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脳内100分の1のエッセイ

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ひと足お先に焼き芋。

ひと足お先に焼き芋。

祖母の家でお土産をもらうたび、今度こそ彼女に「あの焼き芋」を買ってこようと決意するのだが、その決意が達成されたことはまだない。

祖母の好物は夏なら真っ赤なスイカで、近所のスーパーに初物が並べば誰より早く購入するし、産地には人一倍敏感だ。ちなみに今年は鳥取県産がお気に入りらしい。

そして冬の好物が焼き芋だ。スーパーの隅っこでいい匂いをさせる安価なものから、ネット通販で購入するお上品なパッケージに

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長期休暇、雨の日、それからライナーノーツ。

家から一番近くのイオンで買った温めるだけのおかずセットが美味しかったから、今日はそれだけでいい日だ。

とは、思えなかった。

朝、カーテンを開けるとしとしと降りの雨で、あぁ、と思ってすかさず二度寝した。次に起きたときには雨はやんでいたけど、PCの前に座っていたらまた降ってくる。

気が重い長期休暇の幕開けが、さらにずしんと重くなる。

最近はずっと漫画『かぐや様は告らせたい』を読んでいた。1巻か

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体温は測るものではなく、

ひとは37度前後の他人の体温がないと眠れないようにできている、と先日読んだ本に書いてあった。

なるほど、と思って、だから最近のわたしは恋人の体温がないと寝付きが悪いのか、と納得した。

話の真偽はともかく、わたしはひとりだと寝付きが悪いことが増えた。

今時期はまだ肌寒いこともあるが、わたしは体温が高い方だから、おそらくそれはあまり関係がない。

他人の重みでたわんだベットは、なぜかよく眠れる。

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あの味に会いにいく【増補改訂版レシピ付き】

あの味に会いにいく【増補改訂版レシピ付き】

かっこよさげなタイトルをつけたが、杏仁豆腐の話である。

そうです。中華料理店やラーメン屋さんによくある、独特な風味を持つ定番デザート”杏仁豆腐”。

苦手って人も多いけど、わたしは好き。クラッシュしてボトルに詰めて常飲したいくらい大好き。愛してやまない。

だから数年前のあの日も、杏仁豆腐好きとしての義務感に駆られて注文したに過ぎなかった。旅先でふらりと立ち寄ったラーメン店のメニューの端っこに書

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「教えて」が言えないわたしは人が好きだったかもしれない。

「教えて」が言えないわたしは人が好きだったかもしれない。

わたしは、ひとに「教えて」と言わない。

ときにはそれを「他人に興味ないんだね」と言われることもある。

するとわたしの心の中は、あなたがわたしの何を知ってるの?とメンチ切る反面、そうかもなぁと納得してしまったりもする。

わたし、他人に興味がなかったのか。たしかに自分のことばっかり考えているかも。仕方のないやつ。

と、最近まで思っていた。

しかしピカピカのランドセルを背負った小学生や、真新し

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どうして「気にしたらだめ」なんだっけ。

どうして「気にしたらだめ」なんだっけ。

今夜はひとり反省会、からの情緒が氷点下まで急降下しそうなので、noteにまとめてみることにする。

***

気にしいな性格だ。

いつからそうだったかはわからない。でも強く自覚はじめたのは大人になってからだと思う。

「大人になる、とは、失敗ができなくなることだ」

実際はそんなことあるはずないのだけど、わたしは無意識下でいつもそう思っている。失敗してはいけない、人に迷惑をかけてはいけない、頼っ

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幸福な書き手。

言葉を連ねるとき、わたしにはたびたび思い出す言葉がある。

大学生の頃だ。

文芸サークルに所属していたわたしは、夏休みも中盤を過ぎた8月末の昼下がり、部室の扉を開けた。中には数名の先輩部員がいて、効かないエアコンの下にひしめき合っている。

「全員揃ったな。じゃあそろそろはじめるかー」

サークル長のゆるい掛け声で、それぞれが紙の束をぱらぱらと開き始める。その日は部員の手で発行した文芸誌の講評会

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「普通」と手を繋ぐより、本当はあなたと手を繋ぎたかった。

