TV版『魔法少女まどか☆マギカ』事典

【蒼樹うめ】

 マンガ家。代表作に『ひだまりスケッチ』。蒼樹の『ひだまりスケッチ』は新房昭之監督、シャフト制作で三期にわたりTVアニメ化されている。
『魔法少女まどか☆マギカ』で蒼樹にキャラクターデザインの白羽の矢が立った理由は、蒼樹の同人誌にある。『ひだまり』では見られないような憂いの表情を見たアニメプロデューサーの岩上敦宏と新房昭之監督が「これはどこかで活かしたい」と考えていたため、アニメ『ひだまり』第二期特別編のアフレコ現場で岩上から呼ばれて相談を受けた。『ひだまり』に比べてキャラクターの等身が高いのは、四コマとちがってドラマ性の強い作品であることを勘案した、蒼樹自身の判断によるもの。〇八年一〇月にキャラデザの初稿をあげたもののほとんどダメ出しがなく、逆に不安になり、第二稿の段階では迷いがある状態だったという。
 衣装デザインに関してはまずそれぞれの武器のデザインをして、武器のもつイメージや世界観に衣装を合わせていった(武器のデザインはアクションディレクターの阿部望も担当している)。虚淵玄いわく、蒼樹と自分との共通点は『モンスターハンター』が好きなことで、そこからヒントを得た部分もあったそうだ。

【アニメーション神戸賞】
 世界的に評価が高い国内の商用アニメーションについて、優れた作品やクリエーター、また長年にわたってアニメーション業界に貢献した者を表彰する「アニメーション神戸賞」の第16回作品賞・テレビ部門を『まどマギ』が受賞した。

【板野一郎】
 アニメーション監督、アニメーター。監督をつとめたアニメ『ブラスレイター』では虚淵玄と共同でシリーズ構成を手がけた。虚淵が板野から受けた影響は『まどマギ』にも反映されている。ひとつは、脚本の技術的な側面として、どういう絵になるのか想像がつかない脚本を書いてはいけないと仕込まれたことである。もうひとつは、作劇/テーマ的な側面である。「アニメディア」一一年四月号のインタビューで「キュゥべえに報いを! という結末にはなりませんでしたね(笑)」というインタビュアーの発言に対し「それをやっちゃうと板野一郎監督と一緒に作った『ブラスレイター』が無駄になってしまう。誰かを殴れば片がつくっていう解決法にはしたくないと、常に思っています」と発言しているほか、「誰かを滅ぼして終わりという結末の作り方は、結局その憎しみやスレ違いの元がどこにあるのかっていうのを、永遠に問い続けながら進んでいくしかないんです。それを差し置いて、とりあえず目先の脅威だからと決着をつける終わり片は、物語としてスッキリはするけど、スッキリするだけの物語を作っちゃいかんだろうと。『ブラスレイター』に関わった人間として、そこを反故にするわけにはいかないなと思っていました」(「メガミマガジン」一一年七月号別冊付録「魔法少女まどか☆マギカCOMPLETE BOOK」)とも語っている。

【岩上敦宏】
 アニプレックス所属のアニメプロデューサー。『まどか☆マギカ』以外に、『空の境界』『化物語』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などを手がける。新房監督から魔法少女ものはおもしろい。機会があればぜひもう一度やってみたいという話を聞いた(新房はTVアニメ『魔法少女リリカルなのは』第一期を監督している)ことがのちの『まどマギ』に至る企画の最初のきっかけである。〇八年秋に企画が始動した『まどマギ』がオリジナル企画としては初になる。オリジナルをやるならアニメが得意とするジャンルであるロボットものか魔法少女ものだろうと考え、ロボットものに比べてパターンが掘りさげられていない魔法少女ものを選んだ。脚本の虚淵は岩上のことを「鉄壁の安心感がある方です。世の中にはいろいろなプロデューサーさんがいて、「モンスターハンター」でいうならエリアの端で笛吹いているようなプロデューサーもいるんですが(笑)、岩上さんがいっしょに大剣を持ってモンスターと最前線で戦ってくれるタイプのプロデューサーですね」と形容している。

【裏路地での戦闘】
 第5話でさやかと杏子が裏路地で戦うが、脚本の虚淵によれば「自分の悪い癖ですね。菊地秀行っ子なので、ついつい話が裏路地に行ってしまう」とのこと(『魔法少女まどか☆マギカ公式ガイドブック』)。シャフト作品では『月詠』以来の珍しいものである。『まどマギ』には虚淵が影響を受けた八〇年代の伝奇バイオレンスのエッセンスも生きていると言える。

【虚淵玄】
 ニトロプラス所属のシナリオライター、脚本家、小説家。代表作は『Phantom』『鬼哭街』『沙耶の唄』『Fate/Zero』など。幼少期にもっとも影響を受けた作品はTVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』であり、思春期につらい目にあったときには主人公のキリコ・キュービーにくらべればマシだと思って乗りこえてきたため、作品に「毒」を盛ることで世の中の「毒」に適応させられる(予防接種として機能する)という考えがあり、『まどマギ』にもそれが反映されている。
『マギカ』のプロモーション戦略において虚淵の名前は直前まで隠しておこうというプランもあったが、手違いで情報が先に出てしまったという経緯がある。『まどか☆マギカ』は虚淵がはじめてひとりでシリーズ構成をし、全話脚本を仕上げたTVアニメである。本人としては「魔法少女もの」であるということよりも、シリーズ構成、全話脚本をひとりで受けたことのほうが重圧であり興奮でもあったという。放映前には「板野一郎監督にアニメクリエイターとしての心構えを教わり、黒田洋介さんから脚本家としてのテクニックを盗ませていただいた私にとって、「魔法少女まどか☆マギカ」はついに挑む実技試験。ここ数年の成果が問われる正念場と思っています」とコメントしていた(「ニュータイプ」一一年一月号)。
 プロデューサーの岩上とは劇場用アニメ『空の境界』第一章のパンフレットで虚淵がインタビューを受けたときに知り合った。
 岩上や監督の新房昭之は虚淵に、魔法少女ものだが敵と戦うときに能力戦になるようなもの、誰が勝つのかわからないバトルロワイヤルを求めていた。しかし虚淵は「魔法少女の戦闘モノは新房監督が手がけた『魔法少女リリカルなのは』ですでにやりつくしているじゃないか」と頭を抱えた。そこで、やはり新房監督の『コゼットの肖像』を観て、その不穏でミステリアスな雰囲気を参考にしたという。
 また、自分の芸風を出しながら蒼樹うめのキャラをどう動かすのかに腐心し、『ひだまりスケッチ』を繰りかえし読み返すなかで、戦う魔法少女と『ひだまり』の最大公約数は女の子同士の友情であり、『なのは』も女の子の友情ものだと気づき、そこを柱にしようと考えた。まどかは、虚淵が考えた「うめ先生キャラの主人公」を自分なりのイメージで作っていったキャラクターである。蒼樹のやさしくやわらかいキャラクターデザインでなければもっとひどい話だったかもしれない、とも言っている。「正直、主人公のまどかが、自分の芸風の中では相当イレギュラーなキャラなんですよ。ぶっちゃけていうと、ゆのっち(「ひだまりスケッチ」)を主人公にするくらいのつもりで脚本を書きました。声優は阿澄(佳奈)さんが演じるかもしれないくらいの覚悟で(笑)」(「ニュータイプ」一一年七月号)。
 ストーリーについては「自分の中には「ストーリーってこういうもんだよね」とう感覚しかなくて、わりと横道な話だと思っているんですけどね」(「メガミマガジン」一一年四月号)、「さほど陰惨な話を書いたつもりはない」(『オトナアニメ』vol.21)、「たぶんこの作品の中に出てくる悲しみや絶望っていうのは、普通に世の中に転がっているもののはずです」(「アニメディア」一一年四月号)と語っている。
『ブラスレイター』のときは映像にするにあたって脚本の修正のオーダーが入ったが、『まどマギ』ではほとんどなかった。「そもそも脚本を書く時は、それが本当に絵として描けるがどうかを考えて書け、というのをたたき込まれていたはずなのに、今回は「どんな絵になるんだろう?」と未知数のまま脚本を渡してしまった時があった。それになのに、それをことごとく想像の斜め上で叶えてくれたので、ビックリしたし、楽しくもありました」(「アニメージュ」一一年五月号)。虚淵が関わっていないところでせりふが変わったこともなかったという。
 声優の悠木碧は虚淵について「すごく優しい方なのに、キュウべえみたいな冷たい即物的な考え方もできるのがすごいですよね。きっと私のことなんて、なにもかも見透かされていると思います」(『オトナアニメ』vol.21)と語っている。

