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「日本人」を捨てた邦人ふたりのすしランチ

 長期在韓邦人。「日本人」が保たれている人、そうでない人の2パターンがいると思う。(このことは、在韓だけでなく他の国にいる邦人の皆さんにも共通していえることではないか?)私は、かれこれ20年近く邦人をやっているが、どちらかというと、後者だと思う。昔の知り合いによく変わったよねなどと言われたりするからだ。

注:特にここで私の言う「日本人」とは、自分を控えめにしながら他人や周りをたて配慮しようとする日本人の価値観にフォーカスしている。(昔はそうでしたけど、今の日本はどうですか?)

 いや、、私の場合、「変わった」というよりは、もともと「日本」では発散できなかった「本性」が、脱日本で自由になり、表に出てきただけなのだと思っている。それに加えて、もともと「価値観や考え方」を常にブラッシュアップ(この表現使ってみたかった(笑))しようとする気持ちがとても強い方だったので、この考え方いいなと思ったら、何のためらいもなくひょいひょいと乗り換える軽いタイプでもある。ゆえに、もう昔の原型を留めていないかもしれない。

 「日本人」をきちんと保っている友人がいる。いつも自分のことより周りのことに気配りし、連絡無精の無神経な私のこともいつも気にかけてくれる本当に私にはもったいないほどの友人だ。典型的日本人な彼女なので、自分の主張を強くすることをしないし、ぐっと我慢する。主張をきちんとする韓国人の中での生活はきっと辛いものだろうと思うし、そんな彼女のことが逆に心配になってくる。きっとこういう人は、私と違って、もともとの心根が「日本人」なんだろうなと思う。

 逆に私のように「日本人」を捨てている友人も(違ったらごめんなさい^^)いる。彼女は、若い頃に欧米留学を経験されているからか、接しているとなんだかアメリカドラマに出てくるキャラクターを思わせるような人だ。彼女と私は、共に「日本人」していないという点や考え方がとても似ているので、いわゆる「気の合う」一緒にいると楽しい友である。

 彼女とは、コロナと私の日本行が重なり、もうかれこれ1年ほど会えなかった。韓国に戻ってきて、お互いワクチン接種したから会えるねという話になり、ランチをすることにした。

 邦人の知り合いと「ごはん」しようという話になると、だいたい日本食レストランになる。この日は、彼女おすすめのお寿司屋。日本で寿司職人修行されたご主人さんがいるという。楽しみだ。

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 韓国では、懐石膳の形をとる日本料理屋やお寿司屋は、格の高いイメージが強いため、接待や「おもてなし」感を出したいという時に選ばれることが多い。(日本ラーメンやとんかつは、その域に入らない)

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 このお寿司屋はカウンター席のみで、韓国ではめずらしい。だからか、なおさら日本感を味わうことができて良かった。ワクチンパスポートをお店の人に見せて、無事、席につくことができた。

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 ランチコースを注文するやいなや、おばちゃん二人のガヤガヤが始まる。家族のこと、日本の親のこと。これまで堰き止めていたいろんな心のモヤモヤが出てくる。この歳になると、実の親との関係も微妙なものになってくる。日本にいた間、知らず知らずのうちに抱え込んでいた感情が、吹き出してしまった。

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日本食屋でありながら、この箸と匙のたたずまい^^やはりここは韓国だ。

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 お通しが出てくる。西京味噌を使った田楽風焼き茄子だ。ちゃんとした甘みがあって、「日本だぁ~」感が出てきた。韓国人は、甘みをはっきり感じさせる料理を好まないところがあり、この味が受け入れられるかどうかわからない。しかし、日本人である私たちは、口をもぐもぐさせながら無言でうなづき合い「美味しいね」を共感していた。

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 在韓日本料理屋の味噌汁だが、これだけは、これまで一度も満足したことがない。ちょっと残念な点だが、鰹節が韓国にはないので、インスタントを使っているのだろう。仕方がない。(奥の白いものは、ゴマ豆腐)

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 刺身コースを頼んだ友人のお皿。韓国にも、刺身料理はあるが、日本のものと似て非なるものである。今度このことについてもお話できればと思う。ここのは日本式。一緒に添えられている葉はシソではなく、エゴマの葉だ。シソは香りが強く、香味野菜を苦手とする韓国人は食さない。

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 私が頼んだ寿司コースのお寿司たちだ。友人がここをおススメした理由が分かった。シャリ飯が、他の在韓寿司屋のものとは違う。美味しくいただけた。

 話は尽きない。邦人会話あるあるだろうか。「県民ショー」の始まりだ。私は長崎出身、彼女は栃木日光出身。海彦と山彦の食事情、西日本と東日本の違いなど。話せば尽きないネタで溢れている。この日は、幼い時に食べていたスナック菓子の話題で盛り上がった。(これも結構地域差がある)

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 魚の煮つけも、日本料理屋でよく出される品だ。典型的な日本の味。韓国では、ここにコチュカルを入れなければ、「物足りない」味になりがち。家庭で作りたくても作れない、韓国人と結婚した私たちにとっては、懐かしい味だ。

 さて「日本人」を半分捨てたような私たちだが、会話中、ふと悲愴な雰囲気に包まれることがある。彼女と会うと、かならず一度は出てくる話題だ。

「日本戻りたいよね」     

 この言葉が、これまで何度出てきただろう。好きで海外に出て、海外生活に適応してるんだぜ~のつもりのはずが、、なぜか無性に日本に戻りたくなる時がある。自分を変えたとか環境に適応したとか、いっちょまえに言ってるが、実は無理しているんだし、それに疲れているんだ、きっと。

 戻ればいいじゃない?しかし、20年余り韓国で培った人間関係や生活基盤から離れるには、微妙なお年頃になってしまっている。ひとりっこである私は、日本の老親のために、先々日本へ戻る考えはある。しかし、そうでない友人にはあまりにハードルが高い。

ふるさとは遠きにありて思うもの

 日本にいる時には、海外に行きたいやら同じとこに定着したくないと、ごねるくせに、なんだかんだいって、「日本」は母国であって心地の良いところ。疲れたら母の元に戻りたくなってしまうのだ。ホントに矛盾していて勝手だと思う。

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 在韓の日本料理屋で、99%の確率で出てくる最後のシメの二品。うどんと天ぷらだ。正直、日本のものとは比べ物にならない。しかし、それでも遠くにてふるさとを思う私たちには、「美味しくて懐かしい故郷の味」だ。

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 どっぷりと「日本」につかっていた楽しい時間。日本の雰囲気で日本人と日本語で日本の話を思う存分した。最後のデザートである柚子シャーベット。口の中に広がる甘酸っぱく冷たい感触。頭がシャキッとする。ふと我に返り、韓国の日常へと切り替える。

 私は、基本、海外では日本料理は頂かない。いくら美味しいとこだと言われても、満足できないからだ。しかし、興味深いことに日本人と食べるとなぜか満足できるのだ。なぜだろうか。以前、私の上司が話してくれたことを思い出す。「味って、一緒に食べる人で決まってくるもんなんだよ」このことに起因しているんだろうか。



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