『 “外国からのディスインフォメーションに備えを!  〜サイバー空間の情報操作の脅威〜”』(笹川平和財団、2022年2月)を読んだ

『 “外国からのディスインフォメーションに備えを!  〜サイバー空間の情報操作の脅威〜”』(笹川平和財団、2022年2月、https://www.spf.org/security/publications/20220207_cyber.html)を読んでみた。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、シンガポール、EU、台湾、香港、日本を対象にディスインフォメーション事例と対策を整理している。コンパクトにまとまっていて、わかりやすかった。
政策提言なので、結論は政策の提言となっている。主には下記。

1.ディスインフォメーション対策を行う情報収集センターの設置
・ネット世論操作の監視、調査、分析を行うセンターの設置を提言。
・対抗措置のために法律の改正も必要としている。具体的には、公職選挙法や日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の改正だ。

2.選挙インフラを重要インフラに指定
必要な対策を講じるために重要インフラに指定する。

3.情報操作型サイバー攻撃に対するACD(アクティブサイバーディフェンス)実施体制の整備
攻撃主体の特定以外の具体的内容は不明だが、必要とのこと。

4.政府とプラットフォーマーによる協同規制の取り組みと行動規範の策定の推進

5.メディアリテラシー教育環境の拡充


●気になった点
・これってなんのためにやるの?
なんというか、なにをしたいのかよくわからないんですよね。選挙妨害への対処とかはわかるんですけど、あるべき状態とそれに向けた戦略的取り組みが見えてこない。この報告書で取り上げられているレポートの多くには、あるべき状態とか、目指すべき目標とかがいろいろ書いてあるけど、これにはほとんどない。おそらくそういう一貫した体系的な取り組みがないのが日本の問題って気がする。

・ACDの内容が不明

具体的に記述されているのは、攻撃主体の特定だけだが、それだけのはずはないし、それならアクティブの意味にならないと思う。一般的にアクティブサイバーディフェンスの定義はいくつかあり、いまだに定まっていない。ネット世論操作対策のサイバーアクティブディフェンスとなればさらに曖昧になる。

・ビッグテック各社も取り上げるべきだった
ビッグテックの影響力は国際的かつ強力であり、さまざまな国際的な規範作り、ネットガバナンスにかかわっている。各国と並んで取り上げた方がより現実的な対策になったと思う。ディスインフォメーションとの戦いの一部は、ビッグテックとの戦いでもある。

・アメリカの対策に国務省グローバル・エンゲージメント・センターがなかったのはちょっと気になる。また、アメリカの民間シンクタンクの活動は活発(資金がアメリカ政府から出ている)なので、その紹介もほしかった。大西洋評議会のデジタルフォレンジックリサーチラボすら紹介されていなかった。

・NATOの関連機関に触れていないのは不思議。

・各国の対策の事例にファクトチェックの項があり、ファクトチェック団体の活動などが紹介されていた。それ自体はよいと思うが、世界のファクトチェック団体の主なスポンサーはプラットフォーム事業者のフェイスブックとグーグルである。いってみればディスインフォメーションの温床の双璧だ。しかし、この2社のファクトチェックへの影響については言及がなかった。また、ファクトチェック団体の国際団体とも言えるFirst Draftについても触れていない


関連書籍
『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』
『最新! 世界の常識検定』





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