【SF】
 SF作家の山本弘は「魔法少女もののフォーマットに論理を持ちこみ、まったく新しい物語に構築し直したという点で、僕は『まどか☆マギカ」は最高のSFだと断言するのである」(『オトナアニメ』vol.21)と絶賛。ただし虚淵玄は「やれエントロピーだ宇宙だってSFくさいことを言ってますけれども。自分としてはSFではないと思ってるんですよ。/SFかSFじゃないかの分かれ道は、奇跡が起こるかどうかというところです。この話では、明らかにエンディングで奇跡が起こってますからね。なんでほむらがまどかのリボンを持っているのか、その理由はまったく説明がつかないわけで」(「アニメディア」一一年四月号)、「「魔法少女もの」なら「奇跡」を起こしてもいいなと思いましたね。自分は、これまで「奇跡」という万能の飛び道具を使った物語を書くことができなかったんです。たとえば、SFというジャンルの物語は理論や理屈がなければ成立しないですから。でも、魔法少女は夢と希望をかなえる存在なので、世界の理屈をネジ曲げてしまってもかまわない。そう思いながら脚本を書いていました」(「ニュータイプ」一一年五月号)と語り、虚淵としては『まどマギ』をSFだとは思っていないようだ。

【円環の理】
 巴マミが最終話でつぶやくことば。虚淵玄によれば「あの書き換えられた世界で、魔法少女たちのあいだに口伝されている伝承という設定」(『オトナアニメ』vol.21)「希望を抱いて魔法少女となる運命を選んだ女の子に、例外なく訪れる終末」(『魔法少女まどか☆マギカ公式ガイドブック)。マミが思いついた言葉ではなく、あの世界ではさやかも杏子も知っているはずとのこと。

【オーディション】
『まどマギ』のオーディションでは、あらかじめ選んだ特定の役だけではなく、その場でどの役を受けてもらってもかまわないと言われていた。そのため、たとえば現場で喜多村英梨は美樹さやかを、斎藤千和は暁美ほむらをそれぞれ演じてみてくださいと言われ、配役が決まった。

【オープニング・エンディングアニメーション】
 オープニングの絵コンテ・演出を手がけたのは根村智幸。新房監督から魔法少女の王道、変身シーンの挿入、キャッチーなものにしてほしい、「すごいオープニングではなくてもいい。このオープニング映像を見た人が欲しくなるような映像にして」というオーダーがあった。鹿目まどかの抱いている黒猫がファンの考察を呼んだが、根村によれば本編のパラレルワールドとはまた異なるまどかのストーリーを考案してのものとのこと(BlurayDisc・DVD第一巻と第三巻特典のドラマCDでは黒猫のエピソードが展開されている)。なお、第10話オープニング映像のラストカットではほむらと佐倉杏子が加わっているが、これはシャフトのプロデューサー久保田光俊の発案によるもの。
 エンディングを手がけたのは鈴木博文。絵コンテから撮影までをひとりで制作。新房監督からは魔女のデザインなどを担当した劇団イヌカレーのイメージとは違った感じの、まどかたちの行く末を暗示させるものがいいのではないかと言われたという。

【お祓い/ヒット祈願】
「魔物が絡むものだから」という理由で『まどマギ』のスタッフは神社でお祓いをした。新房監督にとってはお祓いというよりヒット祈願だったそうだが、その神社は新房が『化物語』放送前に祈願に行ったのと同じ場所だった。

【おもちゃを売る必要がない】
 脚本の虚淵は『まどマギ』で「魔法少女にならない主人公」が実現できたのは、今回はステッキをはじめとするおもちゃを売る必要がなかったからだと思う、と語っている。「スポンサーありきの企画だったら、まず第1話で変身させないとぶん殴られるところですよ(笑)」(「メガミマガジン」一一年四月号)。

【オリジナルのメリット】
 プロデューサーの岩上にとっては初の、シャフトにとっては久々のオリジナルアニメーションとなった『まどマギ』だが、岩上は「シャフト作品の魅力として「予期しない映像が上がってくる」というのがあると思うんですけど……(笑)。たとえば原作ものだと、やりすぎちゃいけない要素が出てくることもありますけど、オリジナルだと新房監督とシャフトがホントにやりたい映像を追求できるというメリットがあります」と、新房監督は「最近は原作モノが多かったので、オリジナルだとみんなが考察してくれるような作品になるんだろうなと思ってはいましたけど、観ている人たちがその想像を越えたレベルで考察してくれました」と分析している。

【驚かせようという気持ちはなかった】
「ニュータイプ」連載の「新房昭之のお恐縮ですが……」一一年八月号分は、脚本家の吉野弘幸と新房監督の対談が掲載されているが、そのなかで吉野に「視聴者を油断させて、あとで驚かせようと思ったら、第1話のテイストをあえて「ひだまりスケッチ」まんまにする手もありましたよね。でもそうせずに、ストレートに不穏な絵づくりをしていて、新房監督は正直に作品をつくるんだなと思っていたんです」と言われ、新房は「視聴者を驚かせようという気持ちはまったくなかったんですよ。驚かせるとしたら、虚淵さんの名前を伏せて発表するというプランがあったくらいで。でも、そのプランも行わず、虚淵さんの名前を出したことで、視聴者も「まどか」の展開に対して心の準備ができた。むしろ、それがよかったんじゃないかなと思っています」「そのあたりのさじ加減を僕は後からわかりました。要するにプロデューサーの岩上(敦宏)さんの判断力がすごかったんですよ」と語っている。

【梶浦由記】
 作曲家、作詞家、音楽プロデューサー。『まどマギ』サウンドトラックを担当(脚本の虚淵からの提案で岩上が新房に持ちかけたようだ)。また、彼女がプロデュースするKalafinaがED曲「Magia」を歌っている。新房監督作品ではほかにアニメ『コゼットの肖像』で劇伴を担当している。『まどマギ』のサウンドトラックは、ベルをイメージしたエスニックな音色が特徴的である。オファーを受けた段階では「魔法少女もの」ということとキャラクターの設定資料のイラストだけしか情報がなく、自分でいいのかと思っていたが、そののち虚淵の脚本を読み、自分でよかったかもしれないと納得して仕事に臨んだ。完成原稿を最終話分まで読み、「何話のどのシーンでかける曲」という具体的な注文をもらったうえで作曲したという。音響監督の鶴岡陽太とは日常や現実世界を「こちらの世界」、魔女の世界を「あちらの世界」と呼んで曲のイメージの区別をしていた(BD・DVD偶数巻特典のサントラでは曲名がラテン語になっているが、タイトルはアニプレックスがつけたものである)。脚本の情報量が多く展開が急なため、メロディを抑えた短めの曲を中心に制作した。虚淵玄のシナリオにはいち読者としても惹きつけられ、当初「バラードがいい」というオーダーがあったが、虚淵の脚本を読んでできたのがED曲「Magia」である(同曲はバラードではない)。「Magia」は第1話、第2話では挿入曲として使われ、第3話からEDで流れる(なおBD・DVD版の1、2話では悠木碧が謳う「また あした」が流れる)。音楽の打ち合わせはおもに音響監督の鶴岡陽太と行い、新房監督とは深く話をする機会はそれほどなかった。

