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GRFCによるAI監視 ロシアの検閲強化

ロシアでは以前からSORMシリーズという監視システムが稼働し、国民の通信などを監視していた。2022年11月にベラルーシのハクティビスト集団Cyberpartisansロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(ロスコムナゾルRoskomnadzor)とラジオ周波数総局(GRFC)をハッキングし、2テラバイト以上の内部データ(200万以上の内部文書、画像、メールなど)をロシアとドイツのメディアのコンソーシアムに公開した。
いずれどこかでまとまった記事やレポートが出るかと思っていたのだけど、情報量が多すぎるせいか、ロシアの内部に関心ある人が少ないせいか、ロシア語できる人が少ないせいか、なかなか出てこない。
このままだとどこも体系的なまとめをしないまま終わりそうなので自分用のメモを残しておくことにした。

●ロシアの非対称戦略

ロシアが以前から中国に似た閉鎖ネットを構築し、国家レベルでサイバー空間での非対称性を実現しようとしていたことは以前紹介した。これには中国が協力している。

ロシアのサイバー非対称戦略「The Russian National Segment of the Internet as a Source of Structural Cyber Asymmetry」https://note.com/ichi_twnovel/n/nc725e0c9d580

2022年3月ごろにはメディア各社がこのことを報じていたが、断片的な情報に留まっていた。あれは法律、行政組織、民間企業まで含んだ網羅的なものなので記事1本で説明するのはそもそも不可能。

●GRFCの3つの野心的システム

GRFCのシステムにはMIR(インターネット監視情報システム)、Vepr(情報脅威の発見、予測)、Oculus(AIによる画像、動画検閲)の3つがある。

・MIR(インターネット監視情報システム)はインターネットの情報をサーチし、AI技術を用いて下記を行う。

名前、場所、組織の名前、態度(否定、肯定、中立)を識別、ストーリー、トピック、見出しに従ってメッセージを配信、ブロックされたサイトのミラーやコンテンツの転載先を特定、オリジナルソースからのコンテンツの配布を追跡、コンテンツの分布とトラフィックを予測、世論操作や感情操作に関するものを特定、アクセスした者の社会人口統計学的特性(性別、年齢、教育、所得水準に応じた読者の分布)を予測など。広範な監視システムと言える。ただし、まだ完成していないようだ。

・Vepr(情報脅威の発見、予測)はモデルに従って脅威の特定と予測を行う。

守るべきもの(たとえばプーチンの威信)、脅威をもたらす可能性のある相手(ジャーナリストや外国エージェントなど)、具体的な脅威の内容に従って、脅威の度合いやどこで起きているかを予測、特定する。アニメのPSYCHO-PASSに登場する「シビュラシステム」の検知対象を犯罪ではなく、体制への脅威にしたようなものらしい。ただし、こちらも未完成らしい。

・Oculus(AIによる画像、動画検閲)は、AIによる画像および動画の網羅的な検閲システムだ。

当初は抗議活動の特定が中心だが、その対象は順次広げてゆくことになっており、さらに動画から行動分析まで可能にする。すでに稼働しているが、本格稼働にはいたっていないようだ。

さらにGRFCはFacebookやVKなどのクローズドなチャットルームやメッセージングサービスの情報を得るために人間のふりをするAIボットを監視対象クローズドなチャットルームに潜入させるようになった。AIボットファームのために大量の電話番号を入手しているという。

最終的に下図のように統合される予定だという。4枚くらい図があったんですが、DeepLでも翻訳できませんでした。

●現実は自動検索と手動調査

とはいえ、これらのシステムのほとんどいまだ本格稼働にいたっておらず、現実には自動的な監視が可能なのはVKontakte、Odnoklassniki、Moi Mir、Otvety.Mail.ru、LiveJournal、YouTubeで、それ以外のInstagram、Facebook、Twitter、Tiktok、Telegram、RutubeなどはGRFCの職員が手動で調査を行っている。

2022年11月現在、GRFCでは、抗議ムード、テロ、外国介入、過激主義などのチャットルームが運用されており、たとえば抗議ムードルームでは、ロシアで人気のSNSであるVKやOdnoklassniki、さらにYouTubeやTelegram上のチャンネルにおける抗議ムードの存在についてGRFCの職員が毎日詳しいレポートをアップロードしている。このチャットルームには、GRFCだけでなく、他の機関の従業員も参加している。このルーム参加者は60人で、内務省職員15人、検察職員9人、ロシアの米国シークレットサービスに相当する連邦保護局から1人がいた。
GRFCは、「Unified Automated Information System」と呼ばれるシステムを使い、依頼に応じて、問題となった記事をテイクダウンしていた。
流出したGRFCの文書によると、Roskomnadzorは2022年の第3四半期だけで89,000のウェブページをブロックした。違反のほとんどは、違法薬物に関する情報や、自殺、ギャンブル、児童ポルノに関するコンテンツの配信に関連していた。

GRFCはAIの夢を語ることで予算をぼったくっているだけではないのか? という疑惑も出ている。


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出典

Behind Russia's 'digital iron curtain', tech workarounds thrive
March 23, 2022

https://www.reuters.com/legal/litigation/behind-russias-digital-iron-curtain-tech-workarounds-thrive-2022-03-23/

Russia takes next step in domestic internet surveillance
Feb 17 2023

https://medium.com/dfrlab/russia-takes-next-step-in-domestic-internet-surveillance-aa3fdbf0120f

Inside The Obscure Russian Agency That Censors The Internet: An RFE/RL Investigation
February 08, 2023

https://www.rferl.org/a/russia-agency-internet-censorship/32262102.html

Inside the Censorship Machine
8 FEB 2023

https://istories.media/en/stories/2023/02/08/inside-the-censorship-machine/


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