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気になった論文や記事2024年4月26日

4月20日から4月26日の間で気になった論文や記事を簡単に紹介。なお、私が先週気づいたということであって、先週公開されたとは限りません。


●プーチンのファクトチェック

権威主義国では「ファクトチェック」に名を借りた言論統制がよく行われており、世界のフェイクニュースに関連した法律のほとんどは言論の抑圧に用いられている。
ロシアではRTを始めとするプロパガンダメディアを駆使して、「ファクトチェック」にいそしんでいる。検証されたわけではないものの、ファクトチェックが誤・偽情報対策に有効と考える人は多いため、権威主義国では誤・偽情報を信じさせるために「ファクトチェック」が用いられている。

Putin has a ‘factchecking’ operation, and so do other dictators – but they use them to twist the truth
https://www.theguardian.com/commentisfree/2024/apr/19/authoritarians-vladimir-putin-propaganda-factchecking-democracy

●ファクトチェックやモデレーションが一部の言語に偏っている問題

選挙では誤報が問題だが、そのチェックを行う体制は言語によって異なっており、人口とは関係なく、アメリカとヨーロッパが中心になっている。この傾向は以前から指摘されており、誤・偽情報対策の基本問題のひとつと言ってもよいだろう。未だに解決されておらず、改善の速度は遅い。

Election misinformation is a problem in any language. But some gets more attention than others
https://apnews.com/article/elections-artificial-intelligence-language-platforms-ed829171343812cbe55fab99615c77e5

●フランスがロシアの偽情報に対抗するためさらなる制裁を求める

6月のEU議会選挙をにらみ、フランスはロシアの偽情報に対してさらに制裁を課すよう提案し、エストニア、ラトビア、リトアニア、オランダ、ポーランドが賛同している。すでに各国でロシアの偽情報活動が暴露されており、危機感が高まっている。

France Proposes New EU Sanctions to Fight Russian Disinformation
By Alberto Nardelli and Jorge Valero

https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-04-24/france-proposes-new-eu-sanctions-to-fight-russian-disinformation

France seeks new EU sanctions to target Russian disinformation
Daryna Antoniuk

https://therecord.media/france-eu-sanctions-proposal-russian-information-operations-elections

ただし、別の記事で書いたようにロシアの影響工作の効果は検証されておらず、対策の効果も検証されていない。一方で検証されている問題が放置されている状況は、相手にとってきわめて都合のよい状態と言える。敵が囮(検知されやすい作戦)に夢中になっている間に、死角(検知あるいは対策しにくい作戦)からいくらでも攻撃できることになる。

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●巨大なスパイウェアコンソーシアムIntellexaを投資家や個人、市場から解明

アメリカやEUで制裁や調査の対象となっているIntellexaコンソーシアムを追ったCitizen Labの渾身のレポート。スパイウェアベンダはたくさんあるが、その裏では投資家や特定の個人が動いており、複数の企業などを組織化し、各国当局の目を逃れて活動している。
かなりボリュームのあるレポートで読み応えがある。関心ある方は必読!

Markets Matter: A Glance into the Spyware Industry
https://dfrlab.org/2024/04/22/markets-matter-a-glance-into-the-spyware-industry/

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中国で新設された情報支援部隊を煽る日本のメディアと、防衛研究所などの温度差
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●気まぐれな本の紹介 『地図のない場所で眠りたい』

高野秀行と角幡唯介という早稲田大学探検部OBのふたりの探検家が対談をしているだけの本。探検家はどうやって収入を得ているのか知らなかった。ぼんやりとスポンサーがつくんだろうなあ、くらいに思っていた。
この本を読むと、スポンサーがつく人もいるようだが、物書きで食っている人もいるようで、このふたりも収入源は物書きで、どちらもノンフィクションの賞を取っている。

極地に行ったり、アマゾンに行ったり、幻の生物を求めて彷徨ったり、ゴールデントライアングルに潜入して阿片生産に携わって自分も中毒になったりと、ふつうの人では考えもしないし、実行しないようなことをやる。
それも想像をはるかに下回る準備のもとで、というか、そもそも情報のない場所に行くので準備のしようがないし、事前に許可を取ろうとしてももらえないことがわかっているような場所に行くのである。
極地にいたってはコンパスも使えないし、地図はないし、そもそもあったとしても見渡す限り目印になるようなもののない世界なので役に立たない。文字通り前人未踏。そういうところにGPSを持たずに行って踏破する。しかも費用は自前、戻ってきて原稿を書いて裏なければ収入にならない。この人達の人生の半分以上は旅なのだろう。

『地図のない場所で眠りたい』(高野秀行、角幡唯介、2017年9月1日、講談社)


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