【加藤英美里】
 81プロデュース所属の声優。『まどマギ』ではキュゥべえを演じた。シャフト作品では『電波女と青春男』御船流子、『化物語』八九時真宵も演じている。
 第1話のアフレコ時点ではキュゥべえの正体は加藤に明かされていなかった(キュゥべえの演技が、あやしくならないようにしたかったという演出上の理由から)。加藤は序盤のアフレコではキュゥべえに感情がないことを知らなかったため、「助けて!」というせりふなどには感情が出ている。その後、正体を知らされたあとは、キュウべえのしていることは宇宙を救うためだから、と思うと、魔法少女たちがかわいいそう、とは思わなかったという。「もともと魔法少女もののマスコットキャラクターはやりたいと思っていて、しかもキュゥべえこんなにかわいいのに黒幕的ポジションで、悪役もやりたいと思っていた私にとっては一石二鳥な感じです(笑)」(「ニュータイプ」一一年四月号)。キュゥべえが別のキュゥべえやグリーフシードを食べたあとに発する「キュップい」という音は、加藤自身としては「げっぷ」と言ったつもりだった。

【鹿目まどかのキャラクターデザイン】
 蒼樹うめは「ビジュアル的には、戦闘時のスカートのモフモフ感が魅力と思います! ちょっと下からのアングルでモッフリと詰まっているのが見えるのもいいですね。パンチラは許さない! みたいな(笑)」「悩んだのは制服時の髪のリボンの太さと長さ、魔法少女衣装の2つ」とのこと(「アニメージュ」一一年七月号)。まどか以外の魔法少女は武器のイメージから描いたが、まどかだけは「まどか自身が思い描いたコスチューム」という設定があったため、五人並ぶとまどかだけ浮いてしまうのではないかと心配していた。また、短めのツインテール姿については「チアリーダーなどが使うポンポンっぽい気がするので"ツインポンポン"でしょうか」とも。

【上条恭介の音楽】
 第3話でさやかと恭介が聴いた曲はラフマニノフ作曲の「ヴォカリーズ」。第5話で恭介が屋上で演奏する曲はグノー作曲の「アヴェ・マリア」である。

【ガンダムやエヴァとの比較】
 SF作家の山本弘やアニメ評論家の氷川竜介は『まどマギ』をロボットアニメ史における『機動戦士ガンダム』に匹敵すると語り、劇画村塾を主宰する漫画原作者の小池一夫はtwitter上で『新世紀エヴァンゲリオン』以来の作品であると言った。ちなみに『魔法少女まどか☆マギカ公式ガイドブック you are not alone.』の「you are not alone.」は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版・序』のサブタイトル「YOU ARE(NOT)ALONE.」からの引用だと思われる。

【『鬼哭街』と『マギカ』】
 虚淵玄が脚本を手がけたゲーム『鬼哭街』をフルボイス化をはじめリメイクしたDVD-ROM版(二〇一一年五月発売版)初回生産ロット特典のオーディオコメンタリー「鬼哭街 音頻評論DVD」のなかで虚淵は「こんな報われない話書いたやつは『まどか☆マギカ』観て反省したほうがいい」と冗談まじりに語っている。

【喜多村英梨】
 EARLY WING所属の声優。『まどマギ』では美樹さやかを演じた。シャフト作品では『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』ネリー役、『化物語』阿良々木火憐も演じる。『まどマギ』のオーディションでは杏子やキュゥべえも受けていた。ストーリーに関しては「マルチエンディングのひとつと思っている」「杏子とさやかが違う形で絡んでくる世界もあるんじゃね? と思えばいいかなあって」と語っている。

【キュゥべえ】
 地球人類の思春期の少女を魔法少女にし、魔女を孕ませるためのインキュベーター。蒼樹うめがデザインした段階では口が動くという想定だったほか、目が白く濁った本性バージョンがあった(ハノカゲによるコミカライズ版で使われている)。キュゥべえの背中に卵形の模様があるのは、インキュベーター(孵化器)であることから。最終話で世界が改変されたあと、新房監督は世界の変化のひとつとしてキュゥべえの口が動くようにしようかとも考えていたが、シリーズディレクターの宮本幸裕の反対にあい、その案は却下された。
 新房監督は「キュゥべえって、言ってみればマイケル・サンデルみたいなキャラクターですよね。「あなたはどちらを助けますか?」みたいな部分では。ちょうどあの本を読んでいたので、「ああ、これはわかりやすくていいな」と思ってました」(「SWITCH」一一年七月号)と語っている。
 また、キュゥべえの性格や思想が虚淵に似ているという声に対して虚淵自身は「ひどい言われようですよ」「ただ、自分の中にある要素を切り口にしてキャラクターをつくっているので、何かしら似た部分が出てしまうかも知れません」(「娘TYPE」vol.17)、「確かに打ち合わせのときに、あえて思い込みや感情をはずして、違う意見を言ってみることがあるんです。感情論に流されず、理屈だけで発言するときがあって。そういう僕の発言が、キュゥべえ的に見えるのかもしれませんね」(「ニュータイプ」一一年五月号)とコメントしている。
 なお、悠木碧が自身のブログで擬人化キュゥべえのイラストを描いている。

【Claris】
 アリス☆クララとしてネット動画サイトに動画を投稿していたことから注目され、ソニーマガジンズのアニソン誌「リスアニ!」で発掘された、(当時)女子中学生二人組ユニット。一〇年に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』OPテーマ「irony」を担当。『まどマギ』OPテーマ「コネクト」は七万枚のヒットになった。アニメが放映されるまでは「コネクト」の歌詞がアニメとどうリンクしているのかがわからなかったが、オープニングがラストで使われる第10話を観て、歌詞の意味がほむらやさやかともリンクするものだとわかり、すっきりしたという(ただし新房監督によれば、「コネクト」の歌詞は作品内容を知らないで書かれたものらしい)。「コネクト」は、ほむらの苦しさやつらさと重ねて聴いてほしいとも語っている。また、魔法で願い事を叶えてもらえるとしたら、クララは空を飛べるようにしてもらうか人の心を読めるようにしてほしく、アリスは東京ディズニーランドのシンデレラ城に住ませてほしいとのこと。

【黒田洋介】
 脚本家、小説家。代表作はTVアニメ『機動戦士ガンダム00』『学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD』シリーズ構成など多数。虚淵玄が板野一郎と並んでアニメ脚本を書くさいにもっとも影響を受けた人間のひとりである。たとえば虚淵は黒田から「ト書き一行一カット」という脚本の手法を教わった(ただし)『マギカ』では徹底していなかったところもあったという)。また、『マギカ』は第3話でのマミの死が物語上、最初のターニングポイントだが、虚淵は「第3話を最初のピークにもってきたのは、黒田(洋介)さんの教えなんですよ。僕がゲームのシナリオを担当した「Phantom」をアニメ化したときに、シリーズ構成の黒田さんがTVシリーズの構成術を教えてくださったんです。今回の「まどか」は僕が初のシリーズ構成を担当した作品で、全話脚本を書いた作品なので、黒田メソッドどおりに展開を考えたんです。それが功を奏したわけで」と語っている(「ニュータイプ」一一年五月号)。虚淵は黒田から、小説家と脚本家の二足のわらじはうまくいかないとアドバイスを受け、虚淵の脚本を読み解くことがうまい演出家と組むべきだと言われていた。

【劇団イヌカレー】
 クリエイターユニット。アニメーション演出家の宮本幸裕とは専門学校時代の同級生であり、『絶望先生』のOADを制作するとき宮本から紹介されたことをきっかけにシャフト作品に関わる。アニメ『化物語』、『まりあ†ほりっく』のED、『【懺・】さよなら絶望先生』『【獄・】さよなら絶望先生』などに参加している。メデューサやシンデレラの魔女のようなステレオタイプなイメージから抜けだした異質な魔女を求めていた新房監督の依頼で『マギカ』には参加。新房からは「とにかく変わったものを」というリクエストを受け、あまり魔法少女ものっぽく見えないように気を遣った。「異空間設計」とクレジットされ、プロダクションデザインや本編の映像を一部担当している。切り絵のような魔女、第6話に登場する杏子が遊ぶダンスゲームの筐体のデザインなどを担当。魔女は女性的なイメージ、第12話で世界が改変されたあとに登場する魔獣は男性的なイメージでデザインされた。
 脚本段階ではなかったイヌカレーのアイディアが『マギカ』にはいくつも反映されている。たとえば魔女に名前や設定はなかったが、イヌカレーがつくりこんだ(「暗闇の魔女」「落書きの魔女」など、本編に登場しなかった魔女、本編では使用されなかった設定も『まどマギ』公式サイト内の「魔女図鑑」に掲載されている)。『鏡の国のアリス』や『ファウスト』からの引用もイヌカレーのアイデアである。第9話の最初のほうの魔女が変身するところで譜線が飛ぶが、これは第9話の最後で流れる曲の譜面であり、イヌカレーが劇伴を担当した梶浦由紀に譜面をもらって制作したものである。
 こうしたイヌカレーの出した魔女の設定を汲んで戦闘シーンのシナリオを追加で出したところもあったという(シナリオで「触手で締め上げられる」と書いてあるにもかかわらず、イヌカレーのデザインした魔女には触手がないこともあり、脚本の虚淵まで戻したことも)。
 虚淵は「監督、脚本、キャラデザ原案の組みあわせの意外性ばかりに目が行きがちですが、その3人を繋ぎ合わせるジョイントの役割を果たしてくれているのが、まさに劇団イヌカレーさんならではの映像美術だと思うのです」(「メガミマガジン」一一年二月号)と語っている。
 凝りに凝ったイヌカレーのデザインワークだが、魔女の文字まで解読するファンの存在は予想しておらず、驚いたそうだ。

