ピエタ  大島真寿美

18世紀のヴェネツィアにあるピエタ慈善院に、ウィーンに向かったヴィヴァルディ先生が亡くなったという知らせが入る。
かつてヴィヴァルディ先生にバイオリンを習っていたエミーリアは知らせにショックを受けるが、その頃のピエタ慈善院は音楽会の収入も減少しつつあり、正念場をむかえていた。
そんな時、かつてピエタ慈善院でヴァイオリンを習っていた貴族のヴェロニカからヴィヴァルディ先生が自分のために書いてくれた楽譜を手に入れてくれたら多額の寄付をすると約束を取り付けた。
ヴィヴァルディ先生の楽譜を求めてあちこちに問い合わせるが、ヴィヴァルディ先生がウィーンへ出発する前に身の回りをすべて整理してしまい、楽譜もすべて売り払ってしまったようだった。
それでも、楽譜を求めてエミーリアは、オペラ歌手のジロー嬢とその姉のパオリーナ、コルティジャーナのクラウディア、ゴンドリエーレのロドヴィーゴ、ヴィヴァルディの妹のザネータとマルゲリータ、ピエタから薬局へ嫁いだジーナいろいろな人から様々なヴィヴァルディ先生の話を聞く。

話を読み進めていくと、ヴィヴァルディ先生を取り巻いた人々からその時々のヴィヴァルディ先生の様子を聞くことでエミーリアは自分の知らないヴィヴァルディ先生の一面を知る。物語の冒頭で本人は亡くなっているのだが、人々の話からヴィヴァルディという人物が生き生きと描かれており、何を感じて音楽を作り、どうしてウィーンへ向かったのか…知らなかった事情が浮かび上がってくる。それと同時に、ヴィヴァルディという人物がかかわった人々の抱える不安や不満、幸せなひと時、人生に欠けている物が浮かんでくる。そして、そんな人々が抱えている穴をお互いに埋めていくことでヴィヴァルディという人物が生きていた証のようなものが浮かび上がっているような話だった…。


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