「普通」と手を繋ぐより、本当はあなたと手を繋ぎたかった。

その人は「ドライヤーの音が苦手なんだ」と言った。

髪を乾かす時に風のうなる声が直接耳に響くのが怖いのだと。

それを聞いてわたしは思ってしまった。そんなことで?と。

口には出さなかったけど、一度思ってしまった言葉はぐさりとわたしを突き刺した。

「そんなことで?」なんて、自分が一番聞きたくない言葉なのに。

***

話は変わるけれど、今のファッション界はどうやら首元が狭ければ狭いほど良いらし

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私の見えるところで幸せになってというエゴ

さて、何から書いたら良いんだろう。

ここのところ文章を書くことが極端に減っていたせいか、思考の波がうねうねしたまま一個にまとまらず、そしてまとまらないまま空白を埋めようとしている。ついこの間「意思を持って書く」とか言ったばかりなのにね。

ほんの少し、忙しい日々が続いた。

心配性に輪をかけた心配性だから、そもそも忙しい日々は「日々」そのものが心配のタネになってしまう。家の鍵かけたっけに始まり、

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「良い人」にあだ名をつけて

「良い人」にあだ名をつけて

「良い人」は、いつから誉め言葉じゃなくなったんだろう。

知人から贈られた嬉しい一言を思い出すたび、その疑問がちかちかと点滅していた。

世にある誉め言葉の中で「良い人」は、比較的誰もがよく口にするものだと思う。

わたしだって誰かから優しくされてじーんときたら「良い人だなぁ」としみじみつぶやくし、ありがたいことに頂戴することもある。

様々な場面で使えて、気軽に誰にか贈れる、素敵な言葉だ。

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きみとぼくとおっさんで中3だったはなし

きみとぼくとおっさんで中3だったはなし

呑み書きだね。

呑むと笑い上戸になるんだけど、今日はみゃうにエモめのはなしがしたいから、当社比エモめのはなしをするよ。

するったらするよ。

✳︎✳︎✳︎

あのね、この間真夜中に近所を散歩してたの。近くのセブンまで。

なんかどうしてもおつまみに穂先メンマが欲しくてさ。メンマおいしいよね、すきすぎて一回作ったら撃沈したわ。

二車線の道路沿いをてくてくしてたらさ、コンビニの明かりが見えてきた

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「選ばれない」という鈍痛を癒して

「選ばれない」という鈍痛を癒して

大学三年生の冬、わたしはSNSが大嫌いだった。

もともと友人が少なく、気軽に「Twitterやってる〜?」なんて聞けないわたしは、当然のごとくフォロワーは少なかった。

自撮りをするのも苦手で、誰かのつぶやきにリプを飛ばすのも苦手。あまり活用していないから、誰かから反応が来ることも少ない。そもそも向いていなかったのだ。だけどSNSをやっていないと、話題についていくことができなかった。

キラキラ

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青春とわたしの舞台裏

青春とわたしの舞台裏

「これは盛ってるわー」

そう思うことが、人生には幾度となくある。

テレビも、YouTubeも、隣の席のあの人の話も、きっと現実よりはいくらか色を付けてわたしのもとにやってくるのだろうなぁと。

かくいうわたしが書くエッセイなんかも、もう9割がた盛ってるのでは?と我ながら思うことがある。いつの間にか脚色が真実だと思っている、なんてことも。

だけどそれは別に悪いことではなくて、常に感受性を全開に

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空の青さはわたしが決める

空の青さはわたしが決める

灼熱に汗を拭いながらキャラメルフラペチーノを飲む。それがわたしの青春だった。

片田舎で唯一スタバが入った駅前のビルの軒下で、わたしはたびたび友人と過ごしていた。涼しい店内で噂のドリンクを受け取って外へ出ると、安心感と共に居心地の悪さがこみ上げてくる。目の前を通る同じ学校の制服の、いかにも「一軍」らしい人の視線を気にしながら、わたしはなんとか喉を潤した。

暑さに液体化した生クリームは甘いのか苦い

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