【原子力】
 アニメ放送前の「アニメディア」一一年三月号のインタビューで脚本の虚淵は「もし虚淵さんが、魔法で何か願いを叶えると言われたら、何を願いますか……?」と訊かれ「いや! ノーサンキューです(きっぱり)。だって……一生電気代をタダにしますと言われて、うんと答えて、その引き換えに自分の家の裏庭に原子炉を置かれたらどうします? つまりは理不尽なモノなんです」「「夢のエネルギー」と言われるものも、結局はいろんな対価やリスクがあるんだろうと思います。かつて原子力がそう思われていたようにね。でもだからと言って、危険なその力をただ否定し封印してしまうのは、自分は間違いだと思う」と答えている。その後、東日本大震災が発生し、放送延期となっていた最終二話(関東では最終三話)で描かれる廃墟が震災を思わせるものだったことから、「SWITCH」一一年七月号のインタビューで「震災以後の視点でこの作品を観ると、どこか今回の原発事故とリンクしているように思えてしまいます」とインタビュアーに言われ、虚淵は「自分は子供の頃から省エネ馬鹿といいますか、結構ヒステリックに電気を節約したりしていたので、原発云々以前に余剰なエネルギーに対する抵抗感というのは常にあります。(中略)この国はエネルギーの使いどころがおかしいでしょ、もうちょっとエネルギーに関してナーバスになってもいいんじゃないか」と語り、脚本には資源に対する意識が顕在化しているかもしれないと漏らしている。余談ながら、たしかに虚淵作品では、電脳都市と化した上海を描いた『鬼哭街』などにおいても電力を浪費する社会に対する揶揄めいた一言が挿入されている。

【公式コミカライズ】
『まどマギ』の公式コミカライズ版は原作:Magica Quartet、作画:ハノカゲで芳文社より刊行された。虚淵の脚本があがったあとアニメの進行がいったんペンディングになったため、最初にかたちが見えたのはマンガだった。オフィシャルのコミカライズをハノカゲが担当することは早い段階から決まっており、蒼樹のキャラクターデザインが確定する前の、等身が少し低めのバージョンからネームづくりに入っていた。マンガのキュゥべえに白目があり、口を動かしてしゃべるのは蒼樹の原案を元に描いているためで、感情をまったく感じさせないアニメ版よりも表情が豊かである(マンガでは、人類との自然なコミュニケーション手段として擬似的に表情を作りだしているにすぎない、という設定になっている)。また、単行本3巻作業のころからは脚本のみならず絵コンテも見て作業していたが、限られたページ数でアニメと同じことはできないと判断し、アニメとは違う描き方を意図的に行った部分もある。これらの理由により、アニメとは設定や展開、演出、デザインが異なる部分がある(ハノカゲいわく「漫画版まどか☆マギカはアニメ自体のコミカライズではなく脚本派生のコミカライズという変わった形態」「アニメ版と漫画版、物語は同じだけれども描写は幾つか異なるという、いわゆる2つの並行世界だと思って頂ければ良いのではないでしょうか」とのこと。マンガ『魔法少女まどか☆マギカ③』あとがきより))。マミの死亡シーンなどはマミが流血した姿を描いており、アニメ以上に残酷であるとの評価を受けた。アニメ版のグリーフシードやソウルジェムのかたちがなかなか決まらず、またマミの武器が銃器になるとは思っていなかったため、ハノカゲはそれらの修正や調整に苦労したという。虚淵玄によれば、アニメでは尺の都合でカットされたせりふもマンガでは生きているほか、劇団イヌカレーによれば本編に未登場の「犬の魔女」はコミック版でさやかにしばかれている。

【公式スピンアウト】
 原案:Magica Quartet、漫画:ムラ黒江の『魔法少女おりこ☆マギカ』、原案:Magica Quartet、原作:平松正樹、画:天杉貴志の『魔法少女かずみ☆マギカ』のふたつの公式スピンアウトコミックスが展開され、いずれも芳文社より刊行されている。虚淵玄は、ほうきにまたがって飛んだりするのはアニメでもやらないのでナシにしてほしいという細かい点以外はあまりリクエストを出さず、自由に描いてもらったという。
『おりこ☆マギカ』は杏子と母親から虐待を受けている幼女ゆま、魔法少女の織莉子と"魔法少女狩り"に勤しむキリカ、ほむらとまどかという三組の少女たちを中心に展開される物語である。本編以上にダークでグロテスクな描写が特徴と言える。
『かずみ☆マギカ』は記憶喪失の少女かずみが魔法少女として活躍する。かずみが「リーミティ・エステールニ」と叫んで放つほかそれぞれの魔法少女に必殺技がある(アニメ本編ではマミの「ティロ・フィナーレ」以外はなかった)など、もっとも「魔法少女もの」らしく、虚淵が当初依頼された「魔法少女同士のバトルロイヤルもの」にもっとも近い内容の作品となっている。脚本を手がけた平松が虚淵の脚本を読んだときの印象は「新しい切り口で面白い!」だったが、謎や世界の仕組みが本編で語り尽くされるため、スピンオフで新鮮さを驚きをつくるのが難しいと感じていたという。

【斎藤千和】
 アイムエンタープライズ所属の声優。『まどマギ』では暁美ほむらを演じる。シャフト作品では『化物語』戦場ヶ原ひたぎ、『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』三枝由紀なども演じる。『まどマギ』のオーディションではキュゥべえと恭介を受けていたが、脚本の虚淵から声がかかり、ほむらも受けたところ、役が決まった。オーディションの現場にプロットがあったことを知らず、3話でマミが死んだときにはひとりだけ驚いていたという。第10話のまどかのソウルジェムを壊すシーンの芝居を聴いた音響監督の鶴岡陽太は、当初台本にはSE処理と書いてあったがほかの音を入れず、ほむらの叫び声だけに任せた。『ダンス~』では孤高の吸血鬼の姫を悠木碧が、普通の人間の女の子を斎藤が演じていたため、『まどマギ』でも阿吽の呼吸ができていたのではないかと新房監督は語っている。

【最終話の放送】
 三月一一日に発生した東日本大震災のために放送が延期され、四月二二日を皮切りに、未放送だった最終二話(関東圏では最終三話)が放映された。この放送日に合わせ、新聞各紙に一面を使った大々的な広告が打たれている。

【佐倉杏子の設定】
 脚本の虚淵によれば、杏子は人に話を聞いてほしいという願いをかなえたため、眩惑や幻覚系統の魔法をもっていたが、家族を失ったことでその力を否定してしまい、本来の魔力を失い、後付けで学んだ魔法の力だけで戦っているという裏設定があるという(なお、家族を失うまえの姿はBD・DVD5巻収録の特典ドラマCDで描かれている)。杏子はいつも何かを食べているが、これは窃盗や強盗によって手にいれたものだとも語っている(リンゴをかじっていることから新房は「杏子は脚本だけ見ると、出崎(統)監督の作品に出てくるかのようなキャラクターなんですよね」とBD『魔法少女まどか☆マギカ5』ブックレットでコメントしている)。杏子とさやかが食いちがった状態からはじまり、根がいっしょであるがゆえにともに終わる、というのは当初から意図されたものだった(『オトナアニメ』vol.21)。また、杏子の武器は脚本段階では「槍」としか書かれていなかったが、第5話では蛇腹の多節棍になっている。演出段階での変化であるため、虚淵が手がけた小説『ブラックラグーン 罪深き魔術師(ウィザード)の哀歌(バラード)』(原作:広江礼威)に登場する陸韜(ルタオ)の武器が三節棍だったことを連想して語るのは誤りのようだ。

