学んでそれぞれが貢献できるように協議するという時間は、私自身の人生にとっても、このスポーツにとっても、大変でしたがとても意義深い時間だったと思います。

なるほど。ブライアン・オーサーについての話がありましたね。去年デイヴィット・ウィルソンにも同じことを聞いたんですがブライアン・オーサーは、選手としてよりもコーチとしての方が優れていると思いますか?

ええと、そうですね、僕の答えとしては「NO」です。彼は素晴らしい選手で、おそらくあの時代の最も優れたスケーターの一人でしたから。なぜなら、彼はステップや全ての動きをトランジションしっかりと繋げた唯一のスケーターだったからです。彼にはただのストロークというような無駄な動きは一つもなかった。彼は全ての音符もフレーズも全てをターンやステップでカバーしていて本当に素晴らしいスケーターだった。正しく評価されていないとも言わないですが、彼は1987年に世界チャンピオンになっていますが、いつでも優勝するためにチャレンジしていた。彼は僕のお気に入りのスケーターの一人です。でもそれは彼が優れたコーチじゃないという意味じゃない。彼はとんでもなく素晴らしいコーチです、彼のこれまでの経歴を見れば明らかなようにね。だからそうですね、スケーターとしてとコーチとしては、同じぐらい優れていると思いますね。ちょっとした話をしますけどね、実は先日日本の濱田美栄コーチにインタビューしたんですよ。まだ公開していないんですが。彼女は素晴らしいコーチだしエテリも素晴らしいコーチだしトレイシー・ウィルソンも。今世界中に素晴らしいコーチがたくさんいて、コーチの質が上がってすばらいい選手をたくさん育成できて、本当にラッキーな時代だと思います。

デイビット・ウィルソンの同じ質問への答えは「とても近い」でしたねw

僕にとっては彼は本当に素晴らしい選手でコーチですよ。ファンたちは彼がコーチとして戻ってきて見ることができる。彼の昔の映像を見るといいですよ。ステップも音楽の取り方も本当によくて、最も素晴らしい選手の一人です。あれを教えることができたならコーチとしてももちろん素晴らしいと思います。

今、濱田美栄コーチの話が出ましたね。紀平梨花さんや宮原知子さん、白岩ゆなさん、そのほかたくさんのコーチですが、あなたは彼女についても詳しいんですね。彼女について少し話してもらえますか

彼女は人として素晴らしいと思います。正しい技術を伝えることは大切ですがそれは世界中のコーチたちがやっている。でも素晴らしい教師というのは素晴らしいコーチともちょっと違う。世界のトップレベルのアスリートを教えるためには、両方でなければいけない。素晴らしい教師で素晴らしいコーチ。そして彼女はそれを理解しています。彼女はスケーターのマインドを理解しているし、厳しく、じっくりと観察し、訓練もしっかりしている。それに僕が彼女について一番好きなことが、彼女は今でも小さい子供達にスケートを教えていることです。インタビューで「なぜ今でもそうするんですか」と聞いたんです。彼女は「いつも彼らの反応やどう学ぶか、そしてその才能を私がどう伸ばしていけるかというのを見るのが好きなんです」彼女のそういう、エリートだけでなく全てのスケーターに興味を持ち続けているところが彼女の素晴らしいクオリティにつながっていると思います。それに彼女はよく考えて話をするしとても礼儀正しいけど、中身は競技者だなということもわかる。そういうところもとても好きですね。彼女はこれまでに素晴らしい功績を挙げているし、これからもスターを生み続けていくでしょうね。

同意します。私も札幌でNHK杯が行われた時にインタビューしたことがあるんですが、忘れられないことがあります。私たちは一般的なことや彼女の哲学なんかについて話をしていて、ふとこちらを見ていったんです「一番大切なことは親をコントロールすることです」と

面白いのが、どのコーチにも親についての話はするんですがアスリートを成長させるための親の重要性についてみんなが同じことを言っていましたね。彼女も「親がコーチに仕事をさせることを許すことが必要」と言っていて、トレイシー・ウィルソンも同じことを言っていましたね。これはある種のチャレンジですよね。いいコーチを見つけられたら良いけど、でも親は確証を持てないとしたら何をするかというといろんな場所に言って情報を集めて自分の子供が正しいコーチについているかどうかを確認する。「コーチを信じなさい」というのは簡単ですがそれが正しいかどうかの証拠を示さないといけない。もしも子供が幸せでない様子を家で見たら、親はどうするか?簡単な答えは「コーチを信じること」でも親の立場で考えた難しい答えは「もし何か問題を感じた時に何をするか考えること」これは難しいことですよ

確かに。エテリコーチについても話がありましたが、彼女のロシアでの育成方法についてはどう感じていますか?特にジュニアの女子たちが4回転をどんどん飛んでいますが、これはスポーツにとっていいことだと思いますか?身体的な問題など・・・どう思いますか?

そうですね、他の人とは意見が違うかもしれないですが、僕は今問題を感じていません。若いスケーターたちの効率的な技術は体重や筋力などを鑑みて、完璧です。ダイナミックでパワフルで技術も素晴らしく、体を痛めることはあまりないように思います。もし技術が足りていないところを力でカバーするようなことがあれば、それは体をひねってしまうのでよくないでしょう。でも技術がしっかりとしていれば4回転の寿命も長く続くでしょう。もしかしたら体の成長に伴って4回転が飛べなくなるかもしれない。もしかしたら4つでなく1つだけが残るかもしれない。そうなれば別の方法で得点を得る方法を見つける必要がある。でももしできるのであれば、他の良い方法との引き換えもなしにそれを禁止することはできないでしょう。でもそれはコーチのマネジメントに尽きると思います。もしもコーチが4回転に対する知識がしっかりあってできると思うならやらせるでしょう。誰もわざと選手を傷つけようとはしません。誰一人として。だから彼らはそれをしっかりと理解しているだろうし、身体的な難しさや評判や怪我もマネージメントしているでしょう。でもそれはどこでも、どの国でもどの選手にも起こりうることです。だから今のところの私の意見は問題ないということ。素晴らしい選手たちがこれからどう育つか見守りたいですね。

では先日の世界選手権でのトゥルシンバエワ選手についてはどう思いますか?フリーでの4回転ですが

そうですね、トリプルアクセルジャンパーが出始めた時と似ていますが、彼女はやはり、体重が軽いし本当にタイミングを掴んでこの難しいジャンプを飛んでいると思います。それに彼女のチームでは若い選手たちが難しいエレメンツをどんどんこなしていて、彼女はそれを見てあの子達ができるなら私もできる、と思って挑んだんだと思います。彼女は今年本当に素晴らしい進化を遂げたし、成熟して成長して、うまくマネージできているように見える。これをネガティブだとは思いませんね。このスポーツの面白い一面だと思います。若くても、成長途上でも、そして歳を重ねてからも勝てる。ただ個人の能力によるんです。

その流れで言うと、女子選手もショートプログラムでクアドを入れることを許されるべきだと思いますか?

それはいい質問ですよね。技術的に難しいことをしようとすると、もちろんリスクも伴う。失敗すれば失点は大きいですから。でもそれは、戦略次第だと思いますね。スケーターの、そしてコーチの戦略。リスクを取って勝つか、それとも負けるか。どちらかでしょう。でもそれを問題だとは私は思いません。ですがそれはやはり、シニアでは少し違った問題になると思います。シニアで15歳の女性がまだ成長しきっていない中で大技を決めて、身体的に成長した選手たちに勝って行くのがフェアなのかどうか。それに対する正解は私にもわからないですね。今のところそれが現実になるかもわからないので、先行きを見守るしかないですね。

テッド、最後の質問に行く前にもういくつかだけ。昨年の夏に日本では大きなサプライズがありました。高橋大輔さんが現役復帰を宣言して地区大会を勝ちあがり、全日本でも銀メダルを獲得した。彼の復帰と、そのインパクトについてあなたの考えを教えてください。

彼は私のお気に入りの選手の一人です。彼はいつでもすごくドラマチックで情感的ですよね。彼が技術的にハイレベルのことができるかどうかと言うことはこの際あまり関係なくて、彼は見ていてもっとも興味深く、情熱を感じるスケーターの一人です。彼の滑りを見るのがいつでも本当に大好きです。あのレベルのスケーターになると、自分の欲求を満たすことが大変に難しい。歳を重ねるといくらか理解してきてがっかりしてしまうか、もう氷の上は十分だと考えるようになる。だから彼が戻ってきてしかも国内の大会にとどまってそれ以上外へ行こうとしないところをとても尊敬します。そんなことをする彼をとてもクールだと思うし、よくやったと思いますね。ただ戻ってきて全日本で滑ったと言うのが素晴らしいです。彼が何をしているのかよく知らないんですが

彼は数カ月の休暇を取ってアメリカで英語の勉強などをしていたんですが、今後も選手を続けると言っているんですよね。そこで問題となるのがどのレベルで、ということだと思います。国内の大会なのかB級の国際大会なのかそれともグランプリシリーズの大会なのか。みんなが彼の次の動向を見守っているんですが、とにかく彼は今後もスケートを続けるので、どのレベルかというのが問題です。

わお、このスポーツへの愛を感じますね。その点があまり話されない重要なことだと思いますが、人生の転換点について。人生の一つのステージで全てのことをやり終えて次のステージに行く時に、コーチになるのか大学に戻るのかそれとも全く違うタイプの仕事に就くのか。その選択はとても難しいですよね。これまで25年だとかそのぐらい長い間みんなが知っているスポーツをずっとやってきている。どうやってそれを突然辞められるでしょう?簡単なことではないと思います。それで幾人かは懐かしく感じて戻りたい、もう一度体験したいと思うでしょうし、他にはコーチへの道を進んだりします。優秀なコーチの誕生はこの世界にとって嬉しいことですよね。だから、彼が本当にやりきった後にどういった選択をするのかはすごく興味がありますね。

最後に、あなたの今の状況について教えて欲しいんですが、ISUのジュニアグランプリシリーズの放送をしていますよね。それからスケートカナダ、British Columbiaユーカンのエグゼクティブディレクターでもある。2つの仕事でどうやってバランスをとっているんですか?

結構大変ですよw この組織で若い時からもう35年くらい働いていますが、周りを素晴らしい同僚が固めてくれていて、私たちは凄まじい仕事をしています。みんな世界中のどこにでも行きますからね。私がBritish Columbiaの外でする仕事は全て経験や知識となってBritish Columbiaへ還元されています。だからどちらの仕事にとってもイノベーターでありクリエイターであることは利点だし、ISUやナショナルの仕事をすることで学んだことはもう一つの仕事にも生かされている。そう言う風に二つの仕事が完璧に相互作用を持てています。同僚のみんな、BJは国際イベント関連を管理しているし、ダニエル・ウィリアムスはオフィスでスケートカナダ関連のチームリーダーをしていて世界選手権のことをやってくれています。彼女は埼玉にも行って、世界で一番大きなイベントにより多くの人が世界のスケートについて知って、私たちのスポーツがどうなっているのかをより効果的に伝えることをしてくれています。私は本当に幸運ですし、関わる全ての人を愛しています。

テッド、最後に、多くのスケートファンがあなたの放送アナウンスを聞いてあなたの声でなくあなたの観点のファンになっています。多くのファンがSNSで、あなたにCBCやNBCのキャスターになって欲しいと書き込んでいるのを目にします。そう行った機会はありそうですか?

いえ、まず最初に、私はジュニアを離れたくないですから。ジュニアグランプリを追いかけることは私の宝ですし、誇りです。それに私のステージや年齢や、著名なスケーターたちに比べて私はスケート界でそんな有名人でないので、テレビ局は私は選ばないでしょうね。ハードコアなスケートファンが私たちのやっていることを喜んでくれているんだと思います。だからこれはニッチなマーケットだと思っています。本当にハードなスケートファンで選手たちを邪魔したくない人たちが好んでくれているので、一般的な放送局が私たちのストリーミングに興味を持つとはあまり思えないですね。自分が始めたことを愛していますしこれまでやってきて人気を得ていることも嬉しく思いますが、私の次のゴールはもっと若い人がこの動きに参加して、テレビとは違う方法でハードコアなスケートファンののためにどうやっているのかを学んで欲しいと思っています。だから私が今までやってきたことをやって欲しいと言われたらわかりますが、このスポーツのための道理にかなわないことはやりたくないですね。野心的な大望がないとは言いませんが、このスポーツのために正しいことをやって行きたいです。

なるほど。テッド、アイスタイムポッドキャストのために時間を割いてくださってありがとうございます。あなたのコメントを聞くことを楽しみにしていますし、早く8月がきて欲しいと思います

ジャック、こちらこそありがとう。それに日本のファンに感謝を伝えたいです。ジュニアグランプリを見てくれてありがとうございます。私やこのスポーツ自体にとってとても優しく寛容で本当にありがたく思っています。世界選手権に行っていたときも何人かの方が私に話しかけてくれましたが、そんなふうに私たちがやっていることに興味をもって伝えてくれることは珍しくてちょっと慎ましい反応になってしまいました。そうやって私たちのことを見てくれている方々に感謝を伝えたいし、次のフランス・フールシュヴェルで8月中旬から始まるシーズンが素晴らしいシーズンになることを楽しみにしています。


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