生きるためにパイを焼く (2020年10月)

女は思い出したように
レモンパイを焼いた
なんとなくだ
いのちにはそれ以上の事情が表明されていない

ある朝
ネコの死体が市の指定の袋につめられて
ゴミ集積所に放ってある
半透明は丸みをうきあがらせ
どうやらいまだに生ぬくい
陽光に照らされているのは
何故なのだろう
遠くからみていた

オーブンの熱では
歓喜や悲哀はすこしも減らない
人生は短くて
たった数回パイを焼いたら必ず終わる
黙っていた
もうずっとずっと黙っていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?