【三月一一日】
 関東では第10話の放送予定日の昼に大地震が発生したため、放送が見送りになった。新房監督はその日、住まいとしているマンションが工事のために計画停電する予定であり、自分の作品の放送が録画できないなんてはじめてだ……と思っていたが、地震のため工事も停電も、放送もなくなった。なお、新房監督は福島県出身である。

【主人公交代】
 脚本の虚淵は「アニメージュ」一一年六月号で「10話目から、実はまどかからほむらへ、こっそり主人公交代、というイメージもあったんです」「何となく主人公交代劇というのも好きですし(笑)」とコメントしている。虚淵がシリーズ構成を板野一郎とともに手がけた『ブラスレイター』はたしかにスポットが主にあたるキャラクターが替わっていく作品である。ただし新房は「それは僕にも少しあるけど、やっぱりまどかが主人公で、ほむらヒロインという図式がしっくりくるかなと思います」とコメントしている。

【『STEINS;GATE』とのコラボレーション】
 TVアニメ『STEINS;GATE』の公式サイトに『マギカ』とのコラボイラストが掲載されていた。『STEINS;GATE』の原作は虚淵玄の所属するNitro+が5pb.(現MAGES.)と開発・発売したゲームである。

【新房昭之】
 アニメーション監督。代表作に『化物語』、『魔法少女リリカルなのは』(第1期)、『荒川アンダー ザ ブリッジ』など多数。『まどマギ』はハードなストーリー展開とかわいい画の融合が特徴だが、新房監督は「煽りで撮ったり、レンズを歪ませたり、もっと複雑な表情をつけたいというときに、美少女ものの絵柄だとそうもいかないところがある」という難しさを自覚し、アニメーターの力に頼るしかないと考えていた。また、魔女の空間は自身のオリジナルアニメ『コゼットの肖像』風にしようかと思っていたが、劇団イヌカレーにやってもらうことになり、そうではなくした、と『オトナアニメ』vol.20で語っている。しかし『魔法少女まどか☆マギカ公式ガイドブック』の座談会では、イヌカレーを含めた美術設定の打ち合わせの議事録には「『まどかマギカ』は、『リリカルなのは』とは違うイメージで、『コゼットの肖像』の延長戦にある作品として」と記録されていたことが明らかになっている。
 脚本の虚淵は、新房の仕事のしかたについて「僕が今までごいっしょしたアニメの監督というと『ブラスレイター』の板野一郎さんや『ファントム』の真下耕一さんになるんですが、おふたりとも「こうやりたいんだ!」と強烈なイメージを持っているんです。だから、こちらが監督の指向をリサーチすることで、脚本を書くことができたんですが、新房監督はこちらの出方待ちみたいな感じで」(『キャラ☆メル[フェブリ]vol.06)、「自分は「Phantom」や「ブラスレイター」の経験から、アニメの脚本家とは基本のスタンスはインタビュアーだと思っていたんですね。監督から話を聞き出して、監督がやりたいことに目星をつけて、それを一本の筋道を通した脚本に文字起こしをしていくことが、アニメの脚本家の仕事だと思っていたんです。ところが新房監督はしゃべってくれないんですよ」「あとから、その真意がわかったんですが。新房監督は脚本家から出てくるものを、できるかぎり引っ張り出して映像化しようとしていたんですね。だから「まどか」では自分の手がかりになるオーダーはほとんどありませんでした」(「ニュータイプ」一一年七月号)、「一番すごいと思った言葉は『作ってみないと、どんな絵になるかわかんないんだよね』と、サラッと言ってのけた時でしょうか」(「B.L.T」一一年六月号)と語っている。
 新房は『まどマギ』がヒットするかどうか、放送前には自信をもっていなかったようだ。「大体3話の展開で、ファンに見放されるか受け入れられるか判断するんだけど。『まどか』はドキドキでしたよ。そしたら受け入れられて。ものすごいヒットの予感がしたときに、ああよかったと思いましたもん。ほっとした。『まどか』は、作っててもけっこうつらくて。これで見放されたらどうしていいかわかんないっていうぐらい怖かった」(「Cut」一一年七月号)。

【続編】
 脚本の虚淵は三月一三日収録のインタビューでは「今は必死に次の「まどか」の展開を考えているところです」と語り(「ニュータイプ」一一年五月号)、プロデューサーの岩上は「「Magica Quartet」の皆さんがやるというのであれば、喜んでやりますよ。僕も観たいし(笑)。(中略)具体的には、まだ何もない状態です」(「メガミマガジン」一一年四月号)と言い、新房監督は第12話の収録を終えて「思ったよりもあっけなく終わったような気もします。もっと次の「まどか」が見たくなりましたね」(「ニュータイプ」一一年六月号)と語っている。

【タイトル】
 脚本の虚淵が用意していた仮タイトルは「魔法少女黙示録まどかマギカ」だったが、スタッフのあいだで「さすがに黙示録はやめよう」という話になり現行タイトルになった。新房は王道から外れたなんでもありな作品ではなく「魔法少女」というカテゴリーに入るものにしたかったため、タイトルに「魔法少女」という文字は絶対に必要、でなければやる意味はない、というくらいに重要視していた。
 また、各話のサブタイトルはせりふからの引用だが、虚淵によれば手抜きでそうしていただけで改めて考えるつもりだったが、そのまま残ってしまったものだという。

【タルタロス】
 オンラインゲームポータルサイトMK-STYLEで提供されているオンラインゲーム「タルタロス」のタイアップ企画で『マギカ』のキャラクターが登場している。

【男性向けではない】
 BD・DVD第2巻収録の第4話オーディオコメンタリーによれば、脚本の虚淵は『まどマギ』を男性向けの作品とは意識しないでつくった、男の子が観たがるきれいな女の子ばかりが出る話にはしないようにしたという。とはいえ『キャラメル[フェブリ]』vol.06では、女性を意識して書いたわけでもないとも発言している。「だって、『まどか』の登場人物を全部男にして広東語をしゃべらせたら、完全に香港映画ですよ。兄貴分に目の前で死なれて暴走する野心家とか。その野心家を止めたいんだけど、あいにく自分はオトリ捜査官とか……。ジョン・ウーの世界そのものじゃないですか(笑)」

【血溜まりスケッチ】
『まどマギ』は、シリーズ構成を手がけるのが登場人物が次々と死に至る作風で知られる虚淵玄と発表されて以来、蒼樹うめの『ひだまりスケッチ』をもじって「血溜まりスケッチ」と呼ぶ人間が続出した。なお、『ひだまり』本編にも「ひだまり荘」はかつて「血溜まり荘」と呼ばれていた、というエピソードがある。

【DVD初週売上記録】
 五月二四日に発売されたBD、DVD第一巻は初週売上で五万四〇〇〇枚を超え、『化物語』の持っていた歴代売上記録(初速)を更新した。

【ティロ・フィナーレ】
 マミが必殺技で攻撃するさいのかけ声。意味はイタリア語で「最後の射撃」。当初は「アルティマシュート」という名前だったが、脚本の虚淵がかっこわるいのではないかと考え、アフレコ直前に変更した。さやかと杏子を演じた喜多村英梨や野中藍は「ティロ・フィナーレ」的な必殺技があるとよかった、技名とか言いたかった、と語っているが、虚淵によればマミのかけ声は普通の魔法少女ものに見せかけるというミスリードのためのものにすぎず、ゆえに第4話以降で魔法少女が叫ぶ必要がなかったとのこと(ただしBD・DVD第三巻特典のドラマCD「サニーデイ ライフ」では、まどかはマミみたいになりたいと思い、ノートに必殺技の名前を書き記しているという話題が出るほか、杏子も必殺技名を叫ぶ)。なお、かならずしも「必殺技」ではないだろうが、新房監督は、魔法少女ものなのだから魔法を使うときに呪文を唱えさせればよかったのではないかと後悔している。
 また、二〇一一年夏のコミックマーケットでは『ティロ・フィナーレ』という名前のオフィシャル同人誌が制作された。関係者のコメント、アニメ演出家の小松田大全、マンガ家の椎名高志や吾妻ひでお、作家/脚本家の辻真先、アニメ評論家の藤津亮太や氷川竜介による考察などが掲載されている。

【咎狗の血】
 MBSほかで放映されていたアニメ『咎狗の血』の放映枠内のCMで、二〇一〇年一一月一週から『まどマギ』の登場キャラクターのビジュアルやキャストなどのじょうほうがひとりずつ公開されていった。『咎狗の血』の原作は虚淵が所属するNitro+制作のゲームである(ブランド名はNitro+CHiRAL)。

【どこのビル・ゲイツだよ!?】
 虚淵玄のシナリオから絵コンテに起こされた段階で、まどかの家や通学路、学校のデザインはかなりの変更があった。これは新房監督の「美術も学校や家といったおなじみの舞台であっても、新しく感じられるようなデザインを大事にしました。たとえば洗面所で会話するシーンでも、狭い洗面所で顔を見合わせて会話するのではおもしろくない。いかにひとつひとつのシーンをおもしろい空間にできないかを考えて行きました」(BD・DVD「魔法少女まどか☆マギカ1」ブックレット)という意図から。まどかの家も設定上は普通の家庭だったはずが、映像を見た虚淵は「「どこのビル・ゲイツだよ!?」って感じでしたよね(笑)」と漏らしている(「メガミマガジン」一一年三月号)。どの建物にもドバイやアメリカ、欧州にモデルがある。

【巴マミの死】
 第3話でまどかやさやかの導き手だったマミが魔女に殺される。これについて新房監督は「蒼樹さんのかわいらしいキャラクターであのシーンをやるというのは、賭けに近かったです」(「SWITCH」一一年7月号)とコメントしている。また脚本の虚淵は「僕らは、さまざまなアニメで「死」の洗礼を受けてきたので、ちょっと空気読めてなかったかなと思いました」(「娘TYPE」vol.17)、「『天元突破グレンラガン』でカミナが死んだのと同じですよ。やっぱり最初の導き手は早々に立ち去らないと、あとに続く者の話になっていきませんから、やむを得ないところもあるんですよね」(「メガミマガジン」一一年三月号)、「マミの死はグロい物を見せたかったわけじゃなく「ひとつ油断するとこうなるよ」という無常感が重要だったんです。また「絶対に生き返りません」ということを明示するために、あの死に方が必要だったというものあります」(「メガミマガジン」一一年五月号別冊付録「魔法少女まどか☆マギカスペシャルブック」)と語っている。

【ドラマCD】
 BD・DVD特典には奇数巻にドラマCDが、偶数巻にサントラがついている。
 一巻のドラマCD「メモリーズオブユー」(脚本:平松正樹、監修:虚淵玄)は、魔法少女になる以前のほむらが見滝原中学に転校してくる話である(アニメの第10話とつながる物語である)。冒頭から黒猫が登場するが、これはオープニングアニメに登場する黒猫がいったいなんなのかという考察がネット上で渦巻いたことを受けてのものである。まどかは黒猫をエイミーと呼んでいるが、この猫を助けるために彼女は魔法少女になった。そのエイミーが、ほむらが最初に「ワルプルギスの夜」に遭遇する夜、まどかたちの元へと導く。なお、マミがなぜ「ワルプルギスの夜」襲来のことを知っているのかという謎はここでは明かされていない。
 三巻のドラマCD「サニーデイ ライフ」(脚本:大嶋実句、監修:虚淵玄)はまどかとさやかが魔法少女になったあと、テストで赤点を取るところから始まり、追試対策にマミの家でみんなで――五人勢揃いする――勉強しようとする、というストーリーである。一巻ドラマCDではまどかとさやかがほむらに仁美のノートを貸すシーンがあるが、三巻ドラマCDでは仁美が「私、ライバルには対等にいていただきたいの」と言ってさやかにノートを貸そうとするも、悔しがったさやかがそれを断り、まどかが嘆く(これらのノートのエピソードは、アニメ第10話でほむらがノートを借りておきなさいと教師から言われることを受けてのものだろう)。その後、下着ドロボウの使い魔と思われる存在を魔法少女たちが追いかけ(マミがティロ・フィナーレまでぶっ放す)、キュゥべえがマミのつくったパスタを食べて「おかわりができるのかい!?」と驚き、また、魔法少女たちが自分たちについてメタ的な言及をするというコミカルな展開が繰り広げられる。一巻ドラマCDに続き黒猫ネタの話でもあるが、まどかが初めて出会うようなせりふまわしをしているため、「メモリーズオブユー」の黒猫とは違う猫だと思われる(別の時空間であることは確定的である)。
 五巻のドラマCD「フェアウェル・ストーリー」(脚本:平松正樹、監修:虚淵玄)は、実はマミと出会う前のまどかやさやか、死ぬ前のマミと魔法少女になりたての杏子が出会っていたという内容の(そういう時間軸の?)物語である。見滝原に魔女を追ってまぎれこんだ杏子は、そこで出会った先輩魔法少女であるマミの戦い方などに憧れ、コンビを組むようになる。特訓でパワーアップした杏子の多重分身の術をマミは「ロスト・ファンタズマ」と名づけるも、杏子はどうかと思うという反応をするが、結局のところ渋々必殺技を叫びながら戦うことになる。

【野中藍】
 青二プロダクション所属の声優。『まどマギ』では佐倉杏子を演じた。シャフト作品では『さよなら絶望先生』風浦可符香、『電波女と青春男』藤和女々役も演じている。『まどマギ』オーディション時はストーリーの資料はざっと読んだくらいで、蒼樹うめの画をみてかわいらしいキラキラした魔法少女ものかなと思い、杏子だけが昔の不良のような言葉づかいでまわりと違う感じがしたので杏子を受けた。受かったのちに、そもそもキラキラした物語ではなかったことに驚いたという。新房監督いわく「杏子は過激な言動のキャラクターなので、野中さんの声芝居でバランスが取れたと思います」(BD『魔法少女まどか☆マギカ3』ブックレット)、鶴岡音響監督いわく「野中がああいうキャラをやっているところが萌えポイントなんだよ」。

【ノベライズ】
 著:一肇、イラスト:ゆーぽん、監修:虚淵玄で上下巻のノベライズが刊行されている。上巻の解説は田中ロミオ。帯は上巻が悠木碧、下巻が斎藤千和。一一年夏のコミックマーケットで発売。ノベライズ版はアニメとはいくつかの点で異なる。
 たとえば、魔女の名前をキュゥべえがまどかたちに教え、「"造園"の使い魔と、"警戒"の使い魔を従え、誰も住まぬ廃墟を好み、その性質は"不信"を司るんだ」などと解説する。
 また、魔法少女たちはテレパシーで通信できるだけでなく、脳内にほかの魔法少女たちの心情や心象風景が流れ込む/流すことができる。これはまどかの一人称で書ききるための工夫だろう。同様の工夫は、杏子がさやかの死体を前にキュゥべえにさやかのソウルジェムを取り戻す方法はないかと問い、「僕の知る限りではないね」と答えられるシーンをまどかへ会話を通じて伝えるといった演出にもみられる。
 なお、同様のスタッフによるスピンオフ短篇の小説が「メガミマガジン」一一年四月号に掲載されている。

【パジャマ】
 まどかのパジャマは第1話と第2話で色が違う。

【ハッピーエンド】
『まどマギ』のラストについては新房監督も脚本の虚淵もハッピーエンドだと思っている。虚淵は、とはいえ生き返らなかったキャラもいるため、完全無欠でないことは認めざるをえない、と語っているほか、人類とキュゥべえどちらかが破滅するような結末であったなら、それはバッドエンディングだと思う、とも語っている。プロデューサーの岩上や新房監督はアフレコの途中からさやかを気に入ってしまい、どうにかしてさやかを生き返させられないかなと言っていたが、虚淵は世界観の理屈からいってムリだと思っていた。「どっちみち魔法少女になっている以上、あの段階で生きているほむらも杏子もマミもさやかと同じ運命を辿ることになるわけですから。ちょっとそこに時間差があると、ただそれだけの話なんですよね。(中略)だから生き返らせてくれというオーダーにはそれこそ「わけがわからないよ」と答えるしかないんです、「なぜ君たちはキャラクターの生き死ににこだわるんだり?」と訊き返したくなりますね(笑)」(「ブラックパスト」)。悠木碧は「残酷な出来事があったり、思いやりが悲しい方向にしかいかなかったりと、確かにつらいお話ではあったと思うのですが、最後はすごくいい終わり方だったんじゃないかなと思いました。人間が人間らしく解決したんだなって」(「B.L.T」一一年六月号)と語っている。声優陣はラストにほむらとキュゥべえという予想外の組みあわせが登場したため、「ほむキュゥEND」と呼んでいたという。

【ファウスト】
 ゲーテ作の長篇戯曲。『まどマギ』では魔女「ワルプルギスの夜」のなか(上?)で『ファウスト』が上演されていることをはじめ、いくつか同作からの引用がみられる(そもそも「ワルプルギスの夜」自体がここからの引用か)。第2話で魔女に魅入られた女性が入っていくビルの壁に書かれているドイツ語は『ファウスト』第一部の一節。第8話でほむらと杏子がワルプルギスの夜について話し合うシーンでは魔女のシルエットが示されるが、『ファウスト』に登場する「魔女たちの九九」が表示されている。第11話では『ファウスト』第一部の発狂したマルガレーテのせりふからの引用がある。

【BD・DVD修正】
 シャフト作品ではパッケージ版で大幅に映像に修正が入ることが常であり、『まどマギ』でも大量の修正が施されている。たとえば放送後にイヌカレーが申し出たため、修正したマミを殺した「お菓子の魔女」はTV放映時では目の色が黒だったがパッケージ版では緑になっている。作画だけでなく、TV放映時には第6話序盤でさやかとキュゥべえのやりとりのなかでグリーフシードとソウルジェムを混同しているように取れるせりふがあったが、視聴者からの指摘を受け、パッケージ版では修正されている。

【ホスト】
 第8話でさやかが電車のなかでホストに詰め寄るシーンがあり、その後ソウルジェムが黒くなっている。これについて脚本の虚淵は殺したとも殺していないとも決めていなかったが、アニメでは新房監督は「殺していない」と虚淵に明言しており、ハノカゲによるコミカライズ版ではさやかが血まみれの剣を引きずっているため殺したことが推測される。なお、ホストの会話は虚淵が満員電車に乗っていたときに聞こえてきた実話をもとに書かれている。

【ほむらの能力設定】
 ほむらは盾にしまえる武器しか装備できない、と脚本の虚淵は考えていたため、河の中からミサイルランチャーを出してくる第11話の絵コンテを見て、プロデューサーの岩上に、これはやりすぎではないか? という内容のメールをはじめて送った。しかし、映像に勢いが出るならいいかと思い直し、現行の映像になった。
 また、ほむらの盾に見えている武器が、砂時計である。ほむらは砂の流れを遮断することで時間を止めている。この砂時計の上部分の砂が全部なくなった時点でひっくりかえすと一か月分の時間が戻る。虚淵によれば、巻き戻った時間については厳密に考えられていないが、世界は並行して分岐しているらしい。

【マザー・グース】
 第6話でキュゥべえがまどかを呼ぶに来たとき、まどかがパソコンに打ち込んでいたのは『マザー・グース』の一節である。

【魔女がループすると変わっている理由】
『まどマギ』ではほむらの能力で時間がループしているにもかかわらず、登場する魔女はワルプルギスの夜をのぞけばほぼ変わっており、同じ魔女が登場しない。これについて劇団イヌカレーは「……そういえばそうですね……思いつきませんでした。シナリオ上のループも単純な繰り返しとは感じなかったので、魔女にもそれをかなり反映させております。あとはサービス精神です」(「ニュータイプ」一一年七月号)と語っている。

【魔女の手下のせりふ】
 第2話でまどかとさやかが魔女の結界に入っていくところで通称「ひげおじさん」(ひげの使い魔)が出てくるが、ドイツ語で「悪いお花はギロチン送り」「チョン切ってしまおうか」などと言っている。なお、ひげは1話でマミが全滅されるが、最終話にも登場する。最終話アフレコ時には声優陣から「ヒゲ生きてたんだー」「ヒゲの人形欲しい!」などと大人気だったという。

【マスケット銃】
 マミの武器。蒼樹うめによれば当初マミの武器は大砲だったというが、シリーズディレクターの宮本幸裕によれば脚本の虚淵のアイディアでマスケット銃になった。マスケット銃は連射できないが、虚淵は魔法だから連射できるだろうと考えていたところ、演出段階の判断で何丁も出すスタイルになった。

【祭り】
 四月二二日未明の関東圏での完結篇放送時には2ちゃんねるやニコニコ動画、twitterなどで実況する者が続出し、祭りの様相を呈した。これについて新房監督は、現場は毎週放送されるものとして第11話、最終話をつくっていたので、毎週一回ずつ放送してほしかったという気持ちもある、第11話のラストの引きのドキドキをもっと味わって欲しかったと語っている。また、脚本の虚淵は「街角テレビで力道山のプロレス見てるような、ああいう一体感というかお祭り感があって、オンエアをひとつのイベントとして楽しむという感覚ですよね。アニメ本編の内容以外のところでの楽しみ方というか、ある意味興業的な感じが出てきているように思います。(中略)自分はわりと映像体験は個人的なものだという思いがありまして、ただ、そういう思いは時代遅れになってしまうのかなという気はします」(「SWITCH」一一年七月号)とコメントしている。

【まどかのノートの絵】
 悠木碧の手によるものである。あまりうまく描かないでほしいというオーダーがあったため、漫画研究会所属だった腕は発揮されていないとのこと。なおノートの表紙は蒼樹うめが描いている。その時点でまどかが観たことがある魔法少女の絵を描いたもの、という設定のため、さやかの姿は描かれていない。

【まどかの母親(鹿目詢子)の設定】
 朝の弱いキャリアウーマンという設定である。脚本の虚淵は「まどかの両親はセクシャリティの逆転した関係を意識していました。強いお母さんと優しいお父さん。単なる遊び心から思いついた関係性だったんですが。結果的に「魔法少女」の家族らしくなりましたね。強いお母さんの下ならば、根性のある女の子がいてもいいだろうな、と」(BD『魔法少女まどか☆マギカ4』ブックレットでの新房監督との対談での発言)と語っている。
 また新房と虚淵は「できれば、お母さんの会社乗っ取り編を描いてみたいんですよね」「お母さんがキュゥべえと組んで。キュゥべえに人間のだまし方を教わりながら、会社を乗っ取るんです」とも言っている。しかし疑問なのは本編第2話での「営業部にさえしっかり根回ししとけば、企画部と総務は言いなりだし……そうなると問題は経理のハゲかぁ。ふむ……」というせりふである。会社の社長(代表取締役)になるには取締役会の決議で取締役の中から選出されねばならず、営業部や企画部、総務部など部をいくら傀儡にしようと代表取締役にはなれないはずである(機能別組織で各部から取締役が選出される体制が慣例化しており、まどかの母親も取締役であるとかなら話は別だが)。つまりまどかの母親が夢想しているのは「乗っ取り」というより正確には主要な人材を引き抜いた「独立」と言うべきなのではないかと思われる。

【まどかは概念になる】
 第12話の脚本には「まどかは概念になる」「虚無の空間」というような抽象的なことしか書いておらず、具体的な演出は映像スタッフに委ねられた。脚本の虚淵が板野一郎から受けた「どんな映像になるのかわからないような脚本は書いちゃだめだ」という教えを破って書いたものである。新房監督は最終話の脚本を最初に読んだときに『2001年宇宙の旅』を連想したという。
 虚淵によれば、まどかが概念になったあとの「最終話Cパートの脚本は、自分としては映画『ブレイド』のラストシーンみたいなイメージを持っていたんです。「魔法少女の戦いは続く」……みたいな。でも、できあがった映像はすさまじくて、脚本を書いたこちらも驚きました」(『キャラ☆メル[フェブリ]vol.06)とのこと。

【魔法少女もの】
 新房監督はプロデューサーの岩上と前々から魔法少女ものか探偵ものをやりたいと考えていた。最近の魔法少女ものはアクションの要素が強くなっているため、魔法合戦みたいな作品があってもいいかな、と思っていたという。『マギカ』放送後には「今回はオーソドックスな「魔法少女」とは違う部分で勝負していたところがあるけれど、もっと定番っぽい「魔法少女もの」もいいかもしれないですね。たとえば、まどかたちが魔法少女としてちゃんと活躍する話をもっと見たくなりました」(「ニュータイプ」一一年五月号)と語っている。
 蒼樹うめは小さいころに見ていた魔法少女作品がなく、『魔法先生ネギま!』のような近年の作品を前提としてデザインを進めた。
 脚本の虚淵は、魔法少女の幼少体験はメルヘンちっくな『魔法使いサリー』、一番印象に残っているのは敵キャラが真っ黒焦げになって焼け死んだりする殺伐とした空気もあった『魔女っ子メグちゃん』だったため、『美少女戦士セーラームーン』以降の戦闘美少女作品は意外なものに映り、魔法少女といえば癒し系や萌え系というより「怖いもの」だったという。また、虚淵にとって「魔法少女もの」は、依頼されるまでまさか自分が書くことになるジャンルだとは思っておらず、依頼を受けてからTVアニメ第一期を新房が監督している『魔法少女リリカルなのは』を観た。「そもそも『魔法少女モノ』の皮を被った全然別物の物語、という意識で脚本を書いたので、シナリオライターの立場としては、根源的には魔法少女モノではないと思っています。まぁ亜流として、こんなのもアリかとは思いますが」(「B.L.T」一一年六月号)。主人公が魔法少女に変身しない魔法少女もの、というアイディアは虚淵に最初からあり、「『後悔する物語』ではなく『決断する物語』にしたいという思惑と、『魔法少女になることが大きなリスクを伴う』という設定とが噛み合わさった結果、主人公の変身が物語のクライマックスになることが必然的に決まりました」(「B.L.T」同号)とのこと。

【水橋かおり】
 アーツビジョン所属の声優。『まどマギ』では巴マミと、まどかの弟タツヤを演じた。シャフト作品では『ひだまりスケッチ』宮子も演じる。死ぬキャラクターを演じたのは『まどマギ』が初である。オーディションでは恭介とキュゥべえも受けていたが、オーディション時にマミの設定を聞いて、演じたくなったため、決まってうれしかった。マミ以外では、親のため家族のために何かを願う杏子が自分に近くて好きだという。

【宮本幸裕】
 アニメーション演出家。『まどマギ』のシリーズディレクター。TVアニメ『ネギま!?』に各話演出として参加以来、シャフト作品を中心に活動。シャフト作品で第一話の演出を担当することが多く「シャフトの鉄砲玉」と呼ばれているほか、シャフトを代表する食いしん坊キャラでもある。アニメ『荒川アンダー ザ ブリッジ』や『電波女と青春男』の作業をしていたところ、突然依頼され、ギリギリのタイミングでやることに決まったため、放映前の段階から「自分の限界を超えた仕事内容ですが、一生懸命がんばりたいと思います」(「ニュータイプ」一一年一月号)とコメントしていた。新房監督からは「人を殺したキャラは幸せになっちゃいけない」というオーダーを受けて取り組んだという。自身では第5話の魔法少女同士の戦闘シーンが気に入っている。宮本は戦闘シーンの駆け引きを考えるのが好きであり、さやかはスピード&パワー型だが技術が低く、杏子は同じくスピード&パワー型ながら技術が高い。しかし回復力や防御力はさやかのほうが高く、杏子は防御力が低い……というようなことを描けたことに満足しているようだ。また、ほかにエピソードとしては、ふだんは設定を照らし合わせて全体をコントロールする立場の宮本が、魔法少女と魔女の戦闘シーンがヒートアップする第11話の絵コンテアップ後の打ち合わせでは「いいんじゃないですかね!」と「はしゃいでいました」(新房監督の弁。『キャラ☆メル[フェブリ]』vol.06による)。

【ヤクザもの】
 脚本の虚淵は「「まどか」の場合、プロットラインとしては完全にヤクザものなんですが、少女をメインに置くことで任侠とはひと味違う物語を産み出せたなと思っています」と語っている(「ブラックパスト」)。

【悠木碧】
 プロ・フィット所属の女性声優。『まどマギ』では鹿目まどか役を演じた。また、第5話の落書きの魔女の手下も演じている(劇団イヌカレーから「可能な限りアホっぽく」というオーダーを受けた)。シャフト作品では『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』ミナ・ツェペッシュも演じる。オーディション時点でシナリオチャートがあったため、シビアな展開があることを知ったうえで臨んだという。脚本の虚淵は「かわいい女の子として役を作っていない感じがまどからしい」「汚い部分も、男の子に見せたくない部分も、全部ひっくるめて女の子を演じているところがよかった」と推した。芝居をするうえで「普通の女の子」という部分は守り抜こうと思っていた。話が暗くなっていくことを知っていたため序盤から暗めにまどかを演じていたが、音響監督の鶴岡陽太からは「もっと明るくていい子にしてください」「まどかの『普通の女の子』というところを指針にみんながキャラを定めていくから、悠木が一番心を強く持て、悠木さえ大丈夫だったら大丈夫だから。ブレるな」と言われたという。また、新房監督からはなぜか常に、メガネをかけていてくれ、と言われていた。

【予告イラストギャラリー】
『まどマギ』では次回予告のさいにイラストギャラリーが展開された。第一話はハノカゲ、第二話は氷川へきる、第三話は津路参汰(ニトロプラス)、第四話は小林尽、第五話はゆーぽん(ニトロプラス)、第六話はウエダハジメ、第七話は天杉貴志、第八話は藤真拓哉(協力:田中研太郎)、第九話はなまにくATK(ニトロプラス)、第十話はムラ黒江、第一一話はブリキ、第一二話は蒼樹うめ。シャフトや脚本の虚淵(ニトロプラス)にゆかりのある人物ばかりである。

【ワルプルギスの夜】
 作中に登場する、「舞台装置の魔女」の通称。歴史のなかで語り継がれる謎の魔女。元々はひとりの魔女だが、いくつかの魔女同士がぶつかりあって大きくなった集合的な魔女である。普通の人間には姿が見えないので災害として認識されるようだ。虚淵玄は脚本段階ではゴジラのような巨大怪獣を想像しており、「尻尾の一撃」などという記述があったという。劇団イヌカレーによるとスカートの内側、歯車の上部分が舞台になっていて、手下たちがそこで演劇を上演できるという(本編では使用されていない)。声はマミ役の水橋かおりがあてている。

【参考資料】
「アニメージュ」(徳間書店)一一年五~七月号
「アニメディア」(学研パブリッシング)一一年二、三、五月号
『オトナアニメ』(洋泉社)vol.19~21
「Cut」一一年七月号
『鬼哭街』二〇一一年発売DVD-ROM版(Nitro+)
『キャラ☆メル[フェブリ]』(一迅社)vol.06
「SWITCH」(スイッチ・パブリッシング)一一年七月号
「ティロフィナーレ」(同人誌)
「娘TYPE」(角川書店)vol.17
「ニュータイプ」(角川書店)一一年一、三~八月号
「B.L.T」一一年六月号
「ブラックパスト」(同人誌)
『魔法少女おりこ☆マギカ』(原案Magica Quartet、漫画ムラ黒江/芳文社)1~2巻
『魔法少女かずみ☆マドカ』(原案Magica Quartet、原作平松正樹、画天杉貴志/芳文社)1巻
『魔法少女まどか☆マギカ』(原作Magiva Quartet、作画ハノカゲ/芳文社)
「魔法少女まどか☆マギカ」(アニプレックス)BlurayDisc1~5
「メガミマガジン」一〇年一二月号、一一年二~四、七、八月号
『リスアニ!』(ソニーマガジンズ)vol.4、5

サポートいただいたお金は次の調査・取材・執筆のために使わせていただきます。