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少しいびつな恋愛オムニバス

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恋愛は真っ直ぐで綺麗なばかりじゃない。歪んだ情熱を持て余す人達のための、少しだけ怖い恋愛オムニバス短編集です。
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記事一覧

短編小説_変質する夜を抱いていました #月刊撚り糸

「あんたには異父兄弟がいるよ」  こっくりと濃い宵闇に立ち尽くした私に、女は顎をさすりな…

七屋 糸
2年前
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短編小説_秋に馳せる。#月刊撚り糸

 その寿司屋の制服はうさぎの目のような色をしていた。  女の子の胸元には「研修中」の札が…

七屋 糸
2年前
21

キキタリナイ。#2000字のドラマ

好きなやつが恋人と別れたらしい。 _ 「やっべぇぇぇ、死ぬ死ぬ死ぬ!」 「おい! 一旦逃げ…

七屋 糸
2年前
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異星人とペティナイフ #月刊撚り糸

まさか押し倒す側になるとは思わなかったが、見下ろした佐竹の白いおでこが意外にも優越感を刺…

七屋 糸
2年前
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短編小説_卒業写真(文芸誌/世瞬 Vol.1寄稿作品)

この作品は出版社・世瞬舎様の文芸誌『世瞬 Vol.1』に寄稿させて頂いた作品です。文芸誌には他…

七屋 糸
2年前
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それは角の取れた熱情【第三話】

【第二話】はこちらから。 *** ふと、なぜこの男はそんなにもあたしに入れあげるのだろう…

七屋 糸
3年前
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あの木陰にはユウレイが住んでる #月刊撚り糸

あの大きな木の名前、なんて言ったっけ。 ずり落ちる花束を左腕だけで抱え直すと、鼻先に百合が香った。新緑を押しのけた強い芳香は、瑞々しい花びらに反してひどく甘ったるかった。 掻き消えた白線が伸びる一本道は地平線とつながっている。家を囲むのブロック塀にはむした苔の緑や枯れた蔦が目立ち、その足元で剥き出しの側溝から荒々しい水の音がする。まるで人の暮らしが自然の中に取り込まれたみたいだと思う。 その青々しい景色の真ん中に、一際大きな樫の木が見える。2階建ての家にかぶさるような高

『砂城に夕立ち』 #月刊撚り糸

あなたの声がして、ドアノブにかけた指が躊躇う。まるで初めて訪れる場所のように身体が強張り…

七屋 糸
3年前
26

今年の冬は彼女のために #月刊撚り糸

国道沿いから一本外れたトウカエデの並木道は暖かなまどろみに包まれていた。若葉の木漏れ日が…

七屋 糸
3年前
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2020年の恋はいつも切なかった。【恋愛小説まとめ】

2020年、どんな恋をしましたか? *** 2020年は大変な年でしたね、というのもそろそろ言い…

七屋 糸
3年前
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妖精の降る夜は。 #2020クリスマスアドベントカレンダーをつくろう

平介は二択問題が苦手だ。 「隣町でやってるLEDライト200万個のピカピカのイルミネーションと…

七屋 糸
3年前
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kiss & Crush

愛されたがりの結末なんてとっくの昔に知っていたけど、それを認めるのはいつも怖い。今度こそ…

七屋 糸
3年前
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それは角の取れた熱情【第二話】

【第一話】はこちらから。 *** 彼は格子柄の模様のついた爪切りを器用に片手で持ち替え、…

七屋 糸
3年前
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それは角の取れた熱情【第一話】

爪を切って頂戴、と言うと男はいそいそと鏡台の中から爪切りを取り出してきた。 ついでに薄暗かった照明を一段と明るく灯し、プラスチック製の小さなくず籠も一緒に持ってくる。まるであたしが言うわがままを知っていたみたいに整然と準備をして、最後に冷たい床に胡座をかいて座った。 籐の椅子に腰掛けたあたしよりも低くなった彼の頭には白髪が混じっていて、おそらく二回り程は歳上だろうと思う。それがかしずくように跪いてあたしの冷えた足を温めているのは、何度見ても不思議な心地がした